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13.夏美さんは小説家志望らしい

 短い軍議からわずか一時間。ライル・ヒルトは自身の配下九八〇〇名を揃え万全の攻撃態勢を整えた。高橋レナは帝国軍が攻撃してくるとイリカに伝えてはいたが、ただでさえ暴発事故の対処で城内は浮足立ち、アーサーは何者に刺されスパイの報も流れるなど防衛軍幹部は動揺していた。いまだに爆弾保管庫周辺が燃え盛る中、迎撃態勢を十分に建てられるはずもなかった。

 ライル万人隊長は準備が整うやいなや、慣れていない突撃の号令を出す。その前に兵たちへ行った演説は以下の通りであった。


「諸君!我々ウラヌーフ帝国を含む東方諸国は長い間西方諸王国に苦しめられてきた。かの国々は幾度となく国境の街々を襲い、人々を蹂躙し、歴史ある地を荒らしてきたのだ!あの街は西方諸国にとって非常に重要な戦略的要所だ。この戦いに勝利すれば、西方諸国攻略の大きな足がかりとなるだろう。大陸を統一すれば争いも無くなる。西方も東方も関係ない。諸君らの手で争いの歴史に終止符を打つのだ!帝国万歳!!」

「帝国万歳!!」


 万の声が草原を突き抜ける。その声は陣から遠いグランチェの街にも届いた。


「ああ、とうとう攻めてくるのですね。街はまだ燃え盛っているし、アーサーは倒れているし、スパイはいるし、どうしたらよいのでしょう?」

「落ち着いてくださいイリカさん」

 

 補佐役のアーサーを失ったイリカはひどく動揺していた。佐竹守は自分より一歳だけ年上の美少女へ冷静になるよう促した。


「守さんは冷静に過ぎますわね」

「いや現実感がないだけです」


 帝国軍の怒号は守にも聴こえていたが、異世界トリップ初日から働き詰めの日々に感覚が既に麻痺していた。それは高橋レナも同じである。


「アーサーさんが無理なら直接騎士団長のエルブルスさんに指揮を取ってもらうしかありません。帝国軍に対抗するには爆弾しかありません。団長は日本悟が話せませんから通訳してください」

「そ、そうでしたわね。で、でも彼はどこにいるのでしょう?」


 元々一六歳の箱入り娘に指揮能力も実務能力もあるはずがなかった。それをアーサーが強力に補佐していたのだが彼は凶剣に倒れてしまった。まして、この騒動だ。防衛軍幹部の個々人の動きは把握できていなかった。


「どうしましょう・・・」

「いや、どうしましょうと言われても」

 

 軽い沈黙の時が流れるが、絶妙のタイミングで三人に間延びした声が届く。


「お困りのようね~守君、レナちゃん。イリカさんも」

「守さんたちが冷静なら、夏美さんは緊張感がなさすぎです」ムッとした顔をするイリカ。

「そんな顔しないでよ。美人さんが台無しよ。

ところで本当にお困りのようだし、とりあえず私がこの場を取りまとめましょうか?こっちに来て十日も経ってるし、こっちの言葉も大分話せるようになったしね~」

「ちょっとまって下さい。話せるんですか?こっちの言葉?」

「エルブルスさんやアーサーさんに習っていたの。私英語得意だったし。!#”%!%$!”#$%!”#$!~$&”#$&”$=%=$~」


 守とレナには今だ理解できない異世界の言葉を流暢に話す夏美。イリカも目を見開いている。


「なんですか、そのチート設定!!」呆れる守。イリカとレナは「す、すごい」と素直に関心していた。


「で、では夏美さん。よろしくお願いします」

「よろしくお願いされました~」


 お願いされて直後、トロンとした目が吊り上った。守とレナはわからなかったが、夏美は以下の意味で周りに声かけていた。


「全員その場で聞くように!たった今イリカ様からこの場を取りまとめるようにと指示がありました。佐竹夏美です。よろしく!!

そこのあなた、騎士団長のエルブルスさんをここに呼んできてください。あなたは警備隊幹部招集してください。あなたは火災現場の状況を調べてきてください。そこのあなた達はイリカ様の護衛についてください」


 テキパキと指示を出す夏美。ポカンと呆ける守とレナ。


「夏美さん?どうしちゃったんですか?」恐る恐る尋ねる守。間延びした声が返ってきた。

「ふふふ、物語の主人公ってこんな感じかしら~」


 あまりに悦に入った表情に二人は軽く引いた。

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