6‐1.決着
「閣下!ご無事ですか!!?
・・・な!これは!!」
モンケ・フラテスが到着したときは周りには元人間だったであろう死体が転がっていた。二十名いた兵士はトゥルイを除けば、あと一人。その彼、ライアスも片腕を吹き飛ばされ人生最大の窮地に陥っていた。
「そんな、俺の部下たちが・・・」
いつも軽薄なフレッグ・アフマドも流石に動揺している。いつもなら逆に誰かが突っ込みを入れそうものだが、周りの兵士もそんな余裕はないようだ。
トゥルイはライアスをかばい、岩陰に隠れていた。楯としてどれだけ有効かわからないが、なにもないよりマシというものである。彼我の距離は百メルテである。
「お前ら気をつけろ、アレより遙かに威力の勝る兵器だ。一瞬で身体が吹っ飛んでしまった。さらに射程は四十から五十メルテ以上。それでもまったく威力は衰えない」
「そんなまさか。アレ以上の兵器があるとは」
モンケ・フラテスは前の戦いを思い出して、それを上回る脅威に身震いした。まったく未知の文明と戦っているようだ。恐ろしくもあるが、学者として知的好奇心も刺激された。この震えは恐怖からか武者震いか・・・
「ライアス、話せるか?」
「アフマド隊長・・・すみません。俺が皆をけしかけたばっかりに・・・」
「無事ならいい。ここにいろ。敵の情報を教えろ。お前らの敵は取ってやる」
ライアスもトゥルイも驚きの声を上げる。
「馬鹿な!さっきも言ったであろう。騎兵隊二十名がまったく歯が立たなかったんだぞ。ましてや十人弱。同じことだ」
「負け犬は黙っててくれませんかね?」
「貴様・・・」
フレッグ・アフマドの無礼なモノ言いに慣れているはずだが、さすがに今回は非好意的な視線を投げる。一同の声を代弁したのはモンケ・フラテスである。
「おい、いくらなんでも閣下に対して無礼ってもんだ。そこまで言うなら策があるのだろうな?」
「策なんてねぇよ。まずは情報を聞いてからだ。ライアス?」
「いい、俺が話す。敵は三人だ。男二人に女二人。男は三十代半ばだろう。女は十代前半か。男一人は気絶しているはずだ。今も、かどうかは知らん。武器は奇妙な形をした鉄筒だ。それを残り二人装備している。どんな仕組みかは知らんが、破裂音がしたらもう遅い。人間なぞ、ひとたまりもない」
「何か飛んでくるものとか、見えましたか?」
「それもまったくわからん。恐らくだが、あのグランチェの新兵器、爆弾と同じ炸薬で鉛か何かを高速で飛ばしているのだろう。目にも止まらぬ速さでな・・・」
「ふーん、なるほど。いやまったく勝てる要素が見つからんですね」
一同はあきれ果てる。でかい口叩いておいてそれはないだろう。
「ところで、三人の敵は貨車の前側に乗っているんでしょ?」
「ああ、そうだ」
「あの貨車のどれくらいの速さで動くんですか?」
「馬より早い」
「マジッすか?かなり早いですね?
こっから東は荒野で西は草原で湿地帯も多いんでしたね」
「そうだな」
「ふーーーーん」
フレッグはしばらく考え込んでいる。粗野な不良兵士が作戦を練っていると思うとおかしく見えた。
「よし、決まった。この手で行ってみましょう」
万策尽きた彼らに作戦が披露される。不確定要素は多いが、この場でできる最善の戦い方に思えた。トゥルイは
「お前らしくない、が、作戦は聞くべき点が多い。よかろう、俺が指揮を執る」
と、さっきまでの弱気もどこ吹く風だ。
「無理しなくていいっすよ。俺たちだけでもできます」
「お前にアレだけ言われた後で、ここで引き下がれるか」
「あ、そっちすか?まぁいいでしょ。じゃ、やりますか・・・」