3:Holy Land which is not seen
『……ザッ……あれが噂の施設か……』
ヘリからジェットパックを使い降下したギャスターズが、落下途中に、雲の下に現れた施設を見つけてマイク越しにつぶやいた。
遥か上空から見るSITL(犀川工科研究所)は、森の中でひっそりと時の流れと共に朽ちて行く遺跡の様に、『獣に乗る女』達と『M・O・T』の戦いにより、至る所が崩れ、傷み、不気味な雰囲気を醸し出していた。
『なんだこりゃ~。俺がガキの頃に絵本で見た、悪魔の城にそっくりじゃねーか。よくもまぁこんなクソ僻地に現れやがって……ったく……こんな不気味な仕事、早いとこ終わらせて、リオラの店に行きたいぜ……ザ…』
ギャスターズのいつもの愚痴は、他のメンバーにも聞こえて来る。
『相変わらずあの女に入れ込んでるのか? ギャスターズ』
別のメンバーが、ギャスターズの独り言に声を掛けて来た。
『ケッ! お前たちには彼女の素晴らしさはわかんねーよ。彼女こそ……裁きと甘露を与える真の女王だ…ザッ……』
ギャスターズの恍惚とした様子がマイク越しにも伝わって来る。
『どーせこのマゾ男は、いつもみたく散々搾り取られて、まんまと逃げられちゃうのが落ちサ』
『う、うるせーよ!』
『『ワハハハハ!』』
ジェミイがそこでちゃちゃを入れた。
バシューーーーッ!
『『!?』』
その時、落下途中のザンブルメンバーに向かって、攻撃を仕掛けて来る者がいた。
バシューーーーッ!
一発目が外れ、2発目がメンバーの一人に直撃する。
『ア――ッ!ア――ッ! エーカーが撃たれた、敵の攻撃だ!』
スピーカーからギャスターズが叫ぶ声が聞こえる。高出力プラズマの威力により、直撃を受けたメンバーは塵の様に消え去ってしまったのだ。
『固まるな広がれ! 《ベイト(擬体)》を撒くんだ』
ズウォームが指示を出す。メンバーは背中のジェットパックをコントロールして瞬時に離散する。
全員腰のポーチからカプセルを一掴み取り出し、自分の周りにバラまいた。バラまかれたカプセルの中から黒い等身大の人形が、膨らみながら現れた。
『クソッ敵はどこだ!?』
『あの施設からは間違いないと思うが、発射場所が特定出来ん!』
『どこだ!』
『どこだ!?』
『サジー! どこから狙って来ているか調べるんだ』
ズウォームが、サジーと言うメンバーの一人を呼んだ。サジーは索敵得意とするサイボーグ(改造人間)だ。
ギュコッ。
ヴィイイイィィーー。
彼は視界を通常視野にサーモビジョンモード(熱感応視野)とバブソニックモード(造型音響視野)のマルチに起動して辺りを見回す。
バシューーーーッ!
またメンバーがやれた。これで二人目の犠牲者が出た。
『ボス、あそこだ!』
サジーは、こめかみにある副眼球に仕込まれたレーザー照準器を使い、SITL(犀川工科研究所)の外壁の右側隅のある場所を示した。
その先に動く影が見える。
『クソがぁーーっ!!』
ギャスターズが落下状態のまま後方一回転し、背中のライフルアサルトを取り出す。そして叫びながらその方向に向かって乱射する。
しかしアサルトでは射程外の為、弾道は反れて行く。
『パドリー、ドップ、ライカン、この状況でやれるか!』
ズウォームが長距離攻撃能力の者達を呼ぶ。
バシューーーーッ!
『『なに!?』』
その時、遠距離攻撃の一人、ドップが餌食になった。
『気をつけろ、別の場所にも敵が居る!』
サジーはカメレオンの様に反対側のレーザー照準器の付いた副眼球を、別の敵に向けた。
『そっちは、俺にまかせぇ!』
少し上方でフルプロテクトアーマーに大口径の電子兵器を両肩に担ぎ、スペースレンジャーの様な姿で落下しいるスキンヘッドの男が叫んだ。
『ザイビクス、外すんじゃねーぜ』
ギャスターズがちゃちゃを入れる。
『わははははっ たわけっ! お前のショボい腕前と一緒するなーーッ!』
ヒィィィイイイィィーーーーッ
ドゥッ!!!
肩の電子兵器が収縮音を上げ、その後、大音響発せられた。
ヴァンッッ!!!
まだ1000M近く離れているSITL(犀川工科研究所)の側面の壁がその音と共に、直径18M程の大穴が空いてしまった。
ザイビクスの肩の電子兵器は『カイマイン』という物体の崩壊波長値を利用した、『イル・アーミン‐モリー(第2種装備兵用重兵器・無弾砲)』の一つだ。主に敵アジトの全滅作戦や、広範囲に潜むテロリストの戦意を削ぐ場合などに用いられているが、ザイビクスの物はこれを改良し、崩壊波長値を人体の殺傷域までにしたものだ。
『やったか?』
『いや、まだ死んではいない』
サジーが応える。
バシューーーーッ!
バシューーッ!
ドドーーン!
敵が反撃をして来た。ザイビクスの肩の『モリー』に直撃した。
『ヌォオオォーー!!』
ザイビクスは、誘爆する前にレバーを引き、肩の『モリー(無弾砲)』を強制排除させた。
後方で大きな爆発が起きた。
『おのれっ!』
敵の屈辱的な行為に怒りを露わにするザイビクス。
『もうろくするには随分早い事だなぁザイビクス』
やはりギャスターズが茶化す。
『いや、間違いなく当てた。奴には効かんのか?』
『そうだ。確かに当たっていたが、ダメージを中和されたんだ』
監視していたサジーが応えた。
『ザザ……あぁ? ザイビクスの『モリー(無弾砲)』を中和? バカな。なんだそりゃ?』
バシューーーッッ!!!
今度は反対側から、また攻撃を受ける。プラズマは『ベイト(擬体)』には目もくれず、またメンバーが被害者になった。
『敵は、この距離からしっかりと俺達が見えている。このままここに着地するのは危険だ。少し距離を取って着地する』
『『了解』』
今、ズウォームの頭の中では、敵の情報の修正を行っていた。