3.VISITOR FROM PLUTO
元蔵達研究員は、地下3階『転送装置』のある実験施設に集められていた。
そこはジョーが実験を見た時とは、すっかり変わってしまっていた。
『獣に乗る女』達の出現により、『転送装置』の暴走でスプリンクラーが作動し、辺りは水蒸気が立ち込めて視界も悪く、床も水浸しとなっている。
更に、その時に壊れた搬入機材や部品が瓦礫と化し、散乱していた。施設内は暗く、非常灯と、まだ電源が来ている『転送装置』の周りだけが唯一の灯りだ。
その場所に、元蔵を含めた研究員達がまとめて座らされていた。
「コラッ!ワシらをいったいどうしたいんじゃ――ィッッッッッ!」
元蔵は傷めた肩をおさえ『獣に乗る女』達に何度も訴えるが、何も応えない。研究員達がケガをしていようがお構い無しだ、ただ黙々と、胸の機械を使い、研究員達を調べている
様だ。
「なんじゃ、あのデカブツは、ガン無視しおって。言葉もつーじんのか、まったく――オイッそこの赤い奴、そこのっ!」
元蔵は、ベイマスに無視されたので、こりずに近くを通ったレヴィアスン(ノストゥラ)に向かって声をかける。当然、言葉は通じないが、今度は反応した。
「お、なんじゃ。判る奴も居るのか、ちょっとこっち来い」
手招きをして呼び寄せる。ノストゥラは黙って近づいて来た。
「お前達、いったいどーいうつもりじゃ。だいたい――」
元蔵が、手を腰に当てて、いきなり文句を言い始めた。
表情はわからないが、ノストゥラはそのまま黙ってそのまま聞いていた。
「――っだろ、このおかげて200時間は――の遅れを来すのだ。研究員のケガ――」
手を叩いたり、伸ばしたり、腰を振ったり、ケガをしているはずだが、元蔵の力強いアクションが続く。そしてその間中、元蔵はずっと文句をたれっぱなしだ。
ノストゥラは、しばらくそのまま眺めていたが、止まらない話しにどうやら飽きたらしく、首を左右に振り、先ほどから少し離れた場所で座り込んでいるヴォルテスに声を掛けた
。
『ヴォル。この御爺さん、私に怒り続けてる様だけど、私達が怖くないのかしら?』
全身を使って怒ってる元蔵を無視してノストゥラは、ヴォルテスに話しかける。
ヴォルテスは、先ほどの戦いで、ジョーが残して行った、壊れた眼鏡をじっと見つめていた。
それを見てノストゥラは、ベイマスに元蔵の相手をする様に伝えると、ヴォルテスの近くに寄って来た。
『……ヴォルに言われた通りその眼鏡を調べた時、確かに若干の反応があった。しかしそれはスカロワの誤差と言っても良いレベル。反応であれば、あの御爺さんの方がはるかに高
い。それでもその眼鏡の持ち主が、気になるの?』
『……あの男は、私の剣を受け続けた。それも素体で……有り得ない……。機械化したヴァールラーであるこのワタシが打つ剣を全てだ。人の持つ反射神経の限界は、完全に越えて
いた』
あ
ノストゥラは、ヴォルテスの前で、見下ろしながら声を掛けた。
『しかし、相手は攻撃して来れなかったのでは?』
『来れなかったではなく、来なかったのだ!』
パリンッ!
眼鏡を握りつぶし、そのままノストゥラを見上げた。
『バル、あなたも巫女。武の道を歩む者なら解るだろう。あの時、戦闘中に私の剣が語っていた。この男は私が次に打つ剣線を知っていると。知っていて全て防御に徹しているのだ
と。』
握った手を開いて、壊れた眼鏡を床に撒くヴォルテス
『反撃可能な瞬間が数度あったし、誘いを入れても仕掛けて来なかった。男は私の剣をいなす事で伝えて来たのだ『私は、お前の高位である』と。そして更にその後……崩れて行く
階段で、落ちながら私に向かって笑っていた……。そんな事が出来る者は一人しかいない。あの男が『冥約の王』としか考えられない』
『ヴォル……』
……ジャリ。
ヴォルテスは床に落ちた眼鏡を踏みしめて立ち上がりノストゥラに対峙した。
『そうだバル、私は今確信した。あの男が『冥約の王』だ、間違いないっ!』
ヴォルテスはノストゥラの横を通り過ぎ命令を出す。
『全員、この男を捜せ。必ずこの建物の中にいる』
ヴォルテスはこめかみ辺りに手を当て、ジョーと闘った時の、メモリーを『獣に乗る女』ベイマス達に共有化させる。
ベイマス達は、一斉にその場に立ち止まり、頷く様に頭を上下させ、額にあるランプの様な物を点滅させると、今度は向きを変えて扉を出て行き出した。
『あの男を見かけたら、包囲し、私達に伝えろ。私達が来るまで攻撃は控えるのだ』
手際よく伝えるが、その時、ヴォルテスは心の隅に小さな『迷い』を芽生えさせていた。
『そう、あの男こそ『冥約の王』だ。しかし……あれ程の男、私は果たして勝てるのだろうか?』
『迷い』とは『恐れ』をエサにして、心を密かに蝕んで行くものだ。
始めは些細なものでも、もしエサを与え続ければ、どんな強い心の持ち主だとしても、最後は本人をも飲み尽くしてしまうだろう。
ヴォルテスは、いつしか、その『迷い』の淵の入り口に立ってしまっている事に気が付かない。
『いいや、ヴォルテス。恐れるな!その為に身体を棄ててまでこの世界に来たのではないか』
ヴォルテスは、意識で無理やりねじ伏せ、迷いを払拭させようとした。
そしてその『迷い』を見抜く様にノストゥラが、黙って見てつめていた。
『獣に乗る女』達は、いよいよジョーをターゲットに活動をはじめた……。