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8.VISITOR FROM PLUTO

 ジョーは、今はバンダール姉弟と一緒に、再び通気口の中を進んでいた。



「ホントにこの中通って着くワケ?」


 マリアがジョーの後ろから尋ねた。


「ああ。このルートの方が、アイツらに見つかりにくいからね」


 腰をかがめて進んで行く、ARゴーグルの自動翻訳機能も、殆ど遜色なく会話が出来る様になった。


「狭い狭い狭い狭い」


 ザキが一番後ろから、一人だけ四つん這いになりまるで赤ちゃんがハイハイする様になりがら進んでいた。


「ね、姉さん、狭いよぉ」

「我慢をし」


「もぉ~なんだよー」


 身体がデカイので、そうしないと通れないのだ。

 通気口の中に入る件については、ザキは猛反対していた。狭苦しいし、汚いし、壊れそうだし、そして『獣に乗る女』達とも殺れないし……ザキに良い事がない。

 しかし、マリアの「通気口から行く」一言で決まってしまった。

 ザキは昔からマリアに逆らえない。

 だから彼は、とても機嫌が悪かった。


 バキンッ!


 ザキの体重で、どこかネジが外れる音した。


「うぅ~」


 ザキが呻いた。


 しばらく直線に進んだ後、通気口内いっぱい塞ぐ様に、強制排気用のファンにぶつかった。


「ここをくぐれば、あとちょっとだ」


 そう言ってジョーはファンの隙間を通り抜けた。マリアもその後に続く。


「はぁ??? この場所すら狭いのに、俺、こんなの通れないよぅ」


 強制排気用ファンの手前、一人取り残されたザキは四つん這いのまま嘆く。


「確かにザキじゃ少しツライわねぇ」


 マリアが後ろを振り向きながら言った。



「そっか。うーん、仕方ない。じゃあファンを壊すか」


 ジョーはベルトに引っ掛けてあった、火災時用の斧を取り出す


「せーのっ!」


 ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!


 こちら側からファンを壊しだした。


「わっ! こ、こらっジョー」


 向こう側では、斧によって壊れた強制排気用ファンのパーツが、通気口いっぱいのサイズのザキの顔に、ペシペシ飛んで来る。


「や、ヤメテッ! 部品が俺の顔に当たってるよぅ。イタイッ! イタイって!」


 四つん這いの姿勢のおかげで、右手ではらうのが精一杯だ。


「ジョー、イタッ!わっ! ペッペッペッ! 口に入ったじゃないかぁー、ペッペッ! じゃりじゃりするぅ~、姉さぁ~ん!!!」


 たまらずマリアに泣きついた。先程、マリアがザキの首にナイフを付けた時には血が出ても痛がらなかったクセに、ジョーにやられると痛いらしい……。


 マリアがジョーに話かける。


「ジョーちょっとストップ! ストップだってほらっ見て!」


「ん?」


 言われてジョーが向こう側を覗いた。


「……あ」


 壊していたファン越しに、ザキの顔が、飛ばされたパーツがいくつも刺さって血がタレているのが見えた。


「も~、姉さん、本当コイツ殺しちゃダメ?」


 ザキはむくれていた。


「困ったな、このままじゃ通れないし」


 ジョーが、排気ファンの取り付け金具を掴み揺すってみる。


「ジョー、ちょっと後ろに下がってて。ザキにやらせるからいいわ、ほらザキ」


 マリアが向こうのザキに顎で指示をする。


「え、いいの? コイツに見せちゃって」

「……ええいいわ」


 グラス越しに冷めた目線を送る。


「わかったよ。ジョー、オマエはこれを見て、俺を畏怖するのだ」


 そう言って、ザキが四つん這いから床に腰を下ろす。それでも天井に頭があたるので首を屈めている。

 ザキのいる場所から強制排気用ファンまでは約3メートル前後、直接何かするには少し距離がある。

 マリアが黒いルージュの唇で、笑みながら左親指の爪を噛んでいる。

 

 ザキがまん丸に握られた右拳を、ゆっくり優しく前に差し出す……。

 そして、芋のような指を開いて行く。睡蓮の花が咲くかの如く優雅に。立った小指が印象的だ。


 ジョーはその様子を黙って見ていた。


「ジョー、もう少しお下がり」


 マリアが忠告した。


「スゥーーーーーーーッ」


 ザキが大きく息を吸い込み始めた。もともと大きい身体が更に大きくなる。

 そして――――


「ッバッッ!!!」


 グワッシヤッッ!!!


「!?」


 変な掛け声と共に、ザキが開いていた右手を握りしめる。設置してあった強制排気用ファンが、急に圧力を掛けられた様にぐしゃぐしゃねじ曲がりバスケットボールくらいの一つ


の塊になってしまった。

 まるでザキが遠くから握り潰したみたいだ。


 ガコンッ!

 ゴロゴロゴロゴロ―――


 床に転がり、ジョーの足元に当たった。


「へへへっ。どーだぁジョー。びっくりしてウンコもらしたか?」


 強制排気用ファンの跡を、四つん這いでくぐりながら、自慢気に現れた。


「……。」

「オマエなんかなぁ、俺がホントに怒ったら、こーんなんになっちゃうんだぞー」


 ザキは親指と人差し指で輪っかを作って見せた。


「す、スゲーーーーーッッ!!! ウァーォ! 本物の超能力者だ! 俺、初めて見たーー、マジ感動ーーっ!」


 よっぽど驚いたらしい。

 ジョーは目を丸くして大喜びだ。


「ザキッ!」

「へ?」


 興奮してジョーは、近寄ってザキの肩をバシバシ叩く。


「あんたスゴいよっっ! 俺の廻りにはそんな事出来るヤツ、絶対いないもん! マジで感動した!」


「え? そ、そっかなぁ~?」


 何だか思っていたリアクションと違い戸惑っているが、素直に誉められて、ザキもまんざらではなかった。


「こんなのテレビ出たら、ゲラー氏真っ青の一躍有名人だって! なぁなぁザキ。そ、それ、どうやってやるの!」


 ジョーは、ザキにやり方を教わろうとする。


「エート、まずはなぁ、こう眼を―――」


 ザキもその場でレクチャーしようとする。


「ハイハイ! その話はおしまい。ジョー早く案内して!」


 呆れた顔でマリアが話の腰を折った。


「あぁ……」


 興奮冷めやらぬジョーだっが、我に返りとにかく三人は先を急ぐ事にした。


「なぁなぁ、姉さん。」

「……なに」

「俺、もしテレビに出たら有名人になれるかなぁ~」

「バカ!」


 国際手配犯の自分達がテレビに出たら、即刻逮捕されるだろうがと、マリアは思った。

 ザキは一人、ニヤニヤしながら四つん這いで進んでいた。


 やがて下の階に降り、少し進むと――。


「マリア、ザキ、着いた。ここがみんながいる所だ」


 ジョーが後ろを振り返り言った。

 マリアとザキが近寄り、メッシュ越しに中を覗き込んだ。

 そこは、蒸す程の水蒸気が立ち上り、光りと闇が同居した混沌の世界だった。





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