笑顔少女
表情の変化に乏しかった彼女が、よく笑うようになったのはいつ頃からだろうか。
笑うことすら億劫に感じていた彼女は、一体どこへ行ったのだろうか。
「何そんな見てんの?」
あぁ、ほら。
またそんな風にフワフワ笑うんだ。
笑いながら俺の顔を見て「怖いよ」なんて言うんだ。
元々こういう顔だ。
「いや、そうだけどそーじゃなくて」
笑いながらさり気なく失礼なことを言ってくる。
そして相変わらずの笑顔で「あんまりじーっと見るから、顔が凄いよ」なんて言う。
口元に手を当ててクスクス笑う。
いつからこんな奴になったんだっけ。
もっと無表情で感情の起伏がなくて、あまり笑顔を見せる奴じゃなかったのにな。
いや、別に現状に不満があるわけじゃなくて…。
強いて言うなら違和感。
そして多分一種の嫉妬ってヤツだろう。
彼女をこんなにも笑顔にできる人物に対しての嫉妬。
生き生きと過ごす彼女を見てて悪い気はしないんだけどな。
ただ、彼女と長くいた特権を取られたような気がしただけ。
幼馴染みとして傍にいたから俺には確実に笑いかけてくれた。
でも今彼女の笑顔はいつだって咲いているもので、俺以外の力で笑っているんだ。
そう思うと嫉妬の一つや二つくらいするに決まっている。
「またまた怖い顔してるよ?」
へらり、俺の顔を覗き込んで笑うソイツ。
肩の力が抜けていって俺まで一緒に笑ってしまう。
まぁ、コイツが幸せそうならそれでいい。
彼女の笑顔は何にも変え難い、俺の特別だから。