6:Holy Land which is not seen
「ここは…」
辺りを見回し、ここが以前自分が沙織と別れたマシン 室と工作室だと言うことに気が付いた。
この部屋は、あの日以来入ってはいない。
地震により崩れた壁が入口を塞ぎ、入れなかったのだ。
むろん瓦礫が散らばり、天井から砂が落ちて来るこの部屋に、沙織は居ない。
全て元の地球に残して来た。
『ジョー君、どうかこれを使って犀川所長達を助けてほしい』
あの時 沙織がジョーに伝えた最後の言葉だ。
「沙織さん……」
ジョーは、沙織の言葉を思い出していた。
「ジョーさま、どうかしたのですか?」
ジョーの、握っていた手に微妙な熱を感じ、ノストゥラは不安そうにジョーに尋ねた。
「……あの日、この部屋で俺の親しい人が亡くなったんだ」
「……。」
「ここの研究員で『北島沙織』さんって言うんだけど、ホント良い人でさ、家に遊びに来てくれた時、色々と親身になって相談にのってくれていたんだ」
ジャリ……
ジョーの靴が砂を踏む。
「俺、小さい頃事故で両親亡くして、それからずっと祖父母に育てられていたんだ。だから兄弟とか居なくて、兄貴って憧れていてさ、あの人が本当の兄貴だったらいいなーって思ってたんだ……」
ノストゥラは、暗闇の中で沈痛な表情を見せた。
「……すいません。私達……が、ジョーさまの地球に行った為に……」
ノストゥラは消え入りそうな声で、そう応えた。
「それは違うさノスト。キミが謝る必要はない」
ノストゥラから謝罪を受けてジョーは少しとまどいながも、しっかり応えた。
「あの時、君達には、君達の大事な使命があった。そりゃ沙織さんが亡くなった事は今でも辛いし、憤りを感じるんだけど、でもそれは君達に対してじゃなく、助けられなかった"自分"に対しての事なんだ」
「ジョーさま……」
「……あの時、沙織さんの言葉に従わず、この部屋に来ないで無理矢理にでも外に連れ出せば良かった。そうすれば、もしかしたら助かったかもしれないと、今でもそんな考えがよぎるんだ」
「……」
「……そんな事考えても、今更仕方ないはずなのに……さ…」
そしてジョーは黙った。
「わ、私達が、なりますっ!!!」
「えっ!?」
視界もままならない闇の中で、ノストゥラは、ジョーの手を両手でしっかと握り締めた。
「私とヴォルが、その方の代わりになりますっ!! 私達は女なので兄にはなれません。しかし必要であれば、ジョーさまの姉となります! 妹となります! 母となります! 妻となります!全身全霊で、御気持ちに応えて行きます、ジョーさまの思うままに、何でも、何でも、お話し下さい!!!」
感極まった ノストゥラは、そのままジョーを抱きしめてしまっっていた。
「ば、ノスト……」
ジョーは、ノストゥラの思いがけない行動と言葉に、茫然としてしまった。
しかし____。
「ノスト、ありがとう。わかっている。君達は俺に会うために来てくれたんだもんな。大丈夫だ、これからは君達が俺の家族だ」
「ジョーさま……」
ジョーは愛しむ様に、ノストゥラの頭を撫でた。