5.SYSTEM OVERLOAD
元蔵達から離れたジョーは、『転送装置』につながるブリッジ横、資材置きブースの、運搬用金属トレーが高く積み上げた場所の上に、身を隠した。
辺りは既に荒らされ、倒れたコンテナや、鋼材が散らかっていたが、この場所なら一望できる見晴らしの良い所だ。近くで燃えた残りでも有るのだろう、煤けた臭いが鼻をつくいた。
「急がないと、あまり時間が無いな」
ジョーがARゴーグルの横のスイッチを押す。レンズの色が黄色から漆黒に変わる、
『Connected to the "R"』
ジョーの視線に『Access.Console.Upper.Mode』の赤い文字が現れ、『Environmental information(環境情報)/leaf』が表示、アクセスログがスクロールされ始め、辺りにいくつもの『Optimization(最適化)/leaf』が現れた。
「施設内をマッピング表示、中にいる『獣に乗る女』達にシーケンシャルIDを付番」
『Optimization(最適化)/leaf』が弾け飛ぶ様な動きを見せ、眼の前に光のマトリックスが回転しながら現れた。そしてこの施設内の『3D map(3D地図)/leaf』が浮かび上がった。その中に移動する『獣に乗る女』達も見える。そこにタブが付き一緒に移動している。
「『獣に乗る女』達の行動をシミュレーションしそのルート結果を表示、複数の場合ブリンクしそれぞれの確率をパーセント表示しろ」
タブの付いた『獣に乗る女』達の3DCGの進む方向の先にそれぞれ青い矢印のラインが表示され、そのライン通りに進んで行く。たまにブリンクするラインが見えるが、分岐点を通り越すとすぐにそのラインは消えて行っていた。
「さてと、使えそうな物は……と」
3DCGを眺めて思案していると、壁側に取り付けられた、三機の作業クレーンを見付けた。
「これは、使えそうだな」
他には何かないかと見ていると、何かに気が付いた様だった。
「何だこのコンテナは?」
ジョーは、3DCG上にある、銅に囲まれ厳重に保管されているコンテナを見付けた。
「えーと、ネ、ネオジ…ム……?」
それは、『転送装置』用に準備され、流磁性溶液の入ったコンテナに浸かっている、予備の『ネオジム磁石』であった。
「これは面白い、コイツを使おう」
『ネオジム磁石』の他に冷却用『液体窒素』のタンクを見つけた。
ジョーは軽く笑み、舌で上唇を軽く舐めた。
『ヴォル見て、ベイマスが……』
ヴォルテス達が、施設に入るとすぐに、ザキ達に壊され鉄の塊と化しているベイマスを、ノストゥラが見つけた。更に奥にもう一つ塊があった。
それを見たヴォルテスがベイマス(ベイマス)達に指示を出した。
『索敵モードで全機展開、ターゲットはあの男だ、発見次第攻撃せよ!』
ベイマス達が一斉散開しようとしたその時――。
『危ない!』
ノストゥラがヴォルテスに声をかけた。
グワッシャーーン!
作業用クレーンが、突然にアームの先に取り付けられているフックをぶつけて来た。ヴォルテスは避けたが、ベイマスが一体、そのフックにぶつかっり、更にその横にいたもう一体と供に飛ばされる。
「チェッ、外れたか」
ジョーがARゴーグルを使い、遠隔操作で作業クレーンを使い、ヴォルテスを狙ったのだが避けられた様だ。
『獣に乗る女』達が戦闘体勢をとる。反動で再度作業クレーンが襲って来た。
『ムンッ!』
ヴォルテスが電磁ソードでフックの部分を切断、他のベイマスが雷球を発射し壁の爆音と供にクレーンを破壊した。
「ありゃ。一瞬かよ」
ジョーはその場から移動する。その姿をノストゥラが見つけた。
『ヴォル! あそこ、彼よ』
ジョーがトレーから降りる所を見つかってしまった。
ドドーーン!!
ベイマスが放つ雷球によりジョーは積み上げた金属トレーごと吹き飛ばされた。
ジョーは床にに落ちると、壊れたトレーと共に、ごろごろと転がり、そのままの勢いで走り始める。
ベイマスより、高速で移動出来るヴォルテスとノストゥラは、他の『獣に乗る女』達より先に走りだした。むろんジョーよりはるかに速い。瓦礫とコンテナの山を通り越し、数秒でジョーが落ちたであろうその場所に、たどり着いた。しかしその時、来た場所から反対方向へ走り去る、構内で利用するミントグリーンのエレカーが見えた。
『逃がすかっ!』
二体は、反射的に追い駆けた。
軽快な走りを見せてエレカーが逃げる。乏しい灯りの中、右に左に資材を避け、瓦礫を潜り、『獣に乗る女』達をまく様な見事なドライビングだ。
しかし、急にエレカーのスピードが下がり止まってしまう。その先は行き止まりだったのだ。すぐにヴォルテスとノストゥラに追いつかれてしまった。
ブンッ!
先に追いついたノストゥラが、電磁ソードを振り下ろした。
車は真っ二つに分かれ爆発炎上した。
『なにっ!?』
シューシューと燃え上がるエレカーの席にはジョーの姿は無かった。エレカーは遠隔操作されていたのだ。
バシャーーン!
その時、上から大量の液体と共に1メートル四方の金属がヴォルテスとノストゥラの間に降ってきた。液体を被り、何がおきたのか理解出来ないヴォルテスとノストゥラは、上見上げると、そこには、下向きに蓋の開いたコンテナが、作業クレーンにぶら下がっていた。
高らかな笑い声と共にジョーが、正面の二段に積み上げられたコンテナの上から現れた。
「アハハハハハーーーーッ ヨッシャ完璧っ!」
右手でガッツポーズをとった。
ジョーの姿を見かけると、ヴォルテスとノストゥラは切りかかろうとする。しかしその時、辺りに落ちて燃えているエレカーの部品や、近くにある瓦礫、資材が、一斉に二体に向かって飛んで来た。
『!?』
電磁ソードを使い、飛んで来る物を次々切り落として行く。しかし切っても尚、瓦礫達はヴォルテスやノストゥラに襲いかかってくる。
『こ、これは!』
それに電磁ソードの出力が下がり、自分達の動きも鈍くなって行った。次第に瓦礫が身体に張り付いて二体を拘束して行った。
「お前達の後ろにあるそれはね、『ネオジム磁石』と言って、永久磁石の中で最強の磁力を持つ磁石だ。特にそいつは、ここ『SITL(犀川工科研究所)』で作り出した論理値N64の磁力を持つ怪物磁石だなんだよ」
よく見ると、ヴォルテスとノストゥラの間にある金属の塊が、辺りに散らばる金属を全て引き寄せて来ていた。
ジョーが、得意げにヴォルテスとノストゥラに話した。
しかし当然、言葉は通じない。
「金属の身体だからくっつくと良かったが、やっぱり無理があったか。残念だな」
やがてヴォルテス達は大きな一つの塊になっていった。
「動きも鈍くなってきただろう?それだけ磁力があると、金属ボディーのお前達なら影響受けないはずがないからな」
『GuOOOOOOOOOoooooーーー!』
『WooooOOOOOOOOOOoooooーーー!』
二体は全力で振り払おうとするが、磁力が強力過ぎて太刀打ち出来ない。
「無理無理、お前達は流磁性溶液も浴びちゃったから、身体の表面に磁気が流れまくっているんだ、お前達も磁石になったってワケさ」
そこに遅れたベイマスが集まって来た。
「安心しろ、お前達にも用意してあるぞ」
もう一機の作業クレーンがベイマスの上に移動して来た。
「……食らえよ」
ジョーが指をパチンと鳴らした。
ザァアアアアァァーーー!
遠隔操作でクレーンに吊り下げられたタンクから『液体窒素』がベイマス達に降ってきた。
みるみるうちにベイマス達の身体が白く凍りつき停止して行く。
「金属は低温になると、互いにくっついてしまうからな、それに……ロボットに液体窒素はお約束なんだぜ」
そう言って、ジョーはゴーグル越しに笑みを浮かべていた。