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2.SYSTEM OVERLOAD

「ハァハァハァハァ」


 キース達が、この『転送装置』の有る施設の近くまで来る頃には、『獣に乗る女』達に数度なく追われ、三人は疲労困憊の極みに達していた。


「ハァハァ……。Mr.キース、本当にここがゴールか?」


 ベンが、埃と汗に汚れた顔を、袖口で拭いながらたずねた。


「ええ……、この向こう側が、そのハズで……す……」


 キースは、肩に掛けていた、『バルチス‐MpA』を床に下ろし、膝頭に手を乗せて、まるでベースボールの野手の様な姿勢で、唾を吐き、ゼーゼー言いながら応えた。


「ハァハァ……。ここも、かなりやられてるなぁ」


 モブランも汗を拭い、ヘルメットを指で摘み、辺りを見回す。

 このフロアでも、いたる所で、配管がねじ曲がり、壁が崩れ、通路は塞がれ、天井や床が抜け落ちたりしていた。


「モブス(モブラン)、そろそろ、再チャレンジしてみろよ」


 何とか息を落ち着かせたベンが、モブランに定時連絡を入れろと指示する。

 先ほどから10分おきに連絡をしているのだが、本隊側がつながらないのだ。


「フゥ~。さっきもダメだったし、まぁ無理だと思うが……」


 そう言いながら、通信スイッチを入れる。


「こちらモブラン、こちらモブラン、本隊、聞こえますか……」

「ザー……ザザ……」


 暫く待つが、やはり返事が無い。


「ほらな。やっぱりダメだろ?」

「クソッ!」


 ベンが毒づき、あさっての方向を向く。



「実は……今回の件と、このところの、太陽風による電波障害の問題は、関係があります」


 急にキースが独り言の様に語り始めた。


「?」


 ヘルメットを上げてモブランがキースを見る。


「『妖星ニーブル』が太陽に最接近している影響だと言われているのです」

「『妖星ニーブル』?」

「ええ。太陽系を周回する10番目の惑星です。」

「ワハハハハッ! Mr.キース、悪いですが、俺はそんな惑星、学校で習った事は無いですよ? 今時、冥王星の話でもないでしょ? それとも俺が卒業してから変わったのかな?」


 ベンが小馬鹿にしながらもキースにたずねた。


「確かに、学校では習わなかったでしょうね。想像上の惑星となっていますし」


 モブランは、黙って真顔で聞いている。


「それに『妖星ニーブル』は我々の眼では見る事が出来ません」

「ハァ?」


 ベンが眉をひそめてキースを睨む。


「……と言うより、我々の世界の道具では、観測する事が不可能なのです」

「Mr.キース、俺達を馬鹿にしているのか? 観測出来ないなら、どーやって接近しているのが判るんだよ」


 ベンがたずねる。


「確かにそうです。普通の人達は、たいがい同じ様なリアクションをしますね。しかし、確かに『妖星ニーブル』は存在して太陽に近づいているのです」


 そう言うと、キースは説明を始めた。


「『妖星ニーブル』とは『惑星X』『凶星ニビル』『テュケー』『伴星ネメシス』等と呼ばれていた、3600年の周期を持つ惑星です。最も古い物は、古代シュメールの遺跡に太


陽系が描かれており、壁面には10番目の『妖星ニーブル』が描かれています。また、1986年にイギリスの物理天文学者アーロンとフレディーが、重力レンズによる新天体の調


査中に、海王星と天王星の間に『摂動』がある事を偶然発見しました」

「だけど、そんなの発見したら、それこそ大騒ぎになるんじゃね?」

「その通りです。二人の調査によると、大きさはおよそ木星の1.4倍、太陽系に対し垂直方向に楕円軌道を描いているとわかりました。しかしその後、アーロン達を含め、様々な


天文学者達か、幾度調査しても肝心の『妖星ニーブル』が見つからなかったのです」


「うぬぅぅぅ。」

「……やめておけ、脳筋には無理だ」


 腕を組み、考え込むベンをモブランが茶化す。


「『妖星ニーブル』は、ファンタジーな話しとして、やがて天文学会から扱われなくなりました。しかし、実は確かに存在していたのです」


「……どういう事です?」


 モブランが身を乗り出す。


「はい。『妖星ニーブル』は我々の次元の惑星では無いのです」


「……?」

「……」


 モブランが、俯きながらヘルメットに右の人差し指をあてて言う。


「えーと、あの『点』が零次元で、『線』が一次元で…『面』が二次元、『立体』が三次元…って言うヤツですか?」


「いえ、『次元』とは、便宜上の区分けで言っているだけで、その『次元』とは違います。わかりやすく例えて説明しますと、我々の世界は、物どんどん小さく見ていくと、全てど


んな物でも、『たった一つの物』から出来ていると言う事がわかります。その『たった一つの物』の、さまざまな組合せりより、あらゆる物が形成されているのです。そして、その


『たった一つの物』は、一定の運動もしくはスピンをしています。それを波動と呼ぶ人もいますが。その『たった一つの物』の興す運動もしくはスピンが、我々の世界と『妖星ニー


ブル』では異なっているのです」

「なるほど」

「その運動だかスピンだかは、どれくらい違うんです?」


 更にモブランがたずねた。


「そうですね~、例えば我々の世界のスピンを『1』とすれば、『妖星ニーブル』のスピンは『10000』くらいに相当します」

「そんなに違うのかよ!」


 眼をむいて驚くベン。


「あくまで例えなんですが。その為『妖星ニーブル』は、我々の次元とは異なっていると言え、また我々の世界の道具では、観測する事が不可能なのです」

「でも、そんな事がどうやってわかったんだ?」

「近年の、コンピューターの進化のおかげです。シミュレーションにて可能になりました」

「コンピューターねぇ」


「現在、その『妖星ニーブル』が、3600年ぶりに太陽に最接近しているのです」

「でも、その事と、『獣に乗る女』の件と、どうつながるんだ?」

「はい、サンジェルマンが残した予言書、『アシュケナジーへの伝言(Message a la Ashkenaz)』の中に『妖星ニーブル』らしき事が、記述されています。『14‐5、3600年。


悠久の時より、光の帯と、神々の星が巡り来る時、幾重の世界より始まりの鐘を持ち御使いが来る。』と、書かれています。古代シュメールでは『妖星ニーブル』は人類発祥の星と


よばれ、その星より神々が現れて人間を作ったと信じられていました」

「そ、それで、その『妖星ニーブル』が太陽に近づくと、どうなるんだ?」

「今、起きている通信障害や、磁場の乱れによる電気機器の障害等が主なところでしよう」

「ほっ」

「しかし、太陽の横を通過後、地球に最接近する際は、どうなるかわかりません」

「えっ!?」

「前回、紀元前1600年頃に最接近した時は、地球規模の災害にみまわれた様でした。これは聖書に出てくる、ノアの箱舟の話や、インドの大洪水の記録、ミノス文明が海底沈ん


だ事等に、見る事が出来ます」

「そ、そそそれで、今回はどうなるワケ?」


 かなりビビり出したベン。


「わかりません」

「え?」

「わかりませんが、しかし……この『獣に乗る女』達の出現と、『アシュケナジーへの伝言』の予言により、この場で、この世界に関係する大きな事が、必ず起きます! その為に


我々家族は、長い間準備して来たのです」


 キースは確信している様だった。


 それまで黙っていたモブランが口を開いた。


「地球最接近はいつ頃ですか?」


 袖をめくり腕時計を眺めるキース。


「……およそ2時間半後です」


「「!?」」


 二人の兵士は呆然と互いに顔を見合わせた。







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