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明香≪めいか≫が父王明理≪めいり≫に呼び出されたのは、まだ空気の澄み切った早春の候だった。

夏≪か≫国王宮、清水宮の四阿に茶が用意されている。早春の早朝、まだ日が昇ってそう時間が経っていない。急の呼び出しに身支度を整えて明香が訪れると、丁度良く淹れたての茶が香った。

呼ばれてから明香が来る頃が、ちょうど見計らわれている。

侍女が下がり、明香は明理と二人きりになった。

普段から何を起こすか予測のつかない王に、周囲は慣れている。大概の人間は明理の行動をただもう受け入れるだけだ。振り回され、だが憎めない。強引な王に望んで支配されるような複雑な気持ちを、夏国の者は多かれ少なかれ抱いている。

四阿は広い庭園の池の中、石畳の小路が十字に渡された中央にある。周囲が広々と見渡され、早朝ということもあって冴え渡った心持ちになる。

気持ちのいい朝ね、と明香は思った。

「婚礼の日どりを決めなくてはな」

清涼感の残る柑橘の香のする茶を喫し、明理は言った。

明香はぱちくりと瞬きをした。

「私も一応は親だったようだ。やはり娘を手放すとなると、少々寂しいな」

娘。親。手放す。

始め、何のことかわからず明香は無邪気に父王を見つめる。空白になった心に、お茶がおいしいな、とどうでもよいことが浮かぶ。

婚礼。誰の。―自分の、だ。

「‥いつになるの?」

「そうだな。いつがいいか。婚約だけして、婚礼は先にするという手もある。なにせ、何が起こるかわからんしな。どうであれ、明香には秋≪しゅう≫へ行ってもらう」

秋≪しゅう≫国。先日、内乱があったばかりの隣国だ。冬≪とう≫国の脅威の前に和平を結ぶため、夏≪か≫国王・明理は精鋭を率いて秋を訪れた。その際に内乱が起こり、夏は散々活躍して、和平に消極的だった秋と無事条約を締結してきたのだ。

「お父さまは、どうすればいいか、もう決めているのね」

じっと父王を見つめ、明香が言うと、明理はにやりと口元を緩める。

「私の考えが最良とは限らない。私の婚礼でもないし。花婿は陽梨、字≪あざな≫は志保≪しほ≫。秋王の長男だ。19歳だったか。10歳の明香とは9つ違いになるな」

「19歳‥。明香よりずっとおにいさまなのね。志保さまは、明香のこと、知っているの?」

「さあな。必要なら陽斎が話すだろう」

陽斎≪ようさい≫。秋国王だ。

「長男、ということは、王太子さま?」

「質問ばかりだな、明香。父は少々妬けるぞ。やはり女子たるもの、興味がある訳か?」

言外に聞くなと言われたようで、一瞬口ごもる。それを見て挑発的に微笑むと、明理は続けた。

「知りたいなら、自分の目で見て来い。秋行きの目的はそれもある。‥明香、私はおまえの目に割と信を置いている。花婿は秋国王子だが、王子は二人いる。長男の陽梨と次男の陽芳。明香の婿は次期秋王だが、それが陽梨とは限らないだろう?

陽芳だと年は17、陽梨よりはおまえに近いな。陽梨より気が合うかもしれん。

よく見て来い。そして選べ。夏国王女明香の花婿を、夏≪か≫は支援するだろう」

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