7-1.捕虜の処遇
「多大な犠牲を払ったが、まずはよくやった。褒めてつかわすぞ。貴公にはさらに金貨一万を下賜する」
「これは・・・私にはもったいないことです。願わくば奮戦した部下と遺族に陛下から直接恵賜いただければと存じます」
戦いから三日明け、トゥルイ万人隊長は臨時報告の席で行賞された。ここは帝国全土に張り巡らされた「駅」の一つである。広大な帝都を往来するにあたり、商人に宿舎や馬の交換など様々な便宜を図りすこぶる評判の良い制度であった。
「よかろう。報奨の件は追って伝える。では、本題に入ろうか?やつらはいったい何者で、どこから来た輩なのか?」
「ははっ!」
待ってましたとばかりに胸を張るが、ここで一息ついた。皇帝と万人隊長ら軍の最高幹部が居並んでいる。直参に加わったとはいえ、トゥルイは未だ新参者。最高幹部軍議の威圧感に気おされそうだったのだ。
「最初は言葉が分からず、理解するのに時間がかかりました。我らの言語はもちろん、西方諸王国で広く使われているルーシ言語もまったく通じませんでした。軍団中から地方言語、西側に通じている者を集めましたが、それも徒労に終わりました。・・・そこで、身振り手振りと絵巻を使い、何とか意思を汲み取ることができました」
皇帝はややイライラしているのか、組んでいる両手の指をトントンと腕に当てた。前置きはいいから早く質問に答えたほうがいい。軍幹部席で控えるノウエル・ヨーデと皇帝秘書リリム・バークレイはそれぞれ目で訴えた。
「実に驚くべきことはわかりました。なんと!彼らは我々とは違う世界からやってきたと判明しました。世界の名は「チキュウ」国の名は「ニホン」。非常に優れた文明をもち、彩り豊かな文化を持つ、我々の世界「アガルタ」とはまったく違う異世界なのであります!!」
議場はざわめきに包まれた。遙彼方の異文明ならまだ分かる。海を越えてやってきたと言われれば納得する。しかし、予想の斜め上すぎた。異世界とはなんぞや?なぜ、この世界にやってきたのか?
はっ?と、この場にいる全員が気付いた。前回の攻城戦、敵は思いもよらぬ兵器を使ってきた。それは既存の概念を覆すもので、剣や弓矢でチマチマ戦っている現代の戦闘を一変させるものだった。なぜ、いきなりそんなものが出てきたのか?答えがここにあった。
今までも噂の耐えない土地柄で、有力貴族レイブン家は天からの使者とさえ言われたものだ。まさか、異世界から知恵を授かっていると誰が想像できるだろう。
ニホンの民は西側諸国に加担しているのだろうか?だとしたら、とても勝ち目がないではないか?
「俄かには信じがたい話であるが、僅か三人に歴戦の戦士三十人が敗北。しかもほとんど討ち取られ、部隊は壊滅。さらに彼らの手土産を見ると信じざるをえんな・・・それにしても異世界人とはな。そんな輩が敵に廻っているのであれば、征西も根本から見直されねば・・・」
「いえ陛下」
興奮冷めやらぬトゥルイは皇帝の弁をさえぎる。
「それほど、ご心配されるには及びませぬ。話を聞く限り、故意に往来できるものでもないとのこと。どうやら仲間を探しにきたとのこと。その仲間も恐らく不慮にこの世界に来たであろうと訴えています。故に積極的に敵に廻っているのではなく、訪問先の庇護を得るため不本意に加担している可能性があります」
であればなんと幸運なことあろうが、どちらにしても既に異世界の知恵は西側に渡っており、さらに兵器類を製造してしまっている。現実の脅威として見なければならない。
「そうであることを祈ろう。ところで、捕虜三人はどうしているか?」
「現在、別々のゲルにて厳重に拘禁しております」
「ふむ。そうだ、名前はなんと申すか?」
「サタケ・コーイチ、サタケ・ヒカリ、タカハシ・シゲルであります」
「前、二人は親子であるな?」
「そのようで・・・」
「それ以外、何か聞き出せたか?」
「兵器の正式名称が判明しています。グランチェで鹵獲した新兵器はシュリュウダン。今回新たに鹵獲した鉄筒はライフルであります。兵器と呼べるものはこの二種類だけ。あとは衣服、食料が大部分を占め、残りは用途不明でありますが、危険物はないかと・・・」
「ふーむ」
皇帝はしばし考え込んだが、直ぐにそれらを全て持ってくるよう命じた。