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西側庭園の舞台が正面に見えて来た。やはり青風楽団の面々が、それぞれ音を奏でている。合奏しているのではなく、個々で気になるところを確かめ練習している、といった風情だ。

楽団員たちは、その名にちなんで全員が青い布を首元に巻きつけている。観桜の宴では細かいところまで気が回らなかったが、かき鳴らされる旋律はどこか華やいだ空気を醸し出す。

その前列中央で、楽団長の青好と、歌姫嵐玉が立ち、何か打ち合わせをしていた。

「あの、陽梨、このまま行ったら明香たち丸見えだよね。気づかれないように、こっそり見るつもりだったんだけど‥」

「おまえ、あの舞台の周りに何か遮蔽物があると思うか?」

意地悪く陽梨が舞台を指す。指されるまでもなく、周囲には何もない。

「えー‥あ、じゃあ、後ろに回ろうよ、そうしたら大丈夫かな」

「時間の問題の気がするがな」

せめて嵐玉の声を聴くまでは、とこそこそと進路を変える明香に、呆れたため息。

「陽梨ってなんでそんなに文句ばっかり言うの? そんなこと言ってると周りの人に嫌われちゃうよ」

「‥おまえっ!」

ぽろっと漏らした明香に、陽梨が顔を紅潮させて怒り、ためらいなく明香の頬を引っ張る。

「どの口がそれを言う? この口か? この口か!?」

「いひゃい、いひゃいってば! みふかっひゃうってば!!」

すぐに涙目になり、頬を引っ張る手を何とかして緩めようとあがく明香。その顔を見て気が済んだのか、陽梨はふんと一息つき、ぱっと手を離す。

「ううー。仮にも女の子の顔なのに、ひどいよー‥」

「女の子だあ? お子様が何を言う」

「お子様お子様って、そのお子様と結婚するかもしれないんだよ! 明香は、婚、礼、準、備、のために秋国に来ているんだからねっ!」

「ほお、おまえは私と結婚したい訳か?」

斜に構えて挑発する陽梨。

一瞬明香は言葉に詰まる。頬が紅潮していくのがわかったが、自制できない。

(痛いからよ、引っ張られたから、今、赤くなってるの! そうなの!!)

「陽梨みたいな野蛮な人のところに来てくれるお嫁さんなんて、いる訳ないよ! 明香は10歳のお子様かもしれないけど、陽梨のその女の子の扱いはお子様以下だよねっ! べーっだ!!」

思いっきり舌を出し、明香は逃走した。

心臓がどきどき言っている。視界ががくがく揺れている気がする。

きっと走っているからだ。

(そうだよありえないよ。ありえないよそんなの、錯覚、幻覚、何かの間違いだよっ)

舞台への道を外れ、周囲を大きく取り囲む桜の木々の中に隠れ、楽団の後ろに回り込む。

楽団員たちは舞台正面中央を向いて構えており、後ろ側へ回れば気づかれなさそうだった。

息を切らして走り、できるだけ近づき、かつ気づかれないように桜の樹に隠れ、座り込む。

陽梨は特に追いかけて来ず、先程の場所でじっと立っているのが遠目にわかった。

(あーあ‥)

なんであんなこと言っちゃったのかな。

じわ、と涙が出そうになるが、堪える。

気持ちが乱高下して、どうにもならない。

(もう一回やり直せないかな。って無理だよね。当たり前だよね。こんなんで一月後には結婚相手決まるとか、私、どうなるんだろう‥)

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