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5‐1.悪魔はいた

「そこの者、こいつが殺されたくなければ出てこい」


 佐竹光一は朦朧とする意識の中、自分が人質にされていることに気づいた。言葉は分からなかったが、雰囲気でそう言われている気がした。もはや冗談でもなんでもない。本当に異世界トリップしてしまったのだ。しかし、転移先が蛮族が治める地だなんて聞いてない。馬に乗った兵士だなんて、いまどき儀典でしかお目にかかれない。たしかにちょっと切れてしまったが、いきなり殴りかかることもないだろうに。それにしても綺麗な場所だな、この様子じゃここは剣と魔法の世界かな?だとしたら生き残れないな~

 そこまで思考して彼の意識は途切れた。

 この世界には剣はあっても魔法はないのだが、それがわかるのは少し先の話になる。


 一方、件のセリフの兵士は相手が要求通り行動していることに満足していた。

 しかし、


「おいおい、女が一人だけか?もう一人いたはずだが・・・」


 出てきたのは若い女だった。十代前半か、いっても十五歳には達していないだろう。この地域は冬でもさほど寒くならないが、防寒着に身につけている。伸びている男の服もそうだが、かなり高級そうな衣服である。身長は女にしてはやや高い。目鼻立ち整った美少女である。しかしそれ以上に目を引くのは腕ほどの長さがある筒状の道具だ。それを両手しっかりと持ち、怖い顔してこちらに向かってくる。笑顔でないのが残念だ。


「××××××××~!!」


 やはり意味不明の言語だ。


「なんと言っているかわかりますか?」

「まったくわからんが、意味はわかる」

「え?なんですか?」

「この男を解放しろ・・・だ」

「なるほど、さすが閣下。ですが、そうしてやる義理はありませんね。ついでにこの子も拘束してさしあげましょう。そして最後の男を引っ張りだす餌にしないと」

「うむ、今度は丁重にな」


 相手を気遣うのは女で子供だからではない。怖いのはもう一人の男の出方である。ブチキレられれば、人質を顧みずアレを動かすかもしれない。アレとは大草原に場違いに鎮座しているトラックのことである。牽引する動物は見えないが、なにやら異様な音が聞こえてくる。あんな泣き声の動物は聞いたこともない。きっと見たこともないような猛獣が箱にいるのだろう。暴走すれば恐らく止める手立てがない。

 その心配はもちろんであるが、トゥルイは目前の危険を察知していなかった。彼女こそこの場にいる帝国騎兵隊二十名を虐殺できる武器を持っているのである。日本で許可されている猟銃の中でも最も精度と威力があるライフル銃である。射程は一キロ以上になる。大型の熊だって一発で仕留めることができ、この距離で人間に向けられればスイカをフルスイングで振りぬいた感じの死体が出来上がるだろう。四発のカートリッジを一〇個持っていた。もちろん中学生が簡単扱える代物ではないのだが、彼女も妙に手慣れた様子で扱っている。


「手荒なことはしたくないが、そうもいってられん状況でね。悪く思うなよ。」


 先ほど光一を殴り倒したブランは不用意にヒカリへ歩み寄る。何やら威嚇するように鉄筒を向けている。


「へ、そんなんで威嚇してるつもりかよ。そりゃ何だい?毒矢かなんかか?アフマド隊長にもタメ張る俺にそんなんが通用すると思って・・」


パアッーーーーン!!!


 何かを射る動作も投げる行為も何が起こったかもわからなかった。破裂音が聞こえたと同時にブランの身体は木端微塵に飛散していた。血肉が辺りに降り注ぎ、大地を赤く染める。例えるなら達人が槍で赤子の刺したような、または人間が突如花開いたような、見事でありグロテスクな死体が出来上がっていた。


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