6‐2
「あいつら諦めてくれたかな?」
「あれだけ戦力差を見せつけられたら、諦めてくれると思うが・・・
ところで君は大丈夫かね?」
「え?私は大丈夫よ」
「いやそうじゃない。精神的に大丈夫か、と聞いてるんだ」
僅か三十分前、初めて人を殺した佐竹ヒカリは、その直後狂ったような笑い声を上げ、敵味方一同を恐れさせた。十三歳でこんな刺激的な体験をして精神が無事なはずがない。そこは教育者として非常に悔いるところだった。
「あんなに威力があるなんて、思ってみなかった。最初はビビったけど、一度やってしまえば何でもないね。私たちが生きるため、仕方ないもん」
こりゃちょっと失敗だったかな・・・
やはりライフルは持たせずさっさと逃げればよかったか。光一が目が覚めたら娘の変わりように驚くだろう。いや、その前に父親の方が精神的に大丈夫かもわからん。
「・・・そうか。流石、夏美さんの娘だ。度胸が据わってるのも母譲りかな?」
「うん、そうね。私、どこでもやっていけそうな気がする」
彼女ならイスラム国を相手にするクルド人部隊でもやっていけそうだ。ISの兵士は女性に殺されることをなにより恐れるらしい。ものすごい戦果をあげそうで逆に怖い。
「それより、敵は増援したように見えたけど」
「うむ、あの岩陰に十人ばかり集まってるようだ」
「どうしよう?」
「そろそろ、潮時だろう。敵とは反対方向に逃げよう」
「了解!
あーもう、お父さん早く起きないかしら。誰の為にこんな面倒事になってると思って・・・」
その時、敵が潜伏しているであろう岩陰から何かが飛んできた。その数、十前後。曲線を描いてこちらに向かってくる。
「弓矢だ!!」
トラックを動かす暇などなかった。あっという間に飛来し、フロントガラスに命中する。割れはしなかったが、大きなクモの巣状のヒビができた。
「きゃ!!」「ぐっ」
さらに矢が飛んでくる。このままでは自分たちも蜂の巣だ。
「くそ、逃げるぞ」
アクセルを踏みぬき、クラッチを勢いよく操作する。唸りを上げるエンジン音が夕刻の空を吹き抜ける。
「あいつら追いかけてきやがる」
岩陰から数騎こちらに向かってくる。茂は西の方へと舵を取る。
「茂さん!一旦止まって。追ってを狙うから」
「ダメだ。すぐ追いつかれる。それに窓から身を乗り出すと危険だ。やつらは後ろから来てるんだぞ。このまま逃げた方がいい」
逆にスピートを上げる。メーターは一気に百キロに乗せた。馬では追いつけないスピードだ。
だが、逃げに徹した茂の思惑は挫かれる。目の前には湿地帯とは言わないが、泥濘がひろがっていたのだ。ガクンとスピードが落ちる巨体。エンジンが唸るが、アスファルトに比べるべくもない。
「くそ、やつらの狙いはこの湿地帯へ誘い込むことだったのか!!これじゃまともに動けん」
「茂さん、停まって!!」
仕方なくトラックを停車させる。しかし、既に騎兵隊が四方から詰め寄って来た。