8.VELVET RAIN
キース達は、『突然現れた、この男は何者だ?』と言う眼で見つめた。素性を確かめる為、声を掛けようそとするが、ジョーはそれを遮った。
「今、二体がこっちに向かっている。一旦隠れた方がいい。ついて来て」
キース達に話すチャンスを与えず、ジョーは小走りで奥に行く。どこかでまた、地震の弱い振動により、何か物が倒れた様な音が聞こえた。どうも予震はまだまだ続きそうな雰囲気だ。
仕方なくキースとモブランはその後をついて行った。
少し離れた場所の幾つもの色の違う太いパイプが天井まで垂直に登っている所があり、そこの隙間に三人は身を潜めた。
「アイツらがこのまま通り過ぎたら、合図するから向こうにある梯子を登って」
ジョーは、今居る場所より、左側に見えるアルミ製の梯子を指差した。
その梯子は、向こうの方にある『転送装置』が設置してあるエリアに通じる梯子で、ここを登れば軍と合流出来るだろうとジョーが話した。
「さっきはありがとう。命拾いしたよ。えーと……名前を聞いてなかったね。私はキース、彼はモブラン。キミは……」
「ジョーです」
軽く握手をした。しかし視線は別の方向を向いていた。キースはジョーに素性を尋ねた。
「あぁ――」
ジョーは、自分がココ『SITL(犀川工科研究所)』の所長の孫であると言う事と「脱出の途中で見かけたので咄嗟に助けた」とだけ答えた。
見かけたのは本当ではある。
しかし、実は『転送装置』から出た後、ここから脱出する為、軍と『獣に乗る女』達との戦闘を避け、吊り橋の様な通路を走っている途中、何故かARゴーグルが急に反応し、キース達が襲われそうだと『Information(情報)/leaf』を表示したのだ。
『獣に乗る女』達と戦っている兵士は他にも沢山居るだろうし、もちろん危機的な状況の者はキース達だけではない。
しかし何故か、キース達の事に関してのみARゴーグルは反応を示して来たのであった。
ジョーも、この事態に疑問を持ちながらもゴーグルの指示に従い彼らを助ける事にしたのだ。
もちろんそんな事はキース達に話すつもりは無く、話しても無駄な時間を増やすだけだからだ。
それよりココから脱出をする事が最優先課題なのだ。
「あなた達は、向こうの方でアイツらと戦っている兵士達の仲間ですよね? そちらの人がかなり顔色が悪そうだから、早く合流して、その腕を処置してもらった方がいいですね」
ジョーが、キース達の方を振り向きモブランの腕を指差し話す。モブランは脂汗をかきながらも黙ったまま口元だけで笑った。
「おっと。アイツらが来た。隠れて!」
『獣に乗る女』ベイマスの足音がだんだん近付いて来るのが聞こえる。ジョー達は、更に身を縮めて
やり過ごそうとした。
『獣に乗る女』達は破壊された仲間を気にもとめず、ベン遺体の方へ近付くと、胸から光る球体のような機械が伸びてベンの顔を照らす。暫くすると、再び球体は胸の中に戻り、『獣に乗る女』達は何事も無かった様に歩きだしていった。
「よし、今だ!」
『獣に乗る女』達が過ぎるのを確認すると、ジョーの掛け声と共に、三人は梯子の方へ走り出した。梯子までの距離は約20メートル。最初にたどり着いたキースが先に登り、次にモブラン、そしてジョーが最後に登り始めた。カンカンと金属音を立てて急いで登る。右手の無いモブランは苦労している。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーー!
その時、施設が揺れ始めた。今度の揺れは大きそうだ。
「ヤバい、捕まれ!」