8:Holy Land which is not seen
ジョーは、汚れたジュラルミンケースを拾い上げ、近くにあった廃材の上に乗せ、そのケースをじっと見つめた。
「ジョーさま?」
「……」
何か考えている様で、ノストゥラが呼んでも、ジョーは固まったまま動こうとしない。
ゴーグル越しに、いつもの睨む様な眼つきになっていた。
「ジョーさま、奴等も来ますし、早く戻った方がよろしいのではないですか……」
「そうだな、よし!!」
「?」
「 ノスト、ちょっと待っててくれ」
一人で納得すると、それまでが嘘の様に、急にジョーが動き始めた。
ケースをチェックし、開こうとする。しかし蓋がロックされていて開かない。見ると鍵穴も無ければ、ダイアル錠も付いていない。ポリポリと頭をかき、ジョーは思い出した様に呟いた。
「そういえば、確かリモコンの様な物使っていたな」
沙織がリモコンを使っていたのを思い出し、辺りの床を見回してみるが、当然落ちてなどいない。ジョーは、準備運動の様に軽く首を回すと、ARグローブを操作し始めた。
ゴーグル越しに、光のマトリックスラインが現れジュラルミンケースに重なる様に立体グラフィックスが現れた。指先がそれに触れ、順番にそれを分解して行く。
次にケースのロック部分を拡大させる。更に、新しい『Blank(空白)/leaf』を開きその四隅に有る 『Stem(接続ポイント)』からガイド線を引き出しロック部分のグラフィックスに繋げた。
「ジョーさま、何をされているのですか?」
残念ながら、ノストゥラにはジョーが行なっている事は見えない。しかし、はめているグローブが、紫の光りを放ち、闇の中で宙を仰ぎ、動かすその手の中で、何かが起きようとしているのは理解出来た。
「よし、開いた」
プシューー!!
気圧調整の廃棄音と共に蓋の部分が少しスライドする。その空いた隙間から光りが漏れて来た。
「!?」
その蓋が上にゆっくりと起き上がって行った。ケースの中の明かりが部屋の天井部分を照らして行く。
まるで魔法使いが、呪文で箱を開けた時の様に見えた。
ノストゥラは、ジョーの様子から、目を離す事が出来なかった。
「へー。他に二つもあったのか」
ジョーは開いたジュラルミンケースの中から、嘗て沙織が製作したARゴーグルとARグローブを二つ、取り出した。
「ジョーさま、もしかしてそれは……」
ノストゥラもすぐにそれが、向こうの世界でジョーが装着していたゴーグルと同じ物だという事に気が付いた。
「そう。これは以前俺が掛けていたゴーグルと同じものだ、そして俺の親しい人が残した遺品さ。このジュラルミンケースを見た時、もしかしてと思ってたが、やっぱり他にも予備があったんだ」
一旦、それらをケースに戻し、近くで床に横倒しになっていた実験用の机を起こす。埃を息で払いその上にゴーグルとグローブを置いた。
「?」
ノストゥラ は、てっきりそれを持って行くのだろうと思っていたのだが、どうやらそうではないらしく、ジョーは何か別の事を考えているらしい。
「さて、ここからが本番だ。上手く行くと良いが……」
そう言ってジョーは笑むと、グローブが、再び紫色の光りを放ち始めた。そこから先に起きた出来事は、まさに奇蹟もしくは魔法と呼べるものだった。
ザイビクスか、開けた壁の穴の前にザンブルのメンバー達は着いた。
穴の周りは、コンクリートが砂の様に崩れ、断面は鋭利な刃物で切り取られた様に綺麗に無くなっている。影響範囲内と範囲外の差、これが音響兵器の特徴だ。
「やるぞ」
ズウォームが、先程、ジェミニに見せたあの鉄球をポーチから一掴み取り出した。
「フッ!」
そして奥をめがけ壁の穴に投げ込んだ。
コーンコーン……
コーンコーンコーンコーン……
コーンコーンコーン……
金属弾む音が聞こえて鉄球は壁の穴に消えて行く。
ギュイイィィィィィィーーーーッ!?
弾む音が聞こえなくなると、鉄球の消えた奥の方から、今度はモーターが回る様な金属音が、聞こえて来た。
「よし。前進!」
ズウォームが合図を送り、ザンブルのメンバー達は穴をくぐり、施設内に入って行った。