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3.キャトリーヌ ON AIR

 太平洋沖250キロ

 アスチュート級原子力潜水艦『アグドール(Agedoll S-126)』内



「艦長、オルグ指令より『CHAMPS-Ⅱ(EMPミサイル)』の発射コードが届きました」

「目標は?」

「当初の予定通り『SITL(犀川工科研究所)』です」

「ゾーンデジットチェック済んでいるか?」

「はい、コアコード025°、大気気圧―12hpで確認済みです。最大効果高度での想定範囲は半径約116キロメートル。一部大都市に掛かります」

「わかった」

「こちらにサインをお願いします」


 艦長と呼ばれた男が差し出されたパッドに人差し指で記号を入力、壁に取り付けられた、装置のカバーが開き中からスイッチが現れた。


「カチッ」


 そのボタンを押すと、封印されていたEMPミサイルが発射装置に自動装填された。




『EMPミサイル』(電磁パルスミサイル)

 高高度電磁波兵器:強力な電磁パルスによって半導体や電子回路に損傷与えたり、一時的に誤動作を発生させる軍事用兵器。

非破壊・非殺傷兵器としてアメリカ軍が開発を進めていると言われている。


 


 艦長と副艦長がキーを差し込み捻る。


「3・2・1、発射っ!」


 ゴボゴボと泡を立てて海中より『CHAMPS-Ⅱ』が発射された。



日本:SITL(犀川工科研究所)


 ドンッ!!!


 こもった爆発音が『転送装置』から聞こえて来た。黒く煙が立ちのぼり、見ると装置の扉が爆発の影響で、強い力で外側にねじ曲げられていた。

 やがてその中から、扉を跨ぐようにしてジョーが現れた。

 

「よぉ~っし! 実はさっきはちょっと食い足りないって感じだったんだよね」


 ジョーは笑いながら独り言を言った。


(ちょちょ、俺の身体で何するんだよ)


「だから、言っただろうゴーグルの使い方レクチャーするって」


 そう。ジョーの身体は、ジョーの別バージョンと言う男に乗っ取られてしまっていた。


「そんなに心配しなくても大丈夫だって。キミの身体は、既に何度も利用させてもらってるから」

(はぁ!?)

「時々、あっただろう? 現実感が喪失する時が」

(ええ!? アレの原因、オマエだったの!?)

「その通りィ~。でも、おかげで何度もピンチを切り抜けれただろう? 結構、僕は陰ながらキミを助けていたんだよ」

(し、知らなかった)

「だろうね~」


 ジョーは、柵の縁に足をかけその上に立つと、両手をポケットに入れ見事にバランスを取りながら呟いた。下を見ると未だに『獣に乗る女』達と『M・O・T』の戦闘が続いている。


(アノ兵士達はどこから来ているんだ?)

「アノ兵士は、長年こちら側の地球の支配権を行使している者達の兵隊だよ」

(支配権?)

「そう。金融、資源、宗教、あらゆる物で社会の裏側から人々を管理している者達さ」

(ほー、知らなかった)

「まぁ、知らないってんならそれだけ裏側からの支配管理が行き届いていた証拠だね。しかし実は彼らこそ、今日のこの日が来るのを昔から恐れていたんだ」

(何故?)

「今まで通り自分達が支配する様に出来なくなってしまうからさ。しかし実は彼らもまた、この『相対領域』の世界の法則に縛られ、ただ役割を果たしているにすぎないんだ」

(なんの役割だ?)

「闇」


 『獣に乗る女』達がジョーの存在に気付き、こちら向かって来た。


(アレ?そういやぁ地震が止まっているな)

「あぁ。アノ地震は、こちら側の『冥約の王』を導く合図の鐘だ。『星』は次元を渡り、こちらの『冥約の王』つまりキミの事を迎えに来ているんだ。今度は進化を賭けた大いなるゲームのこちら側のターンさ。だからこそ僕は、キミの前に現れた」

(……。)


 バシューー!バシューー!


 『獣に乗る女』達がジョーに向かって攻撃を始めた。雷球がジョーの頬を掠めて行くが、気にも留めていない様だ。


(おぅい、敵の攻撃当たりそうだぞ)

「あはははは、楽しいねぇ」


 ジョーはゴーグル越しに笑を深める。


「さてさて、レクチャーを始めるとしよう。操作の基本は、今までキミが使っていた『ARゴーグル・グローブ』と一緒さ。でもね、扱うレベルははるかに違う。量子コンピューターなど、まさに赤子の知恵さ」

(俺、それすら使いこなせて無かったんだが……)

「あはははは。今日の今日では仕方ないさ、どんまい」


 ジョーは右手をポケットから抜き、前に差し出す


「いいかい? 必要な事は、無限の叡智アカシックレコードから如何にして正確にルートを辿るかと言うう事だ」


 手を動かし、幾つもの『Leafリーフ』を慣れた手つきでコントロールして行く。


「コノ技は言葉に言うなら『原子転換』。先程、壁の前で話した事を真に理解すれば、容易い事だと気付くはず」

(な、なんだ!?)


 ジョーの身体を共有している為、男が見ている物をジョーも見ている。

 無造作に差し出した手の10メートル程先の空間に霧が現れた。『Time measurement(時間計測)/leaf』がジョーの前に現れ、カウントダウン開始。次第に霧が黒い鉄球のような固い物に変化して行く。その横に『Information(情報)/leaf』が現れ『バイラス』とだけ記述されていた。


「『原子転換』は体内や加速器などだけで起きる限定された現象ではない」


 今度は、左人差し指を立てて、くるりと回した。『バイラス』と表示された鉄球の変化状況を伝える『Information record(情報レコード)/leaf』がページを捲る様にパラパラと現れ、消えて行く。


(をいをい。文字が読めなくて、ついて行けないんだが)


 『Information(情報)/leaf』には言語以外の見慣れない記号の様な物も多く表示されていた。


「まだ地球には発見されていない現象が幾つものあるからね」

(そんなの理解出来ないって)

「大丈夫さ、必要になればキミは理解して行く。全ては時間が解決してくれる」

(ホントかなぁ?)


 ジョーは心の中で溜め息をついた。


「かつて地球は原子転換より始まった。宇宙も満ちる無限のエナジーが『絶対領域』より波動を下げこの『相対領域』へフォールダウンしたのさ。今、その現象を限定的に恣意的に行っている。この叡智を『ARゴーグル』が視覚的に効果的にキミに伝えてくれるのだ」


 そのまま右手指先を頭上に上げる。きっかけを与えられた様に鉄球が回転を始めた。


「いよいよ、時の扉が開かれた。さぁ、地球を賭けた大いなるゲームの始まりだ」


 『バイラス』と呼ばれた鉄球を中心に光りと衝撃波が施設内の空間を立体的に裂いた。その後、静寂が起こり鉄球自ら光りを放ち出した。


(!?)



 シュイイーーン!シュイイーーン!シュイイーーン!!


 鉄球の周りに光りのラインが現れた。それは蜘蛛の巣の様に次々と広がり、キューブ状に空間を切断して行く。


「うわぁーー!」

「あーー!」

「ヒィィーー!」


 戦闘中だった兵士達や、『獣に乗る女』達も突然現れた光りのラインに縫い止められ、全てが凍りついたみたいに動かなくなってしまう。

 まるでそこだけ時間が止まってしまった様だ。


『こ、これはっ!』

『ヴォル!』


 ジョーが消えた後、兵士達と戦闘をしていたヴォルテスとノストゥラも光りのラインに絡め取られてしまった。



 やがてキューブ状に切り取られた空間が至る所点滅を始めた。すると、その空間が順番に消え始めて行った。


(こ、これは…?)

「『原子転換』の次は『原子転移』さ。この空間と別の場所の空間と入れ替えているんだ。これ以上無駄な殺生は時間の無駄だし、不要な役者にはそろそろ退場していただく」


 パタパタとまるでパズルの様に空間が消えて行く。オルグ指令や兵士達が着けていた装備を残し、次々と消えて行った。


 ジョーは床に飛び降りると、そのまま歩き始めた。


「ン~ン~、バッチリ決まったね」

(まるで魔法だな)

「キミも科学者の孫だったら覚えておいて。空間に物体を現す事は、空間と波動の仕組みを理解できれば不可能な事ではない。もしそれが普通人にも理解できればそれは科学と呼ばれるモノになり、理解できなければそれは魔法や奇蹟などと呼ばれるモノになるのだ。キミが『ARゴーグル・ARグローブ』を使って『アカシックレコード』から空間と波動の仕組みの事を探し出せばそれは魔法ではなく、キミにとっての科学に変わるのだ」


 ジョーはそう説明しながら、光りの壁を何事も無かった様に通り抜けて行く。

 拘束される事はない。 



(『原子転移』って、皆どこに飛ばされたんだ?)

「取り敢えず、彼らの隠れた所に戻してあげたよ」

(あれ?『獣に乗る女』達は……)

「彼らには別の役目があるからね」

「ひの…ふの…み……と。よーし、全員メンバーは揃ったな。じゃ早速準備に取り掛かるっとしよう!」


 辺りを見ながらジョーは揉み手をしている。


(え、メンバーって?)

「まずは彼女達」


 そう言ってジョーは、ヴォルテスとノストゥラの前で立ち止まった。彼女達は、石像の様にそこで停止していた。


 ジョーはそこで新たな『Leafリーフ』を開いていった……。


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