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11.買い物のち戦争の幕開け

 轟音と共に辺りは炎に包まれる。この世界の人間でこれだけの惨事を経験したことがある者は大地震や津波、火山災害を生き延びたものだけだったが、そんな幸運者はこの場にはいない。全員が見たこともない盛大な花火ショーに思考が停止し、次いで逃げろ、火を消せと異口同音に叫ぶ。ドールを追っていた兵士たちは状況を十分に理解していたが避難誘導と被害拡大を防ぐので精一杯だった。そんな中で一人周りと違うと反応をするものがいた。

 高橋レナ本日の予定は完全にフリーであった。「九の月」二十七日。この世界「アガルタ」に迷い込んで十日が経っていたが、今まで街に協力し帝国軍対策に奔走してきた為十分な休息など取っていなかった。直ぐに攻められるわけではないだろうと防衛軍上層部の意見を聞くや否や包囲二日目に関わらず休暇を取ると一点張りだった。イリカたちにとって大事な客であるとともに重要な戦略資源でもある三人にはできるだけレイブン家に居てほしかったが、特に重要な百科事典つきスマートフォンを持つ佐竹守は依然協力的なので護衛兼案内役を一人つけることで彼女の自由は許されることになった。

 歳頃の女の子が知らない街ですることと言えば当然観光である。籠城中とは言え市民は経済活動を止めるわけにはいかない。商店の多くは閉まっていたが、戦時には戦時の商売方法があるし、人は食わねば生きていけない。市場はそれなに賑わいを見せていた。


「わぁ、これおいしそう~。鶏肉かなにかかしら?あれは菓子パンかな?ここんトコ甘いもの取ってないしお土産に十個くらい買おう」


 戦時中の便乗値上げによって値段は普段は倍以上だったが、レイブン家から十分な手当をもらっていたレナは目に付く欲しいモノ全てを購入していた。荷物は非常に多くなったが、今や護衛兼案内役兼荷物持ちとなったマルコ・ファーガソンの両手が重くなるだけだった。


「レナ様。ま、まだ買い物されるのですか?」


 見ての通り両手が空いていませんと軽く抗議の声を上げる。


「あ、そうね。じゃあ一旦帰り荷物を置きましょう。マルコ君、今度は裏町の案内をよろしくね」

「ひ!!」


 買い物は狩猟の代償行為と言われているが、女の子の購買欲は別のナニカだろう。それに付きあった男の末路は悲惨だ。普通は予算が限られているので散々見回った挙句何も買わないことも多い。その徒労感は半端ではない。しかも一軒一軒の滞在時間も長く、同行者に無駄なコメントを求めたがる。今回の場合は予算が多いので目につくもの買いあさり両手は悲鳴を上げていた。男と女の違いは買い物で全て分かるのである。同年代のマルコはまだ女を知らなかったが、将来の伴侶となるべき人が出来ても買い物には付き合わないと決めた。そんな可哀そうなマルコの未来の奥さんはさておき市場が俄かにざわついてきた。


「あら、なにかしら?近くが騒がしいわね」


 朝市の騒々しさがあるとはいえ、まだ気温が低い中で真昼の熱気があった。買い物が中断されるだろう騒動にマルコはホッとしたが、自分に課せられた任務を思い出し緊張する。朝一番から強盗の類いか、とにかく追うものと追われるものの現場に出くわしたようだ。騒動に巻き込まれ万が一にもレナに怪我されては一大事だ。


「レナ様!安全な場所へ案内します。こちらへ・・・」

「ちょっと気になるから見てくるね」

「って!ええ~!!」

 

 マルコは十五の時から警備隊に勤め、街の治安を守って来た。街の治安は良い方だが、それでも数年に一回は凶悪事件が起こる。保安担当者が最優秀警備隊員に選ばれたこともあり、幼い頃からグランチェに住むマルコとしては護衛も案内も楽な任務と思っていた。しかしこれは想像以上に過酷な任務なようだ。勝手気ままに走り出すレナの後を追いかける。

 そして、直ぐに血の気も引くような事態に出くわした。レナが向かっていた渦中の騒動先から爆音が鳴り響いたのである。ここはたしか、守たちの協力で造られた異世界の兵器を保管している倉庫だ。「・・・まさか暴発事故!」火薬や爆弾の原理を学んでいたマルコは事態の一部を理解していた。追いかけていたレナも立ち止まりその可憐な横顔は驚きの表情で歪んでいる。


「レナ様!どうやら爆弾が暴発したようです。ここは危険です。すぐに避難しましょう」

「大変だ・・・」

「そうです!大変な事態です。さあ、巻き込まれる前に避難を・・」


 レナの腕を掴み避難を強く促すが、彼女は動かない。


「違うの、そうじゃなくて・・」

「なにが、違うのですか!?あれの危険性はレナ様たちが散々説いていたじゃありませんか?」

「帝国軍が攻めてくる。直ぐにイリカさんに伝えなきゃ!!」


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