2.Lost Passengers
日本 SITL(犀川工科研究所)
『ヴォル、ここはどこなの?』
『獣に乗る女』ヴォルティス、ノストゥラ達は、ネパール『マチャプチャレ』から、3つ目のクリスタルを使い、日本の『SITL(犀川工科研究所)』まで一気にテレポーションして来た。
彼女達は、背中の逆三日月の『念捉鎧』を折り畳み立ち上がる。
辺りは火災報知器が鳴り、水蒸気が立ちのぼっていた。天井のスプリンクラーが、水を撒き散らし辺りは水浸しだ。
『また研究所の様に見えるわね。最後の宝珠が割れて飛ばされた所だから、きっと『冥約の王』は、ここに居るはず。ノース、ベイマス達に索敵展開させて』
『わかった』
ベイマスと呼ばれたヘビーウェイトの『獣に乗る女』達が、低い起動音をさせて一斉に立動を始める。
『非戦闘者を見つけたら殺さず、一カ所に集めさせて。まとめて調べるから。但し、逃亡したり攻撃を仕掛けて来たら殺していいわ』
彼女達の複眼に上からフィルターが降り、暗視モードに切り替わる。
『ヴォル、こちらの世界は、私達の世界より科学力が遅れているのね』
『そうね、種族体系にも違いがある様だし、互いに世界が遠ければ遠い程、その差は大きいのかもしれない』
『何故、こんな世界と私達の世界が……』
『それは全て、イーフの神々の定めた事。私達が判るのは、姉様達の居る世界に『冥約の王』を来させてはいけないと言う事。来れば、皆の世界が、無くなってしまう……それだけは避けなければいけない、絶対に!』
『……そうね、その為に私達がこちらの世界に来たんだもの』
『今は、使命に専念しましょう』
『獣に乗る女』達は警戒しながら、辺りの調査を始めた。
「うわぁーー! は、はなせー!」
「キャーーーッ!!」
「やめろー!」
「助けてーー!」
『転送装置』の周りにいて、逃げ遅れた研究員達が、すぐに捕まってしまう。
中には、無理やり逃げようとする者もいるが、ヴォルティスの指示の通り殺されてしまった。
その様子を、元蔵はコントロールブースにある卓の後ろにに隠れて見ていた。
「な、なんじゃアイツらは? テロリストか? 宇宙人か?」
元蔵は、停電と水蒸気の視界不良の中、『獣に乗る女』達を見ていた。
虫と人を合わせた様な金属製の鎧骨格のデザイン、ここから見ても3メートルくらいはあるだろう。まるで異世界の生物か、宇宙から来たエイリアンの様に見える。
そんな物がこの部屋に急に現れたのだ。
「『切り株』が勝手に起動し始め、アイツらが現れた。どこからか転送されて来たと言う事か? バカな……いったい何が起きているんだ……」
元蔵の頭は困惑するばかりであった。
「うっ!」
痛みに気付き右肩を見ると、白衣に血が染み出でていた。
「くそったれ! 飛ばされた時、どこかで打ったな」
火を当てられた様に肩が熱い。額からも脂汗が出でくる。もしかして折れてるかもしれない。
「は、速く助けを呼ばないと、このままでは、みんな殺されてしまうぞ、ハァ、ハァ…」
焦る気持ちを抑え、ポケットを弄り、携帯電話を取り出して連絡を取ろうとする。
「ザ……ザ…ザザ……」
何故かノイズが酷くつながらない。
「こ……こんな時にか……」
何度リダイヤルしても何処にも繋がらない。やむを得ず元蔵は、自力で脱出をし救援を求める事にした。
『獣に乗る女』に見つからない様、身体をかがめ、物陰に隠れながら、出口を目指す。途中、また何人かの悲鳴や叫び声が、遠くの方から聞こえた。同じ様に逃げ遅れた研究員が、捕まったか、殺されたか。もはや元蔵には確認する手立ては無い。
(どうか助かっていてくれよ)
祈る想いで元蔵は、歯を軋らせた。
出口まで後少しのところで急にに声が聞こえた。
「……所長……所長……こっちです……」
辺りを振り返ると、出口の横にある、倒れた運搬用フォークリフトのところで、手招きしている者がいた。
「沙織君!?」
「こっちです所長……」
痛む肩を押さえながら、沙織に近づいた。
「沙織君、だ、大丈夫だったか?」
「所長こそ……肩痛めてますね、大丈夫ですか?」
「な、何これくらい屁でもないわ」
強気で言うが、顔は苦悶していた。
「それより、あの不気味な、連中はなんじゃ」
「すいません……わかりません。私も、発電室から戻ってこの部屋に入った途端、あの衝撃で壁にふっ飛ばされて気を失っていたので……」
「そうだったか」
「アイツらはみんなを捕まえて、片っ端から部屋の奥に連れて行っています! 早くここから逃げないと危険です」
「そ、そうだな」
沙織が、扉横にある操作キーで緊急解除コードを入力する。このコードは、扉を開くと同時に警察に通報が行く様になっている。
最後のコードを入力する前に、沙織は元蔵の方を向き言った。
「所長、扉が開くと、きっとアイツらが気付くと思います。全力でエレベーターまで走って下さい、いいですね」
「あ、沙織君!」
「開けますっ!」
最後のコードを入れる、扉が開く。その瞬間ベイマスの『獣に乗る女』1体がこちらを向いた 。
「走って!」
沙織が叫ぶ。『獣に乗る女』B体は右手首にある射出口から、雷球を打ち出した。
激しい爆発音が鳴り、扉はおろか、壁ごと吹き飛んだ。辺りは濡れているので粉塵こそ出ないが、その分、重い泥となり、辺りに巻き散らかされる。
爆風で2人は飛ばされ、廊下に転がり落ちる。
「所長っ!」
「だ、大丈夫だっ、後ろを見ずに早くエレベーターの中にっ!」
廊下の突き当たりのエレベーターまで、暗く濡れた廊下を全力疾走する2人。開いた壁の穴から、沢山の『獣に乗る女』達が廊下に出て来た。
こちらに向かって追いかけてくる。
沙織が先にエレベーターに辿り着いた。
「所長、早く早くっ!」
後ろから、みるみる迫る『獣に乗る女』達。元蔵がギリギリで飛び込んみ沙織が扉を閉じる。1Fのボタンを押す、エレベーターが動き出した。
「ハァハァ、あ、危なかったですねー」
「ハァハァハァハァハァハァハァ、やっ、やっ、ヤバかった、ハァハァハァハァハァ――」
エレベーターの中でへたり込む2人。
バキンッ!!!
「「!?」」
ひと息ついた途端に、エレベーターの床から、金属製の手が、突き破って入って来た。
「「うわーー!!!」」
2人は四つん這いになりながら、慌てて壁際に張り付く
「くそっ! 下に付いたのか」
バキンッ! バキンッ! バキンッ! バキンッ!
次々と来る、下からの攻撃にたまりかねて次の階、1Bのボタンを押した。
扉が開いた途端、2人飛び出す。
エレベーターの床をバキバキ破りながら、『獣に乗る女』が出て来た。横の階段の方からも、ぞろぞろ『獣に乗る女』達が現れて来る。
「所長、奥に逃げっ!?」
エレベーターから出て来たヤツが、また雷球を発射した。
――爆発!!
天井が崩れて沙織の上に落ちて来た。
「ワァアアアアァァァーーー!!!」
「あ、沙織君ーーっ!」
轟く地響きと共に、沙織が埋もれてしまった。
残された元蔵は『獣に乗る女』達に周りを囲まれた。
「ここまでか。くそったれ!」
元蔵は睨み付ける様に辺り見回し、死を覚悟する。
『待て』
その時、『獣に乗る女』達の中から、2体の赤い違うタイプが前に現れた。
ヴォルティスと、ノストゥラだった。
『ヴォル、この男……』
『うむ、バル、『スカロワ(クリスタル)』を出して』
『わかった』
元蔵の眼の前に、紫色に輝く宝石を差し出された。その宝石は、高い音を出し時計回りをし始めた。
『間違いない、この男、『冥約の王』と縁有る者だ、遂に見つけたぞ! ベイマスこの者を連れて行け』
元蔵は、言葉が通じないので、相手が何を話しているのか理解できない。
「な、なんだ? 離さんかっコラッ!! 痛い、止めんかっっ! どこに連れて行くのだ、や、ヤメローーー!」
元蔵は、『獣に乗る女』達に連れ去られてしまった……。