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1. HERCULES

  日本 南原山市市民体育館


 今年の夏は異常気象といわれ、ここ数日、特に暑い日々が続いていた。

 日中の日差しも刺すように強く、ゆらゆらと陽炎は立ち上り、建物や自動車などの影が、黒くはっきりと地面に映っている。

 体育館横の駐車場に並ぶクヌギ林では、今朝羽化した蝉達が、ミンミン、ジージーとやかましく鳴き、夏の暑さを一層際立たせていた。


 体育館にはこの時期、館内の風通しを良くする為に、皿板を挽いてある横の出入り口を全開にしている。

 そこにブルーのタオルを頭に巻いた一人の青年が、外の風景をぼんやり眺めつつコンビニオニギリを食べていた。

 横には外側に水滴のたっぷり付いている冷えたペットボトルの水もある。

 

「おーい、ジョーッ!」


 その時、体育館の奥側から、黒の短パンに赤いランクルーシャツを着た短髪の男が現れた 。

どうやらその青年を呼んでいるらしい。

声を張り上げながら近付いて来た。


「アレ?まーだ飯食っていやがる、ジョーそろそろ着替えないと練習始まるぞ……」


「ん…ぁぁ……」


 ジョーと呼ばれた彼は、返事も適当にそのままの姿勢で呆けた様にオニギリにかぶりつく。


「ムムムッ?」


 男は、ジョーの後ろに屈み込み、その視線の先を、眼で追った。


「わっ!? なんだアキオか」


 気配を後ろに感じて、慌てて振り向いた。


「おかえりぃ~~。」

「……た、ただいま。」


 男はワザと低い声でジョーに帰宅の挨拶をした。


「ジョーは、ま~たボーッとしてるな」

「別に……なんでもない」

「嘘つけ、またなんか考え事してたくせに」


アキオは、見透かし様したり顔で呆れてみせる。


「女の事で悩みとか?」

「アキオじゃねーよ」


ジョーは、怪訝な顔でアキオを見た後、溜息をつきながら話し始めた。


「アキオには無いか?『あー今ココに居るんだなぁ~』って……感じる瞬間つーか、感覚みないなモノ」


上を見上げながら人差し指を立ててクルクル回し、説明してみる。


「何それ?」

「アキオには無理だったかぁ……」


ジョーは、諦めた様に持っていたオニギリをコンビニ袋の上に置き、ペットボトルのキャップを外し、水を一口飲み込む。

空には、ひとすじの飛行機雲が見える。


「ムムムッ!」


アキオが理解できない事を、ジョーが一人で納得していたので、なんだか小馬鹿にされた様な気がしてアキオは少しむくれた。

 その様子を無視したまま続けてジョーが話す。


「んでどうかしたんだ?」

「チェッ、俺の話し聞いてないのかよ。もう練習始まるから呼びに来てやったんじゃねーか。来週の丹沢合宿の件で説明があるから、今日は時間早めて1時から練習って、岩月トレーナーが言ってたじゃん」

「あー…………え!そうだっけ?」


 ジョーは、ペットボトルとそのキャップを持ったまま、眉間に皺を寄せて上を見上げる。


「おーー!!」


 やがて気がついたらしく、慌てて残りのオニギリを、一気に口に放り込んで食べてしまった。


「マッタク、天然系お坊ちゃまだなぁ」

「モグモグ――ははは、ドンマイ」

「ドンマイはジョー、オメーだ!!」


 自分の事をお坊ちゃまと言われてもさして気にした風もなく、ジョーはペットボトルの水を飲みきって立ち上がった。



 地下の更衣室に向かう途中、アキオが話し掛ける。


「ジョー。なんかオマエ最近ぼーっとする事多くねぇか?」

「ん、そうか?」

「自覚ねーのかよ、ジョーがゼミでもずっとそうしてるから、理恵と沙也香も心配してたぜ」

「理恵と沙耶香? なんであいつらが? 」

「バーカ。アイツら二人とも、お前にホレてんぞ」

「ヘェ~、そうなんだ。はじめて聞いた」


満更でもないというジョーの表情を見てアキオは愚痴った。


「はぁ~あ。理恵も沙也香も何でこんなヤツが良いかなぁ」

「ヲイヲイ。えらい言われようだな……」


ジョーが突っ込む。


「総入れ歯アキオ、夏休みに入ったら沙也加にコクるって言ってなかったか?」

「ムムムッ……」

「言えよ、あれからどーなったんだよ。俺結果聞いてないぞ?」

「う、うるせーーっ!!!」

 

 痛い所をつかれイラついたアキオは、毒ついて乱暴に更衣室の扉を開けた。


「なんだ、玉砕かよ」


 アキオの後から更衣室に入ったジョーはそうつぶやいた……。


犀川丈サイカワジョー

 城西医科大学1年生、

 両親は小学校4年生の時に自動車事故で死亡。現在は祖父の犀川元蔵工学博士と、祖母の絹代と同居している。

 身長178cm、体重65kg、丹精な顔に、マイペースな性格で、よくトラブルに巻き込まれる。休日には、地元の同級生、アキオと共に南原山市市民体育館に『ミハエル‐システム』を習いに来ていた。


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