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近づく明香たちに気づき、その女性は(つや)やかに微笑み、歌を止めた。歌声がやんだのにつれ、楽もおさまる。うわんという音の余韻の中、女性はそれを従えるようにして明香へ一礼した。

「夏国王女明香さまですね。お初にお目にかかります、わたくし、嵐玉と申します。本日は宜しくお願いいたしますね」

聞こえていた歌声と同様、人の心に沿い魅了する(アルト)

嵐玉は、美しく、妖艶な美女だった。しかしその微笑みは明香に挑んでいるかのように物騒に輝く。

「‥どういうこと?」

と横から、髭を二本の針のように尖らせた、鼠のような小男が声をかけてきた。

「本日は、わが青風楽団をお()び頂きまして、誠に、光栄の至りでございます。私は楽団長の青好と申します。志破さまより、明香さまのお歌の伴奏を行うよう言いつかりました。白焼宮の高貴な皆さま方の前で楽を披露できるとは、誠に、誉れあること。明香さまのお心に叶うよう精一杯楽を奏でますので、何卒、宜しくお願いいたします。

嵐玉は我が楽団の誇る歌姫、本日は明香さまのお声に沿い引き立て役となるよう、低音の第二声部分を務める所存です」

媚びたような青好の挨拶に、嵐玉はふふ、と笑みをこぼす。

この嵐玉が第二声? 明香より遥かに情感豊かで、声量あふれる歌姫が明香の引き立て役?

眼前で、銀糸を織り込んだ紺碧の上着を纏い、明香たちの前で堂々と立っている嵐玉は、どこか嘲笑するように明香を見ている。

たかが素人、と蔑まれているのがわかった。嵐玉とて自分の技量に自負を持っているのだ。

今から音合わせをするかと青好に問われ、明香ははっと我に返った。

彼ら青風楽団が伴奏するというのなら、華音たちはどうするというのだ。

明香はついてきた侍女たちを振り返る。誰も口を開かず主の明香を見ているが、顔を見ると心情はわかった。

華音は口元を引き結んで明香のために怒っている。麗鈴は事態を受け入れて無表情ながらも、眼差しは悲し気だ。朱嘉は悔しそうに顔を歪めて隠そうともしていない。旺樹は安心しつつもちょっと残念そうに、持って来た二つの鈴を抱きしめている。

「‥明香さま、私たちは、‥」

こういう時は冷静な麗鈴が、言いかける。玄人の青風楽団の演奏があるなら下がる、と言うのだろう。

歌が上手いと褒められる明香だって決して玄人ではない。

まして単なる侍女の彼女たちは、教養としてこそ楽を奏でられるが、それだけに過ぎない明白な素人だ。

だが、それではだめだ、と明香は思った。

「ごめん、麗鈴。華音、朱嘉、旺樹。下がらないで、付き合って」

彼女たちだって、この三日間は明香と同様、一生懸命練習した。

玄人に混じって楽を奏でるなんて、身の程知らずも良いところ、恥をかくだけになるかもしれない。でも、明香は彼女たちのやってきたことを無碍にしたくはなかった。

「青好、彼女たちは私の侍女なの。貴方たちがついてくれるなんて知らなかったから、今日のために練習してきたわ。悪いんだけど、中央に四人分、場所を開けてほしいの。彼女たちにも伴奏に加わってもらうわ」

「は、そうなんですか。場所を開けるのは構いませんが‥」

青好が言葉を濁す。彼らが玄人だというなら、素人を加えて磨いた技の程度を下げるこんな提案は受けたくないだろう。それはわかっている。

でも今日の歌会は、青風楽団と嵐玉の音楽を愛でる場ではない。明香の歌の披露の場なのだ。

「曲目は聞いてるよね? 三曲のうち、『満天の星空の下で』だけ、明香と四人だけでやるわ。他の二曲は皆でやる。時間もないし、音合わせをしましょう」

言い切り、明香はその場の全員を見つめた。華音たち四人は、不安と喜びが混ざった顔。青風楽団は、不満やうんざりした顔。

歌姫の嵐玉は、面白そうに明香を見返していた。明香は、にっこりと笑った。

「本日は、どうぞ宜しくね?」

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