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トゥルイの合図で手榴弾とライフル以外の鹵獲品が並べられた。食料、水は三人百日分、生活必需品。3Dプリンター、バッテリー、ソーラー発電機。天体望遠鏡、パソコン、その他諸々の工具。
衣服を手に取る。非常に上質な手触りに驚いた。見事な刺繍が施されており、同じものを作るとなると職人が何カ月がかりであろうか?それが、二十着以上。これを帝都で売れば一財産だろう。
食料は安全を考え食べる訳にはいかなかったが、全て包装されているところをみると、保存食らしかった。「○ロリーメイト」「カップ○―ドル」と書かれているが、当然皇帝はそれらを読めない。水は透明な容器に入っている。これは何で出来ているのだろうか?叩くが明らかに金属ではない。かといって木材でもない。「○クア○ララ」と書かれている。
食料、水、衣服、寝具、生活用品以外はまったく用途不明のばかりだった。無理もない。中世と言われる時代からこれらの品が登場するのに四〇〇年~五〇〇年の月日がかかる。3Dプリンターにしてもパソコンにしても革命と呼ばれる精密機器である。蒸気機関さえない文明の人間に理解できるはずがなかった。
「ふーむ」
ウルム・カリファは考え込んだ。と、いうより何を質問していいかわからなくなった。前代未聞のことであるし、何より既知の概念、知識を超えているモノが多すぎる。
「ゴホン。あー巨大な貨車があったな?あれはどうやって動いている」
「それも不明であります。説明を求めましたが、どうも理解が追いつかず・・・正式名はトラックです」
「三人は協力的なのか?拷問の類はしてないだろうな?」
「拷問はしていませんが、部下から処刑すべきと声も上がっております。さらに少女、サタケ・ヒカリに不貞を働く輩も現れました。私とモンケ・フラテス十人隊長が食い止め、未遂に終わりました。そのことで、少女は私とフラテスに信頼を置いています。男二人も以外と落ち着いています」
たった三人に部隊を壊滅させられ、かつてない屈辱を味わされた。しかし、兵器を持たなければただの人間。立場が逆転したときの報復欲は性の捌け口、暴力となって表れていた。サタケ・ヒカリは相当な美少女のようだし、放っておけばロリペトに目覚める兵士がさらに出てくるかもしれない。男二人に対しては、なおさら復讐心に掻き立てられるだろう。早急に処遇を決める必要があった。
「あい、わかった。処遇であるが、今後は捕虜ではなく、客人として扱え。彼らの協力がなくては検分もままならん」
トゥルイ以下、将兵全員が驚きの声をあげる。
「よろしいのですか?」
秘書のリリム・バークレイは即座に申し立てをした。
「異論のあるのか?」
「陛下が最終的にお決めになられることなので、異論はありません。しかし、これだけ犠牲を出して捕らえた相手です。いきなり客人対応とはいかがでしょう?戦略的価値はたしかに計り知れないですが、兵は納得しないでしょう、とご忠告申し上げます」
それを異論と言うのだ。とは誰も突っ込まない。彼女はこの場にいる一同の意見を代弁していた。何人かは「よく言ってくれた」と感心している。ウルムはあまり表情をかえず、右の口角を上げる。
「君の意見は正確で的確で、しかも誰も言えないことを言ってくれるので「得がたさ」さえあるのだがな・・・」
「ありがとうございます」
「今回は素直に聞いてもらおうか?仕事が山のようにあるのでね。兵たちも悔しさがあるだろうが、この際前に進むことが重要だ」
一蹴されたリリムは「承知致しました。出過ぎたことを申し上げました。お許しください」と低頭している。
「皆、聞いていたな?思うところがあるだろうが、これより捕虜三名は客人として遇せよ。全軍に徹底し、害したものは理由如何問わず首をはねよ。トゥルイ、貴公は客人を後見し、護衛と世話人を選任しろ。また、帝都まで二カ月かかる。道中暇を持て余す事だろう。着くまでに日常会話に支障がない程度まで仕上げるのだ」
「ははっ!!」
「ヒリツ・バングはニホンという国の軍事、政治、庶民の暮らし等、出来る限り詳細にまとめよ」
「御意・・・」
「ノウエル・ヨーデ、貴公は手榴弾に加えてライフルの検分を行え。メッセ・アインは兵器以外の検分を行え」
「「承知!!」」
それぞれの万人隊長に仕事が振り分けられていく。全員が納得したわけではなかったが、皇帝が言ったように過去に囚われず前に進むことが重要だ。でなければ再度対決するであろう西方諸王国軍に勝つことはできない。遺恨は言わず、与えられた任務を全うしなければならない。
皆がそれぞれの決意を旨にしたとき、解散の前に皇帝は思い出したように命じた。
「ああ、それと少女に不貞を働いた変質者がいたな。そいつは今すぐ首をはねよ」