11.VELVET RAIN
ジョーは、転がりながら転送ルームの中央辺りで、仰向けになりなって止まった。そして彼の後を追う様に、壊れたゴーグルも転がって来た。
彼の手にはグローブをつけたまま『嘆くメルデの地球儀』を掴んだままで、彼の身体は、紫色の炎に包まれたままだった。
ゴゴゴゴゴゴゴオォォォーーーー!!!
地震の振動が衝撃吸収装置の付いているこの部屋にも響いて来る。しかし転送ルームの外では、既に地球が終わってしまうかと思う程の揺れが起きていた。
『ヴォル、早くあの男を……!!!』
『わかっている。任せろ』
吊り橋になっている通路で、これだけの揺れの中では、なかなか思う様には進めない。ヴォルテスは波の様にうねる床を踏みしめ、転送ルームに近付いて行った。
施設内に強い放電現象が起こる。地下室内の空気が、地震により急激にシェイクされ気圧が変化を起こし、大気中の埃や塵、水蒸気が触媒となり、まるで雷の様なスパークが発生していた。
ババババババッ!
そのスパークの一つが、固定してあったケーブルの接合部の金属に落ちた。『バチバチバチ』と火花を放ちながら、ケーブルに沿って壁を這う様に駆け上って行く。そしてそのまま鉄骨の金属に伝わり、『ドンッ!』と言う爆発の様な音を立てて天井が崩れ始めた。
「ワァァァーーーッ!!」
下にいた兵士達や『S・A・D』、『獣に乗る女』達が巻き込まれて行った。
……ピポッ。
その時、『転送装置』に灯りが点った。
ガコンッ!
ウイイィィィーーーン
ヴォルテスがあと少しで転送ルームの入口に辿り着くその時、絶妙なタイミングで、扉が閉じて行く。
『待て!』
ヴォルテスはとっさに声に出してしまった。
少し離れた所にある、既に誰も居ないコントロールルームの2Dモニターにメッセージが流れる。
ピピピッピピピッピピピッ……ピピピッピピピッ。
『Loading system version 12241.5f……Firmware version 6.2.00336a……Completed Environment Check……Rotation of the port forwarding preparation Circle……Connect the accelerator start………』
ドギュン! ……ウォオオオオオオオオオオ――
『転移装置』が青い光りと共に低い重力音を発し始めた。
更に、入り口の回りにある、サークルが発光しながら回転し始めた。
そう、この地震の中で『転送装置』が何故か勝手に起動を始めたのだ。
『見てヴォル、この機械が動き出してる』
『えっ!?』
閉じた扉を前にしていたヴォルテスが、ノストゥラの指摘で上を見上げた。
ウィンウィンウィィンウィィィンンウィィィンンンーーーーー
入口近辺にある巨大サークルが青白く点滅をしながら回り出した。しかし軸に狂いでもあるのだろうか、その回転は何んだかとても不安定だ。
ヴォルテスが電磁ソードを使って入口の扉を斬ろうとする。
ドンッ!
しかし、剣先が届く前に、ヴォルテスが姿勢を崩し尻餅をついてしまった。
ウィィィィィィィィィンウィィィィィィィンウィィィィィィィ――――
サークルのスピードが少しづつ上がり、次第にその回転が安定して来た。
『ノスト、これは何の機械なの?』
『わ、解らない。この施設全てが何か大きな実験を行っていたのは理解していたけど。ヴォル、速くそこから離れた方がいいわ』
ノストゥラが、上で激しく点滅するサークルを見ながら言った。
『ダメだ、この中に男が居る。早く彼を殺らなければ』
ヴォルテスは近くの柵を掴んで立ち上がり、再び剣を振り上げ、扉に斬りかかる。
ボンッ!!
『転送装置』何処かの部分で爆発が起こった。衝撃と共に部品の一部が吹き上げられ、そしてヴォルテスの足元に落ちて来た。
『ヴォル、上っ!』
『!?』
ヴォルテスが足元に気を取られていると、今度は天井から数本の鉄骨が落ちて来る。
『フンッ!』
ヴォルテスは地震で足元が覚束ない中でも、電磁ソードでそれを全て真っ二つに切断して行く。
ヴイイイィィィアアァァァーーーーー!!!
その間にも光るサークルが音を変え、スピードを上げて行く。
ジョーが転送ルームの中で眼を醒ました。
「あれ? ココはさっき居た……」
ヴォルテスに斬られるのを間一髪で逃げた事を覚えていない様だ。
「カーッ! またココかぁ」
身体を起こそうと、床に両手をつくと『コツッ』と爪先に何かに当たる感覚があった。
「ン?」
それを拾い上げ眼の前に持って来る。何処かで見た事がある物だ。
「エート……あーーーーっ!!」
何処かで見たなぁと、暫く考え、ジョーはそれが自分が付けているARゴーグルの部品と言う事に気が付いた。
「うわっマジか!」
ジョーは、はたはたと自分の眼の辺りを触ってみる。やはりゴーグルは着ていなかった。せっかく沙織さんがくれた物なのに壊してしまった事に心底ヘコんだ。
仕方なく壊れたパーツを全部拾い上げ、クォーターパンツのポケットにしまい込む。いつか元蔵にでも修理してもらう為に……。
そして、いまだ紫色の炎に包まれている自分の右腕を眺めた。
「いったいこれは何だ?」
握ったまま離れない、砂の入ったクリスタルをじっと見る。
「それにこの紫色の炎みたいなヤツ。火にしては熱くないし……そもそも、赤や青い火なら見た事あったけど、紫色の火なんて初めて見た」
ジョーは炎に左の手のひらを近付たり離したりしてみせた。
「ン?」
その時、ジョーは自分の異変に気が付いた。紫色の炎を上げ燃えている自分の手が、次第に透けて行ってるのだ。
「エッ?エッ?エッ?エッ?」
シュウシュウと音を立てて自分の手か消えて行く。
「オイ! ちょっと待て、エッ!? なっ!? わ、ワアアアアァァァーーーーー!!!」
外で青白く点滅していたサークルの光りが、急に大きく赤色に変化した……。
ジョーの身体が煙りの様に離散し、やがて転送装置の中で消えてしまった。
ガッガッ!
ギュオオオオォォォォォーーーー!!!
光が弱まり不快な音を立てて『転送装置』が止まり始めた。
停止きる前に、ヴォルテス達が扉をこじ開ける。
扉を壊し、そのまま中に踏み込むと、床に『嘆くメルデの地球儀』が転がっていて、他には何も無かった。
ヴォルテスとノストゥラは茫然と地球儀を見つめていた。