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5.VISITOR FROM PLUTO

 かすかな光と、放った蜘蛛が伝えて来る糸の情報を頼りに二人は走っていた。

 一人は女。

 一人は男。

 黒装束に足音も立てず風を切り走るその姿は、さながら忍びの者の様だ。


『バンダール姉弟』のマリアとザキ。

 彼女達は、今回『冥約の王』を始末する為に日本にやってきた。


「姉さん、アイツ(獣に乗る女)らどうだい?」


 マリアの後ろを走るザキが尋ねた。


「この階には4匹くらいがウロウロしてるわね」


 マリアが天井辺りを見渡しながら答えた。


「なんだ、4匹だったら、俺がつぶしてやろうか?」


 上の階でオルグ司令達がてこずっている相手なのに、ザキは平然と言ってのける。


「出来るだけ避けて行く。大丈夫、この子達がいるから、」


 走りながらマリアはそっと自分の胸に手を当てた。


「そっか。『冥約の王』はどうするつもりなの? 建物中皆殺しにして行く?」

「そうねェ……今回、ターゲットの顔が不明だから、ホントはそうしたいけど、まぁパヴァリア結社の犬共もいるし、そこまで時間かけれないから、やっぱり覚醒した瞬間を狙うくらいしかないわね」

「ふぅ~ん」

「手っ取り早く、ここの関係者捕まえて、みんなの所まで案内してもらうから」

「そうだね、邪魔になったら殺せばいいしな」


 マリアは、さして悩む様子も無く、ザキはむしろ楽しそうにそう話した。

 廊下は暗く長い。二人はしばらく走っていたが


「止まって」


 T字路になっている手前でザキの動きを征した。二人が止まり、マリアが片膝をつくと左の曲がり角から小さな赤い腹をした蜘蛛が出て来た。


「そう、ここで待っていてくれたの」


 笑みながらマリアはそう言って手に乗せる。蜘蛛は手の上で、手招く様に前足二本を動かすと、袖口に入って行った。


 ザキがそっと角を覗き込む。通りの向こうから『獣に乗る女』がこちらに向かって歩いているのが見えた。


「邪魔だな~。姉さん、俺が行っていい?」


 ザキの眼はやる気満々だ。


「ダメ。ホラ、あそこ……」


 マリアが後ろを振り返って指を指した。

 T字路のすぐ手前に扉があった。


「ちぇ、ちぇ」


 ザキは、ぶつぶつ言いながらマリアの後をついて行く。

 二人はその部屋に入りやり過ごす。

 そこは地下一階用の配電室で、中には分電盤や、空調機の調整機器がずらりと並んでいた。


 やがて『獣に乗る女』が金属音を立てて扉の向こう側を歩いて来るのが聞こえた。

 マリアとザキは、息を殺し壁に張り付く様に潜む。

 次第に音が近付いて来ると、ザキはソワソワしだす。『獣に乗る女』仕掛けて行く絶好のチャンスだ。マリアに言われ、おとなしくしていたザキだが、我慢出来なくなってきたら


しい。

 遂に立ち上がろうとした時――。


 シッ


 マリアが、ザキの首元に十字架の銀細工されたナイフを当てた。

 濃く赤い血が、細く首を伝って行く。マリアはザキの首の薄皮を切り、更にその刃をそこで止めた。

 ザキはそのまま固まりピクリとも動かない。目線だけをマリアに送った。

 マリアの口元は笑みを浮かべていたが、その眼は少しも笑ってはいない。


 やがて足音が遠くなり、ザキがナイフを除け口を開いた。


「もー、チャンスだったのにぃ~なんでやらしてくれないんだよう、姉さん。ストレスが貯まっちゃうじゃないかぁ~」


 ザキは、両腕をぐるぐるぐるぐる回しながらマリアに訴えた。マリアがナイフを向けた事など少しも気にしていない。


「ザキ。アタシ達のターゲットは『獣に乗る女』じゃなく『冥約の王』なの。無駄な争いは仕事の失敗につながるから」

「ちぇ、ちぇ」


 ザキは不平不満を言いながらも納得した。昔からザキは、姉であるマリアには刃向かえないのだ。


 ガコン!


 『獣に乗る女』の足音もなくなり、二人が廊下に出ようとした時、狭い配電室のどこかから音が聞こえた。


「誰っ!?」


 マリアが、天井近くの通気口を睨みつける。ザキもすかさず戦闘態勢をとった。


 ガンッ

 ガンッ

 バキッ!


 激しい音が聞こえ、通気口のメッシュが外れた中から左足が飛び出して来た。


「「!?」」


 そのまま中から、ゴーグル姿の男、ジョーが現れた。


「あれ? 兵士じゃない」


 二人を見るなり、ジョーは独り言を言うが、緊張した表情の『バンダール姉弟』には日本語が通じない。

 ジョーは、そのままもそもそと通気口から降りてくる。


「あー腰がつらかった」


 腰を押さえ伸びをする。


「ふう。ちょっと待ってて」


 ジョーは手を広げて、二人に『待て』のジェスチャーをした後、右手を何やらせわしく動かした。


「あれ……こうだったかな。も~ドイツ語だったらもう少しは話せるんだがなぁ。違う……エート……これか……」


 ジョーは色々な『Leafリーフ』を広げ、何か探している様だ。


 両手をパントマイムの様に、ばたばたと動かし、一人でぶつぶつ言っているジョーを、二人の始末屋は、黙って見ていた。


「姉さん、気をつけろよ、コイツ何か危ないぞ」


 『Leafリーフ』はジョーにしか見えない。ザキが更に警戒している。

すると……。



「Aー、アー、コトバワカりますカ?」


 ジョーが苦労していたのは、ゴーグルを使い、『Simultaneous translation(同時翻訳)/leaf』を立ち上げてに言語を切り替える作業だった。


 ザキがマリアの前に出て、ジョーの顔前にそびえ立った。


「なんだ。言葉通じるのか。オマエ誰だよー」


 ワンテンポ置いてジョーが答えた。


「私の名前は、『ジョー』です」


 たどたどしい発音だ。本来、ジョーの声を『ARゴーグル』にレコーディングすればクリアでナチュラルな発音で話す事が出来るだけのだが、そこまでの時間は無い。簡易モード


で『トランスレーション(同時翻訳)』を行っている為、発音と訳に違和感が出るのだ。現在、ジョーは自分の声をレコーディングしながら発言しているのでいずれ自動修正されて


行くだろう。


「オマエ、言葉が変だ」

「同時翻訳器をつカっているのデ、変かもシれません」


 ザキの後ろからマリアが顔を出す。


「あんた何者?」

「私の名前は、『ジョー』です」

「名前はさっき言った。どういう素性?ここの関係者? ここまでどうやって来たの?」


 マリアが矢継ぎ早に質問する。


「……私の祖父は、ここデ勤務してイます」

「ふうん。祖父が勤務って、ここの研究者?」

「……いいえ、ずウっと通気口でした」


 どうやら翻訳が遅れているらしい。


「はぁ? あんたの祖父って通気口なの?」

「……そウです」


 翻訳が遅れている。


「あんた馬鹿?」

「アハハハハ、何言っているのか、理解出来マせんね」


 そう言った後、翻訳がおかしい事に気がついたジョーは、慌てて『ARグローブ』のハンドモーションで『Simultaneous translation setting(同時翻訳設定)/leaf』をいじりだした。


 (おかしいな、きっとどこかに調整出来る所があるはずだが……)


 ジョーは、ブツブツ言いながら設定の場所を探す。

 もちろん傍からはそのリーフ見ることは出来ない。 

 一人で手を動かしたり、ゆらゆら降ってみたりしている。


 その動きを、ザキは不気味そうにじぃ~っと見ていた。


(なんだよぅコノ男。なにしてるんだ?さっきから奇妙な動きばっかしている。あ! ほらほら、また両手を振っている。もしかしてここでパントマイム? やだなぁ気持ち悪いヤ


ツ。コイツ頭おかしいのかなぁ……? まてよ……ハハ~ン。僕わかったぞ、この男。きっとここで脳みそ実験材料に使われていたんだな……)

 そんな事を一人で密かに考えていた。

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