8.SYSTEM OVERLOAD
『よくもベイマス達を破壊してくれたな』
そびえる様に『獣に乗る女』達は、熱をはらむ強いオーラを放ち、モブラン達の前に立ちふさがる。
ヴォルテスとノストゥラが『ネオジム磁石』からの拘束からの脱出可能にしたのは、実はベイマス達の破壊により、『キュリー温度』の限度値を超えてしまっていたのが原因だ。
『キュリー温度』とはキュリー点とも呼ばれ、超磁性体が常磁性体への変化する転移温度の事を示す。『ネオジム磁石』の『キュリー温度』は310度。つまりベンが、凍りついた『獣に乗る女』達を攻撃し、爆発炎上させた時、その熱により、ヴォルテス達を拘束していた『ネオジム磁石』の強力な磁力が『キュリー温度』を超え、急激に弱まってしまっていた。
それにより、ヴォルテス達の力で瓦礫を跳ね飛ばしてしたのであった。
辺りには、赤々と燃え上がり溶けて行くベイマスの姿。そしてその前でヴォルテスは、青白く輝く電磁ソードをゆらりと振り上げる。
キースは意識をなくしたまま。プラズマライフル『バルチス‐MpA』は、離れた所に落ちていてる。もはやモブランはヴォルテスが放つ威圧に動く事が出来ない。
自分の死を意識した瞬間――
イイィィィーーー
バシューーーーッ!!!
その時、ベンが横から『バルチス』を撃った。
右手のソードが弾かれた。
刃先が途中から折れ、ヴォルテスの手から落ちて行く……。
すかさずノストゥラが身をひるがえし、振り向きざまに、ベンを一閃――。
「!?」
ッブシュウゥゥーーーーッ!!!
一呼吸遅れて血飛沫が上がる。
「ベンッ!?」
モブランが叫んだ
ベンは、自分に何が起きた事に理解出来なかった。
ノストゥラが放った電磁ソードの刃が速すぎたのだ。
呆けた表情をしてモブランの方を見る。
口をパクパクさせて何か言おうとするが、電磁ソードの刃は、ベンの肺まで届かせていた為、空気が抜けて話す事が出来ない。
ストンと膝立ちになり、身体を震わせ、しばらく両手をぶらぶらさせなると、そのまま仰向けに倒れた。
「おおおおぉぉぉーーーー!」
パンッパンッパンッパンッパンッ――――!
ベンの死により、緊張の呪縛から解かれたモブランが、腰のホルスターからベレッタM92-TowⅡを取り出し、ヴォルテスに向かって撃つ。もちろんヴォルテスには効かない。弾を撃つ渇いた発射音とそれが跳弾する音が、虚しく聞こえるだけだ。
カチッカチッカチッカチッ
数秒もするとベレッタの弾が尽きた。
『……済んだか?』
ブンッ!
風切り音と共に、モブランの右手が、肘から先が失せていた。
「るぅあああぁぁぁあああぁぁーーーっ!!!」
言葉にからない悲鳴を上げて、モブランが転がる。
腕が焼ける様に熱い。どくどくと脈拍に合わせて、血を撒き散らす。すぐに辺りは血の海となった。何とか立ち上がろうとするが、自分の血で滑って立ち上がれない。
『ヴォル、あの男を追わなくちゃ。時間が無い』
『……そうだな、急ごう』
呻きながら転がるモブランを見ながら
『男よ。また助かっようだな。お前にはどうやら『女神ヤナ』の加護があるらしい。感謝せよ』
ヴォルテスは、モブランの事を覚えていた様だ。
『行こう』
ヴォルテスとノストゥラは、先程、ジョー消えた方へ走り去って行った。
「ハァハァ……ハァハァ…ち、ちくしょ……う……こんな所で死ねるか……よ……死ね……る……か……」
血溜まりの中、うつ伏せになったまま喘ぐモブランの意識はそこで途切れた……。