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2. HERCULES


「そいじゃ始めるゾー」


 岩月トレーナーが、更衣室の扉を開けて中の者たちに声を掛ける。

 20~30人の男達が、ぞろぞろと駐車場と反対側の芝生の所に出てきた。その中にTシャツとクォーターパンツを履いたジョーとアキオの姿も見える。

 

『ミハエル‐システム』とはロシアの軍隊近接格闘術。元ロシア軍特殊部隊員『ミハエル‐オロフ』がソビエト連邦当時の、『スターリン特務機関』より教わったコサック格闘術を元に、オロフが体験した多くの実戦経験を生かし『ミハエル‐システム』として構築させた。

 生身だけでなく、棒やナイフ、槍などの武器に対する攻防技術にも重きを置かれているのが特徴的である。

 『ミハエル‐システム』は4つの基本概念から成り立っている。

『リラックス』『呼吸』『姿勢』『動き』この4つを保ち続ける事により柔らかな動作を描きながら、応用力の高い、防御と攻撃を両立させる技術である。

 近年、この『ミハエル‐システム』に、他の格闘技や武術を取り入れ、独自の総合軍用格闘術として採用している国が増えている。


 ジョー達は、毎週土曜日に、ここ『南原山市民体育館』で開かれる『JMSS(ジャパン‐ミハエル‐システム‐セミナー)』に参加してた。

 『JMSS』のトレーナーは3人。その中のリーダーが岩月トレーナーである。

 一見、何処にでも居そうな、40過ぎのやや頭の薄いオヤジではあるが、本場ロシアで『ミハエル‐システム』を学んだ元格闘家であり、『ミハエル‐システム』の公式トレーナーとして後輩の指導にあたっている。


 ジョーにとって岩月トレーナーに教えてもらえる事が、とても嬉しく思っていた。


 練習はまず、両腕を上げたままのランニングから始まり、独特の呼吸法を混ぜながらのブッシュアップなど準備運動にたっぷり時間をかける。

 そして、シャツを軽く汗に濡らす頃、本格的な練習に入る。


 『ミハエル‐システム』は型を持ってない。

 全て、4つの基本概念を軸に応用的に成り立っている。対裁きは三次元にとらえ、いなしながら攻撃に転じる変則的な攻撃が多く見られる。

 攻撃は、力の強さより、打点の方向や角度が大きな意味を持つ。相手を右に倒す場合、左に倒す場合、その殴る方向、打ち抜く角度に影響をうけると考えるられている。


 スパーリングは1対1から始まり、1対2、1対3、1対4と順番に相手の数を増やして行われてゆく。

 格闘経験者であれば、同時に2人位は、相手にする事が出来るであろうが、3人になるとなかなか裁ききる事ができない。

 特に相手も経験者であればまず無理と考えるのが普通であろう。

 しかしジョーは、3回のうち2回は裁ききる事が出来る様になっていた。


 「……そうそう! そんな感じ」

 「ハァ……ハァハァ……うッス」

 「……抜き手の時は、もっと全員の動きを見て……そこは手首を返して、更にここでもう一発入れる……そこはもっと速く動く! 」


岩月トレーナーの熱心な指導が続く。


「しっかしジョー君は、センスは悪くないんだが、なんか、こういつも緊張感が無いッスね~」


横にいる別のトレーナーが、岩月トレーナーに話し掛けた。


「元々彼は、呼吸と言うか、持っているリズム感が他の者達とは違うんだよね。だから一見、緊張感が無さそうにだったり、スピード感が無さそうだったり見えるんだけど、それでいて結構なレベルまで相手出来るんだよね。あれが彼にとっての自然体なんだろうなぁ」


 岩月トレーナーはジョーの動きを眼でトレースしながら語った。


「よーし今から15分休憩しま~す、今のうち皆さん水分を十分取ってくださ~い」

「ハァ!ハァ!ハァ!ハァ!……疲れた~!」


 頭に巻いたタオルを取り、ジョーはそのまま近くの芝生の上に寝転んでしまっだ。

 空は雲ひとつ無くただただ蒼い。時々、西から心地よい風が吹いていた。

 ジョーは、まるで大気を取り込むかの様に、そのまま大きく深呼吸をした。

 


 そこにアキオが近寄って来た。


「ジョー、お前のケータイさっきから、何度も鳴ってたゼ」

「ん……判った」


 ジョーは、ペットボトルの水を口に含み2~3回咳き込みながら、スポーツタオルの横の携帯電話を手に取った。


「ふぅ~。 あれ……爺ちゃん?」


 不在通知には、祖父の『犀川元蔵』の名前が、表示されていた。


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