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17

その後のことを、明香はよく覚えていない。

熱に浮かされたように高揚したまま、暁亮、華音たち四人の侍女と宴席へと下がり、入れ替わり立ち代わりたくさんの人々に褒められ、たたえられた。年若いため酒杯は受け取らなかった筈だが、あまりにも数多くの人と言葉を交わしたせいで、何がなんだかよくわからなくなった。

覚えているのは、何人かの顔。

気遣わしそうに優しく見守る暁亮。

暁亮に苦い表情を見せながらも、同じように心配そうな眼差しを送る、周藍将軍。

明香と同じように高揚し、いつもは侍女として淑やかに振る舞っているにも関わらず、珍しく浮ついた表情を混ぜる華音、麗鈴、朱嘉、旺樹。

暁亮の姿に時折ため息をつきつつも、明香の歌に感動し、親しく言葉をかける百合の花のような美少女、王女陽貴。

明香の歌を賛美しながらも、どこか悔しさがにじみ出ている王子陽芳。

そういえば、いつもなら陽芳の傍らに控えている副官、玲威の姿が今日はない。

こんなとき、陽芳の過ぎた物言いを時々それとなく窘めながら、観察するようにこちら眺めていそうなものなのに。

「‥明香さま、お顔の色が優れませんわ。お疲れなのでは?」

しゃら、と耳飾りが揺れる音。はしばみの瞳が、明香を心配そうに覗きこんでいる。

秋国王女陽貴の問いかけに、明香ははっと気を取り直した。

一瞬、何を考えていたのか、陽貴と何を話していたのか、わからない。

辺りを見回すと、宴も進んで当初の席から人々は思い思いに入れ替わっており、明香の隣には陽貴が座っていた。陽芳の姿はなく、少し離れて斜め前に暁亮がいる。暁亮は先程の舞のこともあってか、春めいた萌黄や桃色の衣裳をつけ、金銀の簪をさしてきれいに着飾った秋国の姫君たち三人に囲まれていた。

「本当だわ。ちょっと、ぼうっとしてしまっていたみたい。疲れてるのかしら」

「お疲れになって当然ですわ。あんなに素晴らしいお歌を、三曲、いいえ、四曲も披露してくださったのですもの。お部屋へ戻られますか?」

そうね、と明香は頷く。陽貴は華音たちを呼ぶ。

白焼宮の侍女は揃ってたまご色の上着に明るい橙色の帯と裳のお仕着せを着ているが、四人の夏国侍女たちは舞台のこともあり、白い上着に水色の裳を着けていて、わかりやすい。華音たちは陽貴の声掛けにすぐに明香のところに集まり、主人の様子をみる。

「お熱はなさそうですね。特にどこかお辛いところはありませんか」

「んもう! 旺樹、それ、ちょっと子供扱いし過ぎ。お熱はないでしょ、お熱は!」

よしよしと子供をあやすように背中を撫でた旺樹は、明香に憤慨され、あれ、と状況を理解できない戸惑った顔をする。朱嘉が、母親に叱られる妹を見るように旺樹を小突き、麗鈴が二人に柔らかな笑みをこぼす。

ちょっとずれたこういうところが旺樹の持ち味だが、最近はそんなふるまいはなかった。

今日はお酒が効いてるのかしらと思い、旺樹だけでなく四人の侍女たちは少しくだけているのに気付く。

(旺樹だって、皆だって、慣れない秋国ででずっと気が張っていたんだわ‥)

そんな中、侍女仕事だけでなく三日間楽の特訓をして、百人から来るという宴席の舞台に立つと思ったら突然楽団が用意されてて一緒に演奏することになったりして、そして、ようやくそれが終わった。気が緩んで当然だ。

「わたし、お部屋へ戻るわ。暁亮。悪いんだけど付き添ってくれる?」

明香の発言に、共に下がろうとした華音たちを制して、明香は暁亮を指名する。

とすぐに暁亮は心得たとばかりに微笑んで、三人のきれいな姫君たちをものともせずに立ち上がった。

「明香さま、私たちも‥」

「いいの。華音たち皆は、もう少しここで、明香の代わりにこの雰囲気を味わっててほしいの。いろんな人とお話して、お料理も頂いて、後でどうだったか、教えてね」

暁亮の腕を抱き込むように捕まえ、明香は腹心の侍女たちをひとりひとり見つめた。

「華音、麗鈴、朱嘉、旺樹。皆、今日は本当にありがとうね。お疲れさま」

「明香さま‥」

感極まったように華音が呼びかける。陽貴に中座の挨拶をしてから、明香は侍女たちに小さく手を振って退席した。

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