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1.Lost Passengers

 日本 SITL(犀川工科研究所)


「……さて帰るか~」


 2人が結構慌ててたのでジョーなりに心配したが、かと言ってジョーが心配したところでどうなるハズもなく、黙って自宅に戻る事にした。


 『T‐REX』がウィンカーを出し、駐車場から公道に出る。


 オオオオオオオ――オーウゥン!オゥン!オゥン!オンッ!オーーーーッ!オーーーーーーーッ!


 ZZR用1400cc4サイクルマルチエンジンの独特なサウンドを響かせて、『T‐REX』が加速して行く。

 『SITL(犀川工科研究所)』からジョーの家まで約20分くらい。利用者が殆どいない、裏道の市道を通ってゆけば、もう少し時間が掛かるが、軽


い林道ワインディングになって楽しめる。


「♪」


 ステアリングを握り直し、アクセルを踏み込んだ。

 暗闇の中、爆発的な加速をして行く『T-REX』。

 Gで身体がシートに押し付けられる。

 ジョーはこの加速に惹かれた。

 車重450kgで200馬力は、まさにモンスターマシン『T-REX』のスペックだ。

 

 すぐにカーブが近づいてくる。

 ジョーはシーケンシャルシフトを落とす、レブカウンターはレッドゾーンを差し、『T‐REX』は、うねる様に飛び込んで行く。闇の中、コーナー出


口を目指すヘッドライト。タイヤがスキール音を鳴らし、リヤが流れ出す。ジョーはアクセルをミリ単位で戻し、トルクをたっぷり後輪掛け、丁寧に立ち


上がりの加速をのせる。

 ラインはコースぎりぎりまで使ってのハードトレース、草木の香りが、ジョーの鼻をつく。


 オゥンッ!オゥンッ!オゥンッ!


 バンピーなストレートエリアでは、数度、車体が浮き、その度レブの針が跳ね上がる。

 

 「ひゃっほ!」


 思わず、ジョーは奇声を上げしまう。

 その後、硬めのサスペンションは、1バウンドで安定させる。続くS字は2つ目を意識して、ラインを選ぶ。


 キャキャキャキャキャキャーーッ!


 葛折りのタイトコーナーは、イン側に砂が浮いている。早めにきっかけを与えて、カウンターを当てつつ、アクセルコントロールをたっぷり楽しむ。


 焼けるタイヤのゴムの匂い。

 木々の間から南原山市の夜景。

 高く登った月。

 心地よい夜風を受けてジョーは、全身で『今』と言う、限りない時を感じていた。


 高低差の気圧変化で、耳がコモりだしたので唾を飲み込んだ、ちょうどその時。


 キキキキキキーーーーッ!


 急に『T‐REX』が道の真ん中でフルブレーキング、リアを左右に躍らせ停車した。


「忘れてた!」


 ジョーは関さんから借りた、『SITL(犀川工科研究所)』入場用IDバッジを返却BOXに返し忘れていた事に気がついた。


「あ~~、どうしょう、かえすの明日にすっかなー」


 しばらく考え込んでいたのだが


「いやいや、明日はバイトだった。それに面倒くさがって後回しにすると、良い事がないからな、ウン」


 オゥンッ! オゥンッ! ドキャキャキャッ!


 『T‐REX』をUターンさせた。ホイールベースが短いから、狭い道路でも苦はない。ジョーは今来た道をホイールスピンさせながら戻っていった、


顔をニヤけさせながら……。




 その頃、SITL(犀川工科研究所)では、沙織が、所長室で『TDエレクトロニクス社』の東京支店と連絡を取っていたところだった。


「……ハイ……ハイ……わかりました、情報が入り次第、連絡くだ……ハイ……お願いします」


 ―ピッ。


「どうだ?」


 元蔵が、電話が終わった沙織に訪ねる。


「ダメです、東京支店の方も大使館に連絡を入れているそうですが、正確な情報が来ないそうです。田崎支店長も、明日、朝一番で現地に飛ぶそうですが


、現在、本社付近一帯は、まだガス漏れのおそれがあるらしく、全面立ち入り禁止になっているそうで、明日の段階でも立ち入り出来ない可能性があるそ


うです」

「バカな、あそこには、『SITL(犀川工科研究所)』と共同開発していた『切り株』の2号機があったんじゃぞ!? そんな場所でガス爆発だと?そんな事あるわけねーじゃろがっ!」


 元蔵が、真っ赤な顔で怒っていた。


「所長、落ち着きましょう。今出来ることは、田崎支店長からの連絡を待つしかありません」

「うぅぅ……そ、そうだな。取り敢えず、実験の方を続ける事にするか」


 『転移装置』の所に戻ると、研究員の安藤が、近付いてきた。


「犀川所長、ちょっと見て貰っていいですか?」


 安藤は、タブレットを差し出す。元蔵は眼鏡をおでこに上げて覗き込んだ。


「こちらが、今回のFWの時のグラフですが、P‐20波の発生が前回のFWの時より速く、ノコギリの刃が大きいんです」

「なに?」


 ノコギリの刃とは波長の波をグラフ化した際の、上下の数値変化の事だ。


「安藤君、FWの調整は、粒子の出力量ところ以外弄ったか?」

「いえ。他は触ってないです」

「おかしいな、ここまで差異があるとは――」


 フッ……。


 突然、館内の電気が落ちて館内が真っ暗になる。


「え? ヒューズ?」

「まさか」


 すぐに非常灯の灯りに切り替わり、それが赤く見えている。研究員達は不安気に、ざわざわとその場で会話している。


「何だこれは。オーイ! 誰か発電室見て来てくれ」


 元蔵は闇の中で、大声をだした。


「私が、ちょっと見て来ます」


 沙織の声が、入り口近くで聞こえ、部屋から出て行った。

 このままでは仕方ないので元蔵は、タブレットを見直そうとしたら


「あれ?」


 タブレットの画面も真っ黒、電源が落ちていた。元蔵は、電源を押してみたり振ってみたりするが反応がない。


 しばらくすると……


 パキン!


 パキン!パキン!


 パキン!


「「!?」」


 暗闇の中、金属が弾ける様な音がする。


「なんだ今の音は?」


 ドギュン! ……ウォオオオオオオオオオオ――


 突然『転移装置』が青い光と共に低い重力音を発し始めた。電源が入り動き出したのだ。


「うわっ! な、何が起きたんだ?」

「見ろ!!『切り株』が動いてるぞ!」

「なんだあれは?」

「やばい、逃げろ逃げろ!」


 慌てて、『転移装置』近くから退避する研究員達。


「くそっ! どうなってるんだ!」


 暗闇の中、階段を駆け上りコントロールブースに駆け込む元蔵。


「所長、大変です『切り株』が動き出しました!」

「バカな! 調整中にそんな事があるかっ!」


 元蔵が、『転移装置』の方を振り向くと、既に入り口の回りにある、サークルが発光しながら回転し始めた。


 ヴィィィァーーーーー!!!


「共振が始まりました!」


 オペレーターが、モニターを見ながら叫ぶ。


「どういう事だ、いったい何がおきているんだ!」


 『転移装置』は眩い光りを点滅させながら、リンク高回転している。

 頭が痛くなる様な高周波の共振音、元蔵は耳を押さえた。


「おい! あれを見ろ」


 『転移装置』の周りで放電現象がおきている。 


 パキン!

 パキン!パキン!パキン!


 金属の弾く音が更に大きいなってゆく。


「見ろ、あ、あれは『Regeneration(再生現象)』だっ!」


 元蔵が、耳を押さえながら叫んだその時



 ドーーーーーーーーーンッ!!!


 地響きの様な低周波と衝撃波が部屋中に響いた。

 その部屋中のガラス製品が割れ、元蔵を含め研究員達も床や壁に飛ばされた。館内の火災報知器が鳴る。壁の赤色灯が回る。スプリンクラーが水を散布


を始めた。



 元蔵が意識を戻し、頭を振りながら起きる。


「う、うぅぅ……。イタタタッ」


 声をあえがせ、飛ばされて傷めた肩を押さえながら、見渡してみる。

 水散布による水蒸気の発生と、赤色灯で視界不良の部屋の中、『転移装置』の周りに何か見える。

 3~4メートルくらいの何かの塊がスプリンクラーの水をかけられているのだ。元蔵は立ち上がりながら眼を凝らし、じっとその物体見つめた見る。気


が付くとそれは1つだけではない、いくつもの塊が部屋の中にあった。


「あ、あれはなんだ?」 


 元蔵がつぶやいたその時、突然その塊が光点滅を始めた。

 辺りは更に水蒸気が昇り、部屋を満たしてゆくその中で、それは立ち上がる様に動きだした。その姿は、背中に逆三日月のパネルを付けた102体のロボット、『TDエレクトロニック本社』を襲った機械兵達、『獣に乗る女』達であった……

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