9.VELVET RAIN
ジョーが見上げて叫ぶ。しかし、地震は更に大きくなり、モブランは梯子の途中で姿勢を崩し、左手一本で宙ぶらりんになってしまった。揺られて、何度も身体を壁やアルミ梯子にぶつけてしまう。
ガシャン!ガシャーーン!
天井から照明が落ちてジョー達のすぐ横を通り過ぎて床に叩き付けられる。
「クソこのっ!」
ジョーが、振られるモブランのミリタリーパンツの裾を掴み、強引に引き戻し、肩に脚を掛けさせ、そのまま押し上げてやる。先に登り着いたキースもモブランを引き上げる。
「「ハァハァハァハァハァ――」」
三人共、何とか上に登り、尻を床に落として近くの手摺りを掴む。頭を手で覆い息も絶え絶えにその場を何とか凌いだ。少し揺れが収まって来た。
「ハァハァ…ちくしょう、Mr.キース、この地震はあの『ニーブル』って星が来ているせいなんですか!?」
モブランが、声を荒げて尋ねた。
「そうですね、時間的にもこの地震は『妖星ニーブル』が原因に間違いないでしょう」
「わ、惑星ニ……なに?」
ジョーがその言葉に反応した。キースはしまったという顔をして「本当は部外者にはあまり話せないのですが」とことわりを入れてからジョーに『妖星ニーブル』接近と『獣に乗る女』との関連の可能性を許せる範囲で伝えた。
ジョーも『獣に乗る女』達の事は量子コンピューター『F・M・A』のDBにより、少しだけ知っていたのだが、『妖星ニーブル』の事は初耳だ。しかしキースの説明によりこの地震が普通の事態の事では無いと理解した。
(ここでモタモタしている場合じないな。早く脱出して、みんなに伝えないと)
ジョーは、先に脱出した元蔵や祖母の絹代、友人達の事を考えた。
「キースさん。この橋を行けば、おそらく軍と合流出来ますから。」
そう言って、それまで持っていた『バルチス‐MpA』をモブランに返した。
「ありがとう。キミには命の助けてもらった、感謝する」
モブランは素直に礼を言った。
「ところでキミはどうするんだい?」
キースがジョーに尋ねた。
「そうですね、先程まで一緒にいた人がいるので、その人達を見つけてから、ダクトを利用して地上にでるつもりです」
ジョーは、キースも知っている『バンダール姉弟』の事を言っているのだったが、キースには、当然そこまでは思い至らなかった。
「そうか、じゃここで……色々ありがとう……」
二人は握手を交わした。
「そうだ、ここから脱出して……もし、困った事があったら……」
キースは、『妖星ニーブル』の影響で外の状況が、壊滅状態だった場合の事を思い、恩人であるジョーに連絡先を教えようと思った。
キースがジョーにアドレスを書く為にメモとペンを出そうとバックパックに手を掛けた時――
ゴトンッ! ゴロゴロ――。
「ン!?」
何かがキースの足下に落ちた。
それは転がりながら、ジョーの靴先にコツンと当たった。
「キース。これ、落ちましたよ」
そう言ってジョーはその物を拾い上げだ時だった。
「ウアアアアァァァァァーーーー!?」
それはまるで爆発の様に、眼も眩む程の光を放ちながら、急にジョーの手の中で輝き出した。
「ちょっ! な、なんだこれーーーっ!! キース!!」
その輝きは紫色の輝きを持つ炎に変わり、そしてそれはジョーを中心に大きな炎の渦と変化して行った。
ゴオオオオオォォォォォーーーー!!!
ジョーはそれを持っていた反対の手で自分のゴーグルを付けたままの顔を覆った。紫色炎に熱さは無いが、しかし、その輝きには威圧する何かがあり、ジョーはヨロヨロとふらつきながら歩く。
「Mr.キース、彼に何が起きたんだ!」
モブランが、眩しさに顔を背けながら叫ぶ。
「こ……これは……」
キースは、その輝きを見つめて呟いた。
「……聖なる紫の炎(Violet flamme sacree)……」
ジョーが拾い上げだ物は、キースが持っていた『嘆くメルデの地球儀』だった。
そしてその紫色の輝きは、施設内の者達に気付かせる事になった。