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キング・ジョー Absolutely world in the goggles  作者: 蘭堂
Huge tower of mystery in the "Baongu"
62/74

0:Tragedy it is sealed

 日が暮れた頃、パスケットの町に多くの人々が集まり始めていた。

 幹線道路の路肩には駐車場を求める自動車が並び、リュックを背負った旅行者風の若者達や、家族で歩いて町に向かう者も多くいる。

 町に入って行くと、大通りには賑やかに露天商が至る所で商いを行っていた。記念グッズや揚げ菓子、焼鳥や飲み物など、町に来た信者達を相手に熱心に販売していた。

 通りを歩く人々はそれぞれに首から赤地に黄色と黒の襷を掛けて、ラッパや笛、鐘などを鳴らし、あちらこちらの曲がり角には法衣を着た男達が右手に香の入った袋を持ち何やら叫んでいる。普段、ひなびた観光地程度の小さなこの町は、今夜、溢れんばかりの人の波に騒然としていたのであった。


 特に町の西側にある『サブィインの広場』には、既に数万人もの人が集まっていて、皆が広場の中心に向かい各々が熱心に祈りを捧げていた。


 今日は、パスケットの町で100年ぶり行われるミノス教の大切な儀式の晩だった。



「兄貴ー待ってよー」

「はやく走れ! 始まってしまうだろ」


 その広場に向かう雑踏の中を二人の子供達が走っていた。

 他の人の腕や肩にぶつかりながらも必死に走る子供達。

 年齢なら13、4歳くらいだろうか、話しぶりからすると、どうやら兄弟らしい。

 

「ハァハァ、兄貴ー」


 弟の方が疲れ始めている様子で先行く兄と差が開き始めていた。

 

「しょうがないな」


 兄が弟の左手首を掴み、引っ張りながら走る事にした。

 弟は、息を切らしながら腰が抜けた様な姿勢で右手をぶらぶらしながら兄の後をついて行った。

 兄弟は人混みを抜けると、何故か広場ではなく横の路地を抜け、少し離れた古いアパートの中に入って行った。

 中に入ると、すぐ正面に階段があり、兄弟はそのまま灯りも点けずにドタドタと地下に降りて行く。

 そして薄暗い廊下を進むとその先の扉の前で止まった。 兄はそこで片膝を付き、肩掛け鞄から懐中電灯と古い鍵把を取り出し、扉を開けた。


「行くぞ……」

「うん」


 灯りは一つも無く、階段側から来る微かな光と兄が持っている懐中電灯だけが頼りだ。

 普通の子供ならこんな不気味な場所なら入るのは御免だろうが、しかしこの兄弟達は、臆する事なくその部屋に踏み込んで行った。

 部屋の中は小さな物置場になっていて、四隅に古い木箱や、よくわからない道具、麻袋、樽などが高く積み上げられていた。兄弟達はその壁の一角にある荷物をよけた。するとそこに人一人通れるくらいの穴がぽっかりと空いていた。


 兄がその穴を覗き込み弟に言った。


「オレが入って行くから、オマエはここで待っていろ」

「えっ、オレも行くよ」

「ダメだ、この先は危険すぎる。オマエが居たんじゃ足手まといになる。ここで待っていろ」


 兄は子供ながら、厳しい表情で言った。


「イヤだっ! ねー兄貴ー、連れってよー、オレも助けたいー、ねー兄貴ぃー兄貴ぃー」


 弟の方もここで置いて行かれるとは思わなかったので必死で訴える。

 兄は、暫く弟の顔を見ながら考えて「……絶対に捕まるなよ」と言って、穴の中に入って行った。

 弟は「うん、わかった」とつぶやいて兄の後に続いて穴に入って行った。


 穴の中は、レンガが壁にはめ込まれた細い通路になっている。

 ここが造られてかなり年数が経っているのであろう、所々で風化してレンガが崩れ落ちている場所もあった。


 その中を、兄弟達はしっかりした足取りで進んで行った。


 やがて遠くに明かりが見えて来た。

 どうやら、どこかの部屋にたどり着い様だ。


「ここから、足音をたてるなよ」


 小声で後ろの弟に言った。

 弟は黙ってうなづいた。

 たどり着い場所は、地下礼拝堂の横にある小部屋の天井裏だった。

 兄弟達が通って来た穴は、教会の古い抜け道だったのだ。長年積み重なった埃が一面に広がり、二人が進むごとに、闇の中に舞い上がる。


 兄は真ん中辺りの床板から光が漏れる所を見つけ出し、下を覗き込んだ。


「どうやら誰も居ない。降りるぞ」


 兄は鞄からロープを取り出し、梁に固定する。電磁メスを持ち床板を埃ごと丸く切り取った。

 煤けた臭いが辺りに立ち込める。

 切り取られた床板を横にずらし、兄弟達はロープを伝い降りて行った。


 下に降りると、そこには、緻密な彫りを施された2メートル程の樫の台座の上に、10歳くらいの女の子が麻の衣を着て寝かされていた。

 そして部屋の周りの壁には、金や銀の調度品が所狭しと置かれていた。



「……」

「……」


 台の上で眠る女の子は、髪が長く艶やかな栗色。端正な顔つきに、肌は透き通る様に白い。長い睫毛を閉じて眠るその姿は、まるで天使か西洋人形の様に愛らしい子だった。美愛の女神に寵愛されていると語ったとして、誰がその言葉を諫めるだろうか。

 兄弟達は、その女の子を眺めていた。一瞬の安らぎが兄弟達に巡った。

 しかし――。


「急ごう……入り口を見張れ」


 厳しい表情に戻った兄が弟に指示する。


「う、うん」


 弟は女の子の足下の方にある木戸の前に立った


「……テレサ、テレサ」


 兄はその女の子を抱き上げて声を掛け、揺すった。

 しかし、長い睫毛に伏せられたその瞳は一向に開こうとしない。


「ちくしょう、アイツら薬を飲ませたな」


 仕方なく、兄はテレサと呼ばれた女の子を背負い、持って来たカラビナとロープで自分と女の子を繋ぐ。

 長い栗色の髪が、兄の肩にかかる。


「ハヤタ、扉の向こうの気配はどうだ?」


「大丈夫。来てないよ」


 弟が鍵穴から覗きながら言った。


「よし。来い、ずらかるぞ」


 兄は天井から垂れたロープを掴むと、そのままテレサを背負ったまま、ぐいぐいと登り始めた。

 子供にしては、たいした腕力だ。

 瞬く間に登りきってさまった。


 弟は再び木戸に耳を当てて外様子を確かめた後、天井から下ろされたロープ下に行った。


「周りの物に気をつけろよ」

「う、うん」


 弟も登り始めた。

 しかし兄とは違い、コツが分からず、腕だけでロープを登るには彼の腕力では少々キツい。

 ぶらぶらと身体が振り子の様に揺られてしまい、思う様に登る事が出来ない。


「何してる、はやく登れ」


 兄が天井の穴から顔をだす。


「ちょっ、ちょっとまって……よ」


 苦労しながらも登て行ったその時。


「あっ!?」


 ガシャンガシャーン!


 左の靴先が、壁側に置いてあった、金の取っ手の付いた水差しに当たってしまった。


 ガシャンガシャンガシャンガシャーン!


 かん高い金属音が部屋中に鳴りだした。

 弟の足が当たった水差しが倒れ、それが基となり、ドミノ倒しの様に次々と、調度品が倒れて行ったのだ。


「バカヤロー、急げっ!」


 兄が叫ぶ。

 弟が焦る。

 木戸の向こう側が急に騒がしくなり、数人の駆け寄る音が聞こえて来る。

 見かねた兄が、宙ぶらりんになっている弟の腕を掴み一気に引き上げようとした。


 ガチャ!


 その時、木戸が開き法衣を着た数人の男達が、武器を持ちながら、どかどかと入って来た。

 

「何者だ!」

「待てっ!」


 天井のからロープでぶら下がっている弟を見かけると、その足に飛び付いて来た。


「わああぁぁぁーーっ!!」


 右足を掴まれ慌てた弟は、咄嗟にその手を反対の足で蹴りつける。靴が脱げて掴んでいた手が離れると、ロープを登り一気に天井へ着いた。


「逃げるぞ」

「ハァハァ、靴が……」

「靴なんか後だっ!」


 兄がそう言うと弟の手を掴みながら猛然と来た通路を走り始めた。

 暗い通路の中を今度は懐中電灯を点けずに走って行く。来た時の記憶だけが頼りだ。

 法衣の男達も、ロープを登りその後を追って行った。


 兄が途中で、壁を蹴りつけた。

 古いレンガがガラガラと崩れて穴を塞いで行く。

 追っ手を来させない為に咄嗟に討った手だ。


「クソッ!?」

「やられた、通れないぞ!」

「仕方ない地上(上)から回り込め!」


 崩れた穴の向こう側から追っ手の声が聞こえる。


「ヘッヘッ」


 兄はその声を聞いてしたり顔になった。



 兄弟達はアパートの地下を出てた。

 フード付きマントと信者が使う襷を、鞄から取り出すと、一組を弟に渡し、もう一組をテレサが背中に乗ったまま羽織った。


「このまま人混みに紛れて町を脱出するぞ」

「わかった」


 うつむきながら、顔をフードで隠し、目立たぬ様に人の流れに逆らわず進んで行く。近くを何度も法衣の男達が走り過ぎて行く。

 それでも兄弟達は決して無理をして走らない。

 やがて町外れに差し掛かり、後少しで町を出る事ができそうと思ったその時――


「待てっ!」


 突然、弟が後ろから肩を掴まれた。


「!?」


「オマエ達、襷があるから信者の者だな。儀式はもうまもなく始まるが、今から何処へ行く?」


 町の入り口近辺の警備を担当をしていた、二人組の法衣の男が、兄弟達に尋ねたのであった。


「は、ハイ。あ、あの……自宅に忘れ物をしてしまったので、ちょっと取りに行く所でございます」


 兄が咄嗟に嘘をつく。


「ン? オマエは何故靴を片方しか履いていない?」


 別の男が、弟の足下を見て、靴が無いのを指摘した。


 凍り付く兄弟達。

 その時――



「それは、靴を地下室に落として来たからですよ」


 後ろから、もう片方の靴を摘みながら、白い法衣を着た男とそのお供を連れた集団が現れた。


「ざ、ザイツ様」


 警備の男達が、その白い法衣の男を見て、慌てて一礼をする。


「リスタール(神子女)を盗み出すとは大胆な賊ですね。しかし残念ですが、その子にはサテライト発信機を取り付けてあるのです」


 臨戦態勢をとり、ザイツを強く睨み付ける兄。


「まもなく儀式が始まります。はやくその子を返していただきましょう」


 兄は隙をみて逃げ出そうとする。

 ザイツは銃を取り出し、弟のこめかみに銃口を付けた。

 怯える弟。


「おっと、もし逃げようとするなら、キミの弟が死ぬ事になりますよ、ドラコ君」


「「!?」」


 驚く兄。

 正体までバレていたのだ。


「我々はリスタールを選出する時、家族、親類縁者、友人、知人、生まれ、生活環境等、その子に関するあらゆる全てを調べるのです。だから当然、その中にキミ達の事も含まれているのです」


 名を言われ観念したドラコは、肩を落としマントを脱ぎ捨てると、まだだ眠っているままのテレサを下ろし始めた。


 ザイツはテレサを受け取ると、にこやかに一礼した。


「賢明なアナタの行いに、主もきっとお喜びになるでしょう」


 しかし、その目は笑んではいなかった。


「フォーゼ。後は任せました」

「ハッ」


 横にいる従者に一言告げるとテレサを抱いたまま行ってしまった。


 そして、男達に囲まれた、ドラコとハヤタの兄弟は、絶望の中、何度も振り下ろされてゆく警邏棒により意識を失ってしまった。



 2章『Huge tower of mystery in the "Baongu"』始まりました、

宜しくお願い致します。


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