表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/38

4-1.旅立ちは突然に

「お前は戦争でもしにいくのか?」

「昔から言うだろう。備えあれば憂いなし、とな」


 高校からの親友兼悪友である高橋茂。頭のいいやつだが、変人でネジが外れてるのは相変わらずだ。いまだにUFOだがUMAだが信じて疑わず、それを仕事にしているくらいだ。啓蒙活動も熱心で本も十五冊は出している。こいつのお陰で前途ある有望な若者が幾人変人ロードを歩むことになっただろう。俺の甥、佐竹守もその一人だったから大変困ったものだ。せめて娘のヒカリにはヤツの著作を触れさせないようにしたい。

 だが!!それよりも今目の前にあるこれはなんだ!!どうみてもライフルにしか見えないんだが?


「君はこれがモデルガンに見えるのか?」

「質問に質問で返すんじゃない。これはなんだと聞いている」

「見ての通り猟銃だが・・・」

「どうやって入手した?」

「ん?猟銃は正式な許可があれば所持は認められているが、知らんのか?」


 いや知っているけどなんでそれが十丁もあるの?実弾だってそれ何千発あるの?熊の群れでも仕留めるつもり?


「今から未知の世界に行こうというのだ。これくらいの備えは当然だろう・・・

食料、水は三人百日分、生活必需品も詰め込んだ。それに3Dプリンターとバッテリー、ソーラー発電機。あと手製の手榴弾百個」


 まてまてまて、最後はマジで意味がわからん!?それに前提が中二病すぎる。未知の世界に行くとか、何言っちゃってんの?

 

 とうとうおかしくなったか・・・

 

 いや、残された一人娘がいなくなれば無理もない。かくいう俺も妻と兄夫婦から預かっている甥が行方不明になり、事件当初は途方に暮れたものだ。そりゃもちろん方々手を尽くしたさ。でも娘のヒカリが残されていたし全てを投げ出して探しまわるわけにはいかなかった。身内がいなくなったのは娘も一緒だ。その上父親がショックで無職とあっちゃ余りにかわいそうだ。俺が出来ることは限られているが、これ以上ヒカリを悲しませるわけにはいかない。

 だが、茂は違った。妻に先立たれ、たった一人の愛娘が行方不明とあっちゃ親友でなくとも心中お察しする。最近はお得意のUFOやら神隠しやら持ちだしてメディアを通し持論を布教させている。テレビ局はヤツを完全にワイドショーのネタにしていてが、俺も当事者だし笑って見ていられない。


 いや、いったいどうしてこんなことになってしまったのだろうか・・・

 

 当日のことを思い出してみる。



 あの日は朝から蒸し暑かった。俺はクーラーの効いた部屋から出るのを渋り、ギリギリまで優雅ぶってアイスコーヒーを飲んでいた。


「光一さん、まだ大丈夫なの?」


 夏美はエプロン姿で洗い物をしている。歳重ねても若々しい妻は着衣でも身体のラインが強調されている。夏は薄着なので張り付いた布地は性犯罪に遭っても仕方ないと思わせる曲線を描いていた。学生時代からの付き合いで、あの頃より発育した胸部は毎日目の保養になっていた。娘もすっかり大きくなったので(意味深)、やたら好色な視線を送るわけにはいかないが、いつまでも美しい妻にムラムラが抑えられない。くそ、なんであの時仕事に行ったんだ。


「ああ、もう行くよ。行ってきます」


 新婚以来続けてるキスと抱擁を熱く行う。舌を絡めたディープキスも耳を撫でる音が発生していてが、バストサイズ三桁を超える胸もムニッと音を立てている。我ながらラブラブだ。


「ん、行ってらっしゃい」


 甘い声で名残惜しさを出される。色気が半端ない。お互い仕事がなければ朝からプロレス三昧なはず。ダメだ・・・光一よ。そのまま仕事に行くな!!今行けばそのまま会えなくなるんだぞ・・・

 ドアを閉める直前の姿が目に浮かぶ。今でも火照った笑顔を思い出す。

 


 それが、妻を見た最後の姿だった。


 それから事件が起こり、気が動転しつつも妻の足取りを追った。

 

 夏美は仕事へ行ったはずだ。同僚から話を聞くと、日中書店で接客していたとのことである。仕事ぶりは変わったことなどなく、いつものように同僚には間延びした返事で、お客にはセールストークで、そのギャップは店内で目立っていたとのことだった。定時上がりで高校へ納品した後、そのまま直帰している。そして、高校の図書担当者と伝票のやり取りを十八時にしている。担当者は校門まで見送っている。これが最後の目撃談ある。

 そして、甥の佐竹守と高橋茂の娘、レナも行方不明である。守とレナは同じマンドリンクラブに所属しており、十八時二〇分に揃って校門を出る所を教師が目撃していた。三人はもちろん顔なじみであり、日常生活で接点も多い。普通に考えて事件性のある事案だ。最近物騒な事件も多いし揃って誘拐ということもありうる。まもなくメディアの餌食になり、面白おかしく神隠しだなんだと騒ぎ立てられる。当事者の茂が触れまわるもんだから、よけい困ったもんだ。世間から注目されたことあって、協力してくれる人は沢山いた。捜索特集まで組んでくれるテレビ局もあり、知名度は上がる一方だった。

 しかし三カ月たった今でも見つからない。

 

 くそ、本当に神隠しかと思えてきた。周りは労わってくれるが、余計な情報も入ってるみたいで影では変人扱いされている。もとい「奥さんがいなくなってちょっとおかしくなっちゃった人」になっている。ちょっとそこのあなた、俺はまだ正常だぞ!!

 だがこれ以上高橋茂に付き合うと変人ではなく犯罪者になってしまいそうだ。この積み上げられた手榴弾の山。全部お手製だと・・・あんたイスラム国でもやっていけるよ。


「本気で信じているのか?神隠しに遭って、異世界に迷い込んだって。いや、仮にそうだとしても俺達も同じ世界に行けるのか?」

「うむ、その疑問はもっともだ。君が納得できるよう最初から説明してやろう」


 いや、説明しなくても結構です。が、制止も聞かずしゃべり始める。

 曰く、この神社で行方不明になった人は今回を除いて五人いた。最も古い記録は明治初期にもなる。共通点は学校を出入りしている人というくらいだった。神社が学校横にあるのでなんら不思議なことはない。超常現象に理由を求めるのは愚かな行為と思っていたが、今回のことで有意な原因を見出したという。


「今まで全く気がつかなかったが、ようやく原因が判明したのだ!!」

「それは?」

「うむ、聞いて驚け!神隠しはな・・・




月食ないし日食が起きている日に起こっているのだ!!」


 


・・・・ほう、それはすごい。と思ったが、茂よ。お前が熱弁するほどの驚きはないぞ。自分だけはっちゃけて、他人は白けるお決まりのパターンだよ。それは、


「もっと驚きたまえよ」

「いやいやいや、日食や月食が起きた日に神隠し?!馬鹿も休み休み言え。いや、この際だからはっきり言ってやるがな、発想が中二病過ぎんだよ。学生の頃と全然変わってないな、お前」

「なんだと」

「考えが甘いとか、幼いと言った方が良かったか?そんなんだからレナちゃんから白い目で見られんだ!!最近じゃ俺まで変人扱いされてんだぞ!」

「君はサラリーマン生活が長い割には物事の本質を見抜く力はないようだ」

「どういうことだ?」

「たしかに普通に考えれば馬鹿馬鹿しい話だ。だが、天体ショーが起こっていた日に行方不明事件がある事実。同じ場所で百年以上前から、同じ条件でだ。関係ないと考える方が不自然だ。全員が自分から失踪したり、百年前からどっかの国に拉致されていたりすれば別だがな」


 その可能性の方が低いと思わないか?そんな風に諭される。


・・・・いやいやいや、冷静に考えろ。全員が自分から失踪したり、どっかの国に拉致されたりする方が可能性高いだろ。異世界トリップなんて○国自衛隊じゃあるまいし。


「君はまだ信じていないようだな。まあ、私がこうして完全武装して探しに行く行動の意図がわからないようじゃ、異世界に行っても足手まといだな?」

「大学講師様程、頭は良くないんでね」


 完全に超常現象を信じているヤツにまともな議論しても無駄だ。昔、年末特番で大学教授と自称UFO研究家が罵り合ってた番組があったっけ。子供の頃は面白かったが、大人になればそのバカバカしさがわかる。もうお前ほど熱くなれないよ・・・


「皮肉は結構だ。君にはまだヒカリちゃんがいるし、無理はできまい。私は異世界に行ってくる。

・・・今日の夜、月食なのでね」


 え?今日なの?


 別れは突然にと言うが、旅たちも突然に訪れるモノらしい・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ