第1-2
自国である北ノ国を出て、東ノ国へ来たのは初めてだ。
このフルール村は、綺麗な所だ。色鮮やかな花が一面に咲いていて、気温も温かい。
特に村の中央に生えている桃色の花を咲かせた木は、僕の旅の疲れを癒してくれる不思議な力があった。
一年中雪しか降らない僕の地元とは大違いだ。
「この木、いつかエバにも見せてやりたいな」
エバ。突然姿を消した我が妹。
今頃どこで何をしているのだろう?
寂しい思いをしていなければ良いけれど。
「魔物だ!! 魔物が来たぞ!!」
1人の青年の叫び声に反応に村人達が上を見上げ、表情を強張らせる。
魔物の作る強風のせいで色鮮やかな花達は宙を舞い消えていってしまった。
一匹の下級ドラゴンだったが、暴れられれば当然、村はひとたまりも無いだろう。
「仕方ない。戦いは得意じゃないんだけどっ」
ドラゴンから逃げようとする村人とは反対方向に僕は走る。
僕の武器は腰に付けているこの剣だけだ。相手は空を飛んでいて、しかも降りる気配は無い。
「この村で一番高いものはあの木くらいかっ」
桃色の花を咲かせた美しい木。荒らすのは惜しいが、僕は木の枝に足を掛けて、出来るだけ高く登る。
木の上に立てばドラゴンと僕の距離は一気に近くなる。
戦闘は得意じゃない。だから派手な事はせずに、バレないよう尾に捕まり上に乗って、一撃で仕留めよう。
僕は勢いよく枝を蹴りドラゴンの尾目掛けて飛びかかる。一発でドラゴンの上に飛び乗る事が出来た。
しかしここからが問題だった。我ながら馬鹿だと思う。上に乗った事でドラゴンが僕の存在に気がついたのだ。
奇声を上げて僕を振り落とそうと暴れだしたのだ。
「うわっ止めろ!!」
ここまで来て落ちる訳にはいかない。僕はドラゴンの背に剣を刺して落ちないよう耐える。
背中から流れる深紅の血。痛みに耐え兼ねたドラゴンは翼を動かすことを止めて急降下した。
桃色の木の近くにドラゴンは落ちた。重みで地面が揺れ、振動に耐え兼ねて僕の身体は吹き飛んだ。
再び地面に叩きつけられた衝撃で頭を打ち、視界が徐々に薄暗くなっていく。
「あ〜あ、情けない」
薄れゆく意識の中で僕が見たのは、エバによく似た少女の姿だった。