1.SYSTEM OVERLOAD
元蔵達が、このフロアで監禁されてから、約3時間半、水蒸気が立ち込め不快指数の高いこの施設にいる事に、そろそろストレスの限界が近づいていた。
集められたら研究者や作業員の中には、ケガをしている者や、意識を失っている者もいる。元蔵自身も『獣に乗る女』達がここに現れた際に、肩にケガを負ってしまっていた。
「いかんな、何んとかしなくては。このままでは、全員の命が危ういわ」
他の者達の手前、毅然(?)を装っていた元蔵も、流石に焦りの色を隠せなくなっていた。
暫く前に、赤色の指揮官らしき2体が、銃青のタイプと数体と共に出て行った。見渡せる状況ではないので、正確にはわからないが、現在、ここには2体が監視しているだけのは
ずだ。今、ここの監視は、一番手薄になっている。逃げるなら、今しかないであろうと、元蔵は考えていた。
その時――――。
「……ぃいちゃん……」
「ん?」
どこからか、声が聞こえた。
「……爺ちゃん……こっち……」
「んっ!?んっ!?んっ!?」
キョロキョロ辺りを見回してみるが、薄暗く、水蒸気も立ち込めてよくわからない。
「爺ちゃん……上っ!上っ!」
そう言われて、元蔵は見上げてみる。すると、4メートルほど上の通気口の開いた所から、かすかに誰かが、手を振っている人影が見えた。
「ん? 誰じゃ……?」
眼を凝らして見るが、よくわからない。立ち上がりたい衝動に駆られるが、まだ『獣に乗る女』達が辺りを監視しているので迂闊に動けない。
元蔵が見上げていると、上から丸めた紙が落ちて来た。
開いてみると――
『爺ちゃんへ。大丈夫か? いま助ける。この後大きい音がしても、みんなを落ち着かせてそのままで待っていてくれ ジョー』
殴り書きでメモが書かれていたが、確かに元蔵が見覚えのある、独特な癖のあるジョーの文字だ
「じ、ジョー!?」
元蔵はそのメモを読み、上の人影が孫のジョーと判って驚いた。
「な、なんでアイツがここに……?」
元蔵が、見上げなおすと、既に人影は消えていた。
ドドーーン!!
ジョーからメモを貰って暫くすると、この施設内のどこからか、爆発音が聞こえて来た。
「!?」
ドドーーン!
ドドーーン!
ドドーーン!
更に近くで連続した爆発起こり、びりびりと床や壁が振動する。『獣に乗る女』達が爆発音のした方に向かって行った。
「キャーー!」
「アーーッ!」
「誰かーー!」
「た、助けてくれーー!」
ストレスの限界だった研究員や作業員が、パニックをおこし騒ぎ始めた。
(ジョーの奴め、言っていたのはこの事か!)
この爆発の原因が、ジョーである事を咄嗟に理解した元蔵は、他の者達に向かって叫ぶ。
「大丈夫だ! 慌てるな、皆落ち着つけ! 」
元蔵は、ジョーの忠告に従い、必死にみんなをなだめた。
その頃、ヴォルテスとノストゥラは『転送装置』のある部屋を出で、地上5階に来ていた。
ジョーを捜しながら、順番に階を上がって来たのである。
このフロアは元々、ナノ技術の応用を軸とした、開発を多く行っている所だ。血管より注入し動脈硬化箇所を直接治療する『セゼプトン(CordName-BRgg0085Ka)』や、水中の指定物
質を吸着除去する『ナヴァール(CordName-BRdg0055Jg)』、そして、身体能力向上技術『HNUB(Hyper-Nano-Upper-Bionic)(CordName-BRgg00117Q)』など、多くの国や企業が垂涎の
開発が行われていた。
しかし、それが今、『獣に乗る女』達の乱入行為により、全てが無惨に破壊されてしまっていた。
『ヴォル、ここにも居ないみたい』
ノストゥラが、散らかる書類や倒れた機材を踏み付けながらヴォルテスに近づいて来た。
『みたいね。他の階のベイマスから連絡はない?』
ヴォルテスが、部屋に飾ってあったのであろう、床に落ちいた薔薇の造花を一つ拾い上げつつ、ノストゥラに尋ねた。
『『冥約の王』に関する連絡はないわね。但、ココの一階でこちらの軍と始めたみたい。その件でベイマスから連絡があった』
『残った時間も少ないのに面倒な事。何体か廻してあげて』
暫く薔薇を、左の金属の指先でクルクル回していたが、やがて手を離し捨ててしまった。
『ええ、既に4体を向かわせた、充分でしょう』
ノストゥラが応え、そのまま続けた。
『どうやら、こちらの世界に、我々を追っている組織がいる様ね』
『先の件といい、現れるのが早過ぎるからね。この世界にも、『地球儀』の存在を理解した者がいるのでしよう』
ヴォルテスが応える。
その時、精神感応でベイマスから通知が来た。イメージコードは赤だ。
『ヴォル!『冥約の王』が現れた』
『今、ワタシの所にも通知が来た、バル、どのベイマスか場所わかる?』
『ン――地下3階ね』
『ワタシ達が居た所か?』
『そう――』
『しまったっ!!』
ヴォルテスとノストゥラは、扉を蹴破り急いで地下に戻って行った。