第1-5
昼の間ずっと寝ていたせいもあって、夜である今、なかなか眠れない。
暇をもて余した僕は二重のカーテンを開けて、外を見る。
どの家も、もう寝てしまっているらしい。村中が暗く、昼も静かだったがそれ以上に、夜は不気味な程の静寂さを保っていた。
夜空は無数の星で輝きに満ちていたが、空に飛んでいる魔物の姿が鬱陶しい。
夜中は魔物の活動が活発になる……。
「もう襲ってこないと良いが……」
「それは分からないわね」
不意に聞こえた自分以外の声。
予想もしていなかった出来事に、何も準備をしていなかった全身は一瞬痺れたような感覚に陥る。
僕は驚き振り替えると、そこにはマグカップを2つ両手に持ったケイト・チェリーブロッサムの姿があった。
「なんか、眠れないのよ。ココアだけど飲む?」
「……ありがとう」
どうやら最初から僕の所に来るつもりでココアを2つ作ったらしい。
「僕が寝ていたら無理矢理起こしてた?」
「怪我人だった人にそんなことするはずないじゃない」
ケイトはココアは一口飲み、息を吐く。
部屋の明かりは付けていない。夜に明かりを付けるなど危険行為だからだ。
「スノードロップ」
「なに?」
「スノードロップってファミリーネームは、アダムとイヴの血族である証拠だとお爺ちゃんから聞いたわ」
「そう……だけど」
ケイトが真直ぐ、真剣な目で僕を見つめる。
アダムとイヴ。
楽園であるエデンの園から追放された罪人で、人類の始まりの存在。
僕はそのアダムとイヴの血統を持っているとされている。
「それがどうしたの?」
「だったら、魔法が使える筈じゃない。アダムとイヴの血族は強力な破壊魔法が扱えると聞いているわ。なぜ使わないの」
ケイトの声が少し大きくなる。なにか怒っている様にも聞こえた。
「僕は使えないよ。使えた試しがない。
その代わり妹のエバは強い魔法使いだったよ」
エバは天才だった。天才過ぎるほどに。
「そう。それならその怪我も仕方ないか……出し惜しみして怪我したのなら助け損だわ」
ケイトの声の音量が元に戻る。よくわからないけど、きっと彼女なりに心配してくれていたのだろう。
ケイトはココアを飲みながら、外を見上げた。
険しい表情は空を飛ぶ魔物を睨んでいるようだった。
「ねぇ、アド」
「なに?」
ケイトは一呼吸置いてから話しを切り出す
「妹って、どんな顔?」
「え?そうだな……。
君に似てると思ったよ。写真みるかい?」
胸ポケットに入れているエバの写真を、ケイトに見せる。ケイトは写真を受け取らずに横目で数秒みただけで、また視線を空に戻した。
「そう、魔王と同じ顔だわ」
「え」
甘く香るココアと共に、僕は思わずマグカップを床に落とした
そういえば魔王はまだ北の国を破壊していない