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5‐2

「な、なんだ。何が起こった。あの子がやったのか!!?」


 トゥルイは自分の危機意識の低さを呪った。グランチェで見せつけられた新兵器は爆発する炸薬に鉄くずを入れ飛散させることにより殺傷力を持たせていた。彼らが何者かまだわからないが、西側諸国に知恵を与えている何某の可能性が高い。だとすれば我らが知らない驚異的な兵器を持っていても不思議ではないのである。その威力は想定をはるかに超えていた。


「くそっブランになにしやがった!!」


 トゥルイのもう一人の護衛マイルは恐怖より怒りが勝り激昂し、槍を片手に少女に突撃する。


「よせ、マイル!!わからないのか!!」


 警告は一瞬遅かった。無謀にも勇敢に突撃したマイルはやはり凄惨な最後を遂げた。周りで事態を見守っていた兵士も馬も血の雨を浴びる。


「へへっへ・・・」


 少女はガクガクと手足を震えさせながらも薄気味悪く笑っていた。この笑い方は知っている。初めて人を殺した時、理性という制限が外れた時にする笑い方だ。戦場という非日常に呑まれ、人間から獣になるときの笑いだ。帝国騎兵隊でさえ初陣は早くて十四歳。それを年の端行かない少女が知ってしまった。だとすれば危険だ。身を守ることが殺人と同義になった人間は虐殺、殺戮に躊躇がない。


「あはははははhhhhhhh―――――!!!」


 普通に笑っていれば可憐な少女であるはずだが、いまや悪魔に見えた。

少女は鉄筒を、ガチャ、と兵士に向けた。早くこの場を離れなければ全滅である。


「閣下――――――――!!!」

「馬鹿、来るな!全員逃げろ!」


 取り巻きの部下、ライアスがやたら気合の入った声を上げる。馬から降りているトゥルイを救出しに来たのだ。


「御冗談を閣下!味方を殺され、おめおめと逃げれませぬ」

「お前ら何処まで馬鹿なんだ。もう一人いるんだぞ!あいつも同じものを持っていないとも限らん!」


 そのもう一人が乗っている貨車が動く。


「や、やはりアレは動くのか」


 動きに鈍重さはなく、むしろ馬より早かった。最初に殴り倒した男のそばにつけると、中から中年男性が現れ、中に引っ張り上げている。


「くそ!逃がすか」

「ライアス!待て。命令だ!」

「閣下、マイルとブランは同郷のよしみにして、親友です。それを無残に殺され、見過ごすことはできません。命令違反であれば、今この時を持って軍を辞めます」

「何を馬鹿な!」


パアッーーーーン!!!


 再び、鉄筒が火を噴く。少女ではなく、貨車の中年男が狙撃した。

最も遠い距離にいたオゴーテが標的にされ、彼も一瞬で絶命した。


「ぐっ・・・あの距離からでもアレだけの威力が」


 距離にして四十メートルほどだったが。威力はいささかも衰えていない。この世界の弓矢の威力は精々一〇〇メートルで、五十メートルも離れればベテランでも標的を射ることは難しい。もちろんライフルの射程は一キロ以上あり、モノにもよるが、五キロほどまでなら十分な殺傷力がある。本来の性能を知ったらトゥルイらは卒倒するだろう。

 兵士よりも馬が半狂乱に陥っており、過半の兵士が御しえず、振り落とされている。


「閣下、どちらにしても誰かが囮にならなれば逃げられそうにありませぬ。ここは我らが敵の注意を牽き付けている間にお逃げください・・・


おい、お前ら!マイル、ブラン、オゴーテの敵打ちだ!!あのくそガキを討ちとれ!閣下を護れ―!」


 ライアスにけしかけられた残り十五名は「てめぇに命令されるほど落ちちゃいないんだよ」などと不平を言っているが、どうやら想いは一つのようだった。ライフルを要するハンター二人に、ほとんどが馬なしで特攻していった。


「うおおおおおおおお――――――!!」

「帝国万歳―――!!


 彼らの勇猛さと決意はこれまでの戦い中で最も強いものだったが、相手はその万分の一の冷静さで狙い撃ちしていった。不快な破裂音がするたび一人、また一人と倒れていった。


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