4.VISITOR FROM PLUTO
ドドーーーン!
うねり来る地鳴りの様な、低く重い音が、施設内の空気を伝って来る。
埃と水で汚れた壁が、びりびりと共振し、その度に崩れた塵が、ぼろぼろと床にこぼれてゆく。
これで6度目の爆発音だ。
音に前後して、人の叫ぶ声や、金属同志がぶつかり合う音も聞こえて来る。
『SITL(犀川工科研究所)』の一階ホールは、外観の無骨さに比べると、品の良い造りであった。
和を軸とし、新時代的にアレンジした、ホテルを思わせるデザイン。
白と濃茶色を基調に、大理石に籐で編んだソファのラウンジエリア、至る所に日本画や和風オブジェがあり、目を和ませる。諸外国の客賓がみえる為の、外国生活の永かった元蔵
なりの気配りがそこに見えた。
しかし今、そのホールは、割れた大理石が散らばり、オブジェや絵画は壊れ、破れ、元の姿を留めている物は皆無だ。
ここは既に戦闘区域内、戦いの真っ最中であった。
正面ロビーより突入したオルグ達外人部隊が、『ヴォルテス』の指示によりジョーを探しに出た『獣に乗る女』ベイマス3体と、一階で鉢合わせとなり、その場で戦闘が始まったのだ。
ドドーーン!
ロビーの壁一面に掛かっていた、2年前に日本政府より寄贈された、近年話題の新鋭画家が描いたという風景画が、爆発しながら裂け、床に落ちた。
オルグの部隊が持つ『バルチス‐MpA』が発射したプラスマが壁に当たったのだ。
『獣に乗る女』達も雷球を発射する。
耳を裂く爆発音と共に、床が陥没する。兵士の数人が巻き込まれた。
「捕縛アンカーを使って動きを止めろ!」
クラインが叫び兵士達は、一斉にアンカー弾を撃つ。
『TM‐PC78(電磁捕縛アンカー弾)』は、『バルチス』の下部に取り付けられた補助射出器より発射される特殊弾であり、噴射機能付き十字型特殊チタン鋼のワイヤーと、
調整値最大5000ボルトの電気ショックにより、ターゲットを捕縛、もしくは拘束を目的としている。
『獣に乗る女』にワイヤーが巻き付き、金属ボディの『獣に乗る女』達が火花を散らし停止する。
しかし、数秒で再起動し固定する前にワイヤーを千切ってしまう。
「ダメです、敵の力があり過ぎてアンカーを撃っても固定しておけません」
「かまわん、数秒止まれば良い、その隙にたんまりプラスマ弾を喰わしてやれ」
「了解」
ドドーーン!!
一体の『獣に乗る女』が雷球を連射、数本の火柱が上がり、その中から兵士達の悲鳴がる。辺りタンパク質の焼ける臭いがした。
「いくら『バルチス』を使っても、『獣に乗る女』が数体いると簡単には殺らせてはもらえんな」
瓦礫を盾にしながらオルグ司令が呟く。
「クライン! 赤い奴は出て来てないか?」
「はい、どうやら赤いヤツはここには居ない様です」
「ボスキャラクターはそう簡単には、出て来ないと言うワケか……おい、カナージ!」
オルグ司令が叫ぶ
「ハイ、司令」
「今からこっちで『獣に乗る女』達の注意をそらすから、お前の部隊数人を、あそこの大理石の柱側から抜けて突破口をあけさせろ。非常階段へのルートを確保するんだ」
オルグ司令が示したのは、一階ホールの左手側、乳白色の大理石が建ち並ぶオブジェの向こう側にエレベーターホールがあり、その横に非常階段のマークがあった。
「了解」
「それから、裏口にいるシュワンツに連絡をとって『S・A・D』を突入させろ、このままジリ貧になるわけにはいかん」
キースが、かがみ込みながら近寄って来た。
「最悪なパターンですね」
「まったくだ。これは作戦もクソも無い」
オルグ司令は、毒づいて唾をはいた。
ドドーーン!!!
4メートル程離れて後ろにいた兵士が、衝撃波で吹き飛ばされた。
オルグ司令達は再び応戦する。高周波が轟き、数機の『バルチス』が一斉に閃光を放つ。放電しながら光の矢が、一体の『獣に乗る女』を捉え、眩む程の光に包み、そいつを破壊
した。
「闇雲に撃たず、オナーを決めて共闘しながら倒せ」
再び、オルグ司令はキースの方を向き声をかけた。
「Mr.キース、今からカナージの隊が左側のルートを確保する。その後をついて行き、非常階段を降りて先に進め」
「……しかしこの状況では戦力を削ぐのは得策では無いと思いますが……」
「我々は72体の『獣に乗る女』達を掃討しながら進む。一緒にいれば、バンダール姉弟に遅れを取るだろう。見ろ、バンダール姉弟が、動き出したぞ」
オルグ司令が『獣に乗る女』の攻撃により、陥没した穴に、黒装束の『バンダール姉弟』が潜り込ん行く様子が見えた。
「成る程。わかりました」
「我々には『バルチス』がある。コイツなら確実に『獣に乗る女』達を殲滅させる事ができる。必ず後から追いつく、心配するな」
「司令、今、シュワンツ達が突入を開始しました。予定では7分後に我々と合流できます」
「よし、わかった」
その時、クラインが叫んだ。
「司令、奥から『獣に乗る女』更に出て来ました」
見ると、奥から3体の『獣に乗る女』ベイマスが現れた。
「いずれ倒す相手だ、一気に殲滅させるぞ」
オルグ司令の掛け声に従い、兵士達が『獣に乗る女』達にを囲む様に集中砲火を浴びせ、キース達はその隙に非常階段の方へ向かった……。
その頃、ジョーは通気口の中を進んでいた。
量子コンピューター『F・M・A』のシミュレーションによると、この通気口が、元蔵達が居る研究施設に向かう一番安全なルートだと言う。
仕方なくジョーは、指示通り通気口に入り込んでいたのであった。
通気口の中は、四方が1メートルくらいの広さがあり、低くかがみ込んで進む事が出来る。
ARゴーグルには、暗視機能も付いているので、暗い所でも問題はないが、それでも通気口内は、長年積もった埃や、ゴキブリや蜘蛛の死骸など、中にいて気分の良いものではない。
ジョーは、その中を不機嫌に進んでいた。
「あ~腰痛い。もっと楽なルート無いのかな」
ジョーは、中腰からしゃがみ込んで腰をトントン叩いた。
時々、通気口に付いているメッシの部分から外を覗いてみる。
廊下では『獣に乗る女』達が移動しているのが見えた。奴らはジョーを見つける為に徘徊しているのだが、ジョーはそんな事を知るはずも無い。
「チェ、こんな所で無駄な時間を……」
メッシュ越しとは言え、気付かれない様に潜み、やり過ごす。
仕方なく、この間に『SITL(犀川工科研究所)』の3D画像を開く。現在の状況を、確認しようとした。
「あれ?ポイントの数が増えてるぞ?」
『3D map(3D地図)/leaf』には『獣に乗る女』達以外の、移動するポイントが幾つも光っていた。
「助かった。警察が来てくれたんだ」
ジョーは救援が来たと思った。
「ん~。ロビーでアイツらと交戦中か?」
慌てて監視カメラの『Leaf』を開く。ロビーの風景が映り『獣に乗る女』と兵士達が戦っている様子が見えた。
「おぉっ! 警察じゃなくて、軍が来てくれたのか。これは頼もし……軍?」
しかし『Surveillance camera(監視用カメラ)/leaf』に見えたのは日本の自衛隊ではない。どう見ても外国の軍隊が戦っている様子だった。
「ま、まあ、とにかく、助けてくれるなら、誰でも良いか」
疑問も湧いたが、ジョーなりに納得し、再び『3D map(3D地図)/leaf』見ていると、ロビーにいる他のポイントから、2つのポイントが、離れて、ジョーが移動しているフロアに向かっていた。
「おぉ。先行部隊か? よし、先にこの人達と合流して、爺ちゃん達を助けてもらおう」
ジョーは腰を上げ、通気口の中で向きを変えて、移動する2つのポイントを目指した。
しかし、それはオルグ司令達と離れて『冥約の王』を狙う『バンダール姉弟』のポイントであった。