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暁亮の要望に明香は頷き、舞台中央からやや後方へ下がり、舞のための場所を空けた。

嵐玉も明香同様に後ろへ下がる。

『四季恋歌』は舞の名曲だけあって、誰もが旋律を知っている。青風楽団も、突然の曲目追加に戸惑いはあっても、演奏に問題はないようだ。

明香も歌詞は不安なく覚えていた。というか、夏国清水宮で、この曲を歌ってみたいから舞って欲しいと暁亮にはじめに頼んだのは、明香だ。

大抵のことをそつなくこなす暁亮ではあったが、舞を舞う習慣はない。それにも関わらず、明香の頼みを快くきいて練習してきてくれた。

夏国で、軍師華鳴の養子として明理に仕官し、忙しくない筈ないのに、暁亮は明香の頼みに大抵応じてくれた。明香が王女だから、主君の娘だからというだけではなく注がれる優しさを思い出して、こわばっていたこころがゆるんでいく。

明香だとて、暁亮の突然の申し出に驚いてはいた。だが、暁亮が訳もなく明香を振り回す筈がない。

「あの、暁亮どの、良かったらこれを‥」

舞台中央へと進む暁亮に声がかかり、秋国王女陽貴が舞扇(まいおうぎ)を差し出す。

『四季恋歌』では歌い手は戦の終結を祈る巫女を、舞い手は巫女を慕う武将を演じる。つまり、剣舞だ。しかし陽王はじめとする秋国要人とこれ程近しい場所で剣を閃かせるには、まだ秋と夏では隔たりがある。それに配慮したのだろう。

陽貴の侍女が主から舞扇を受け取り、暁亮を追いかけて手渡す。暁亮は受け取り、陽貴へ微笑して一礼し、感謝の念を伝えた。と、陽貴をはじめとした女性陣が頬を染めて絶句する。舞扇を渡した侍女は、天人の眼差しを至近距離で直視し、足元をふらつかせながら陽貴の元へ戻った。

舞扇を手にして暁亮が舞台中央に立ち、宴席へ向けて一礼する。青風楽団が『四季恋歌』を奏で始めた。

剣の代わりの扇は、閉じられたまま、恭しく明香に向かって差し出される。

明香はそれを受け取り、天へと掲げ、巫女の如く瞳を閉じて祈る。

そして扇―(つるぎ)を暁亮へ返す。

そこから、『四季恋歌』の主旋律が始まる。

(多くの尊き命 その魂 うたかたのごとく消えゆき)

(数々の家が焼け 畑が荒らされ (うつ)ろに打ち捨てられていく)

(未だ終わりも見ない戦禍よ 父は家へ帰らず 息子は母から引きはさなれる)

剣を受け取り、暁亮は構えた。目をすがめ、明香に背を向け、緩やかに構える。

(いくさ)に向かい今まさに出陣する武将の如く、巫女に背を向け、敵に立ち向かい、駆けてゆく。

誰もがその剣の行く末に引き込まれ、その鋭く哀愁を帯びた眼差しに射止められる。

戦の終結を祈り、人々の苦しみに胸を痛める純真な巫女を守るため、自らがその戦のただなかに飛び込んでいく、その悲壮な決意を秘めた表情に、心を引き絞られる。

剣の軌跡は縦横無尽、天馬を駆るように颯爽と閃く足取り、延びる指先、武将を演じる暁亮の舞に、巫女の祈りを歌う明香の清澄な(ソプラノ)が被る。

(神よ 憐れみ給え 人の世の哀しみよ 続く別離の苦しみよ)

(我は祈らん この身なら捧げ給う 果てしなき火の中へなげうつ)

(我は祈らん この身を喰らい給え 渦巻く濁流にいざ飛び込まん)

巫女は祈り、武将は戦う。明香は歌い、暁亮は舞う。互いを乞い願う矛盾したやり取りが、果て無く切ない循環を描く。

明香の高らかな歌声が、天上の神々に届けとばかりに羽ばたいていく。

暁亮の剣の舞が、生贄になることさえ厭わない巫女を守るべく、周囲に群がる敵を打ち払っていく。

しかし、巫女はやがて自らの心情を祈りに吐露する。

(ああどうか 穏やかに過ごす時を人々に返して)

(さあどうか 戦うあの人を守り 笑顔に戻して)

と、愛しい巫女を守る武将が感極まったように、暁亮が明香を抱き上げる。

天人の如き佳人が、星を映したような夜空の藍の瞳を煌めかせて、明香を見つめる。耐え切れない愛しさと哀しみに彩られながら、巫女の意を尊重して明香を天に掲げるように横抱きから肩の方へ押し上げ、だが離すまいとばかりに勢いのままにくるくると回る。

黄色い悲鳴が上がり、何人もの令嬢が失神したようだった。

しかし明香の歌声(ソプラノ)はやまず、乱れず、最後まで一心に祈る巫女のこころを歌う。

(我は祈らん この身なら捧げ給う 果てしなき火の中へなげうつ)

(我は祈らん この身を喰らい給え 渦巻く濁流にいざ飛び込まん)

(ああどうか 穏やかに過ごす時を人々に返して)

(さあどうか 戦うあの人を守り 笑顔に戻して‥)

天に臨む巫女と武将の歌と舞が終幕し、巫女は明香に、武将は暁亮に、呪が解けたように戻った。

二人の歌と舞に、誰もが舞台に戦場を見、巫女の歌声に恋し、武将の剣に共感し、その想いが、一呼吸の間を置いて(ほど)け、白焼宮庭園の桜の舞台へ帰って来る。

割れんばかりのその日一番の拍手が、明香と暁亮に捧げられた。

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