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40

源基の(あざな)をどうしても思い出せず、今回新たに名づけました。

が、40を書いた後に思い出しました。ので、訂正します。

城迦→改め、白架 となります。

「呼び出しとはずいぶん偉くなったものだな。小僧」

「お久しぶりです。白架将軍」

白焼宮の夏国大使執務室に呼び出され、夏国将軍源基は不機嫌さを隠すこともせず、眼前の暁亮を憎々しげに睨みつけた。

「しばらくお顔を拝見しませんでしたが、明香さまの護衛の任については如何でしょうか」

「万事問題なし。貴様こそ毎日何をしておるのだ? ふらふらと秋王宮をうろついて、明王の次の後見者(パトロン)でも探しておるのか。その魔性のような見てくれに誑かされる者が哀れでならんわ」

老将は暁亮とまともに話す気などまるでない。はじめは微笑を讃えていた暁亮も、その眼差しが心もち氷のように凍え切ったものに変わる。だが表面上はあくまでもにこやかなまま、執務室内に控えていた侍従を下がらせ、人払いした。

心配そうに視線を送りつつも、侍従の端新が退室する。

(取り繕うぐらいしてくれても良いものだが。今更か‥)

暁亮に対する、夏国人の反応は概ね二つ。

その類まれなる天人の如き清雅な美貌に魅了されるか、――堕落を誘う魔性だと唾棄し、容貌で王に取り入り、宮廷を闊歩する不届きな輩と軽蔑されるか。

源基は後者の筆頭だった。

大使として秋国に赴き、白焼宮で日々を過ごすうちに忘れそうになるが、夏国清水宮での暁亮は、特に叩き上げの武人たちからこのような侮蔑、罵倒を浴びせられるのは日常だった。

(これに比べれば、志保どのの嫌味なんて何も感じないな)

心中で苦笑する。秋国王子陽梨も散々暁亮をけなす。だが、陽梨が暁亮に正面から堂々と嫌悪感を表しても暁亮は痛みをあまり感じない。陽梨の育ちの良さか、本当の憎しみが込められているのではなく、単なる性格の不一致と素直に納得できる。また陽梨は、個人の好悪で公けの対応を曇らせることはない。

(白架将軍は違う。個人の好悪の感情に因り、対応を曇らせている)

(だから明王は捨てよと言われた。でも、…)

夏国王女である明香の護衛として、一軍を率いて共に秋国を訪れた将軍、源基は、護衛の任を配下に任せ、自身は白焼宮にはあまり顔を出さず、王都椿に与えられた即席の駐屯所で訓練を繰り返していた。

だが、それだけではないことを、暁亮はもう知っている。

(…外れて欲しい予測に限り、現実のものになるな)

明香の帰国に関する日程が決まったと共に、情報を最低限共有しようとし、腹をくくって暁亮は源基を呼び出した。だが帰国の経路や、進軍の詳細、経費や物資の調達を問うても、まともに源基は答えようとしない。

「引き続き秋にいるおまえに、なぜそのような大事を明かさねばならん。おまえになど言わずとも、滞りなく任を果たしてみせるわ」

「…他ならぬ明香さまの護衛なのですよ。それなりの準備がいるのはおわかりでしょう。事前の計画もなく、その日の気分で決める訳にはいかないのですよ」

「たわけ!」

雷鳴の如く一喝し、即座に源基が席を立つ。

「そのようなことは重々承知。事前の検討も計画も抜かりなし。私は、なぜそれをおまえに言わねばならんのかと言うておる。大使の肩書きを得たからと言って出しゃばるなよ、小僧。机上で論をこねくり回し、高貴な方々に取り入ることしかせぬ女衒が何をほざくか。おまえは大人しく金の調達だけしておけば良いのだ!!」

暁亮は源基を見つめ、唇を震わせた。

理不尽な言われように怒ったのでも、突然の激高に恐怖したのでもない。

(これ程までに相容れないものか)

(…明王)

祈るような気持ちで主君を思い、暁亮は一瞬目を閉じる。

「白架将軍。明香さまの護衛の任が大役であり、万難を排して果たすべき勤めであることは将軍もおわかりでしょう。私のことをどう思われようが構いませんが、明王、ひいては夏国王家への忠誠あるならば、どうかご協力いただけませんか。

…一昨日、貴方はどこで何をしていましたか。毎日駐屯所に詰めて兵を訓練しているとのことでしたが、ご不在でしたね」

「なっ」

源基の顔色が変わった。

「なぜそれを」

「どこで、誰と会っていたのです」

「私が、いつどこで誰と会おうと、それは私の自由だ。おまえにいちいち報告せねばならぬ義務はない!」

「それはそうです。通常ならば。平時に、私事(わたくしごと)で、何の(はかりごと)もなく親しい知人に会うぐらいのことであれば。

…将軍、もう、おやめください。今ならまだ間に合います。明王にもまだお知らせしてはいません。でもこのままではいずれ公けになる。将軍がしようとしていることは、夏国のためには、ならないのです」

「…黙れ!!」

甲高い破砕音。源基は自分の前に配されていた茶器を感情の赴くままに暁亮に投げつけた。暁亮は咄嗟に腕を掲げるが、衝突で薄い陶器はすぐさま割れて、鋭角の欠片(かけら)と中身を飛ばす。

「黙りません。このまま、()の武将がむざむざと堕ちゆくのを見るのはもうたくさんです。夏に、明王に忠誠あるならば、別の形で示してください。(シン)の商人の口車などに乗る必要はないんです。将軍、お願いです!!」

「そのうるさい口を閉じろ!! 小僧!!」

かっと目を見開き、源基は暁亮の襟首を掴んだ。

力任せに両手で締め上げる。かふっ、と暁亮が苦し気に呼吸音を漏らす。老いたりとは言え歴戦の武将、鍛えられた体躯の源基にのど元を絞められ、華奢な暁亮はなすすべもない。

「以前もこうして締め上げたことがあったな。なぜあの時最後までやってしまわなかったのか。そのような脆弱ななり、夏国武人の風上にも置けぬ小僧よ。その魔性の如き見てくれで王に何を吹き込む。おまえなど、おまえなど、いっそここで殺しておいた方が後々の夏国のためになるというもの」

「…わたしを、どうかしたところで、…貴方の為したことは、消えない。将軍、お願いです、どうか…」

「まだ喋るか!!」

「…っ!」

ばん、と扉が開いた。

「白架将軍、これは、一体!? 物音がしましたが、何か変事ですか」

秋水軍を預かる武将、周藍の突然の登場に、源基は手を緩め、暁亮を解放した。

周藍の後ろに、青ざめた顔で侍従端新が立っている。

「…いや、変事は、ない。私はこれで失礼する」

状況を見てとり、源基は短く告げると、せき込む暁亮に侮蔑の視線を投げつけ、退室した。

周藍は床に座り込む暁亮に駆け寄る。

「大丈夫か。何があった」

「…ちょっとした行き違いです。大したことではありません」

後ろの端新を見やり、努めて通常通りの声で暁亮が答える。

「端新、心配してくれたんですね。ありがとう。悪いけど、私もちょっと気が(たかぶ)っている。暖かいお茶でも飲んで落ち着きたいな。新しく淹れて来てくれる? 子規将軍と、君と、三人分」

「は、はい。今すぐに」

明るく声をかけられ、顔色は悪いながらもいつも通り微笑む暁亮に、ほっとした様子で侍従が出ていく。扉が閉まるのを見遣り、しばらくして、暁亮は長い溜息をついた。

「桂淋…」

「子規どの。…ありがとうございます。助けていただくのは二度目ですね」

「私の方がおまえに助けられた。矢傷に比べれば、これぐらい…」

「そうでした。では貸し借りなしですね。今回はどうでしょう。また跡がついていますか?」

暁亮は悪戯っぽく笑って、首元を緩める。手形とまでは行かなかったが、やはり今回も、武将の渾身の暴力の跡がうっ血となって残っていた。

以前も暁亮は源基に首を絞められ、危ういところで周藍に助けられたことがあった。

「余程私が憎いのですね。白架将軍は…」

微笑しつつ、目の端に涙が小さな玉を結ぶ。

今は周藍しかいない。だから、思わず、駆け寄ったまま暁亮を抱き寄せるように背中に手を回す周藍の服に暁亮はすがり、うつむく。

「どうして、いつも、いつも、あの人たちとはこうなるのか。だから私は、夏国にいられなかったんでしょうか。だから明王は、私をここに送ったんでしょうか」

それは、恐らく誰も聞いたことのない、暁亮の弱音だった。

震える声で、他には周藍しかいない自室で、それでも周囲を憚るように小さく吐露するのを、やるせない思いで周藍は聞く。

「私は、おまえがいて良かったと思っている。経緯がどうであれ、おまえと出会い、今ここに桂淋がいて、良かったと思っている」

つたない言葉だと自覚しながら、それでも何がしかの慰めになればと周藍は言う。

しばしの時を置いて、暁亮は小さく頷いた。

「子規どの。…すみません。ありがとうございます」

周藍はうつむいて震える恋しい人を抱きしめ、その背をさすった。

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