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4.SWITCH-BLADE HERO

「あの、沙織さん……こ、これは……」


 ジョーが見ていたモノ、それはいくつもの映像が、まるでCGの様に宙に浮かんでいる光景だった。

 海の中の映像、街の映像、子供達が公園で遊んでいる映像、誰かが喋っている映像、戦争の映像、太陽の映像、何か文字が表示した映像、この世界の色々な映像が、1つ現れると、別の映像が1つ消える、それを繰り返している。それらの映像が、ジョーの周りを囲む様に見えていた。


「何か見える?」

「ええと、眼の前に映像が浮かんでます。いくつも」

「ああ、それは今『F・M・A』が最適化の作業をしているんた。量子コンピューターはその性質上、基本的に停止する時がない。電子はいつもスピンし続けているからね。

 だから、演算機に空いた時間があると、勿体無いのでDBの最適化をしているんだ」

「DB?」

「ああ、DBはデータベースの事ね。まぁ、PCのスクリーンセイバーくらいに思ってくれていいわ」

「へー」

「因みに、今ジョー君が見えているのは『Augmented reality(拡張現実)』という技術を利用した『F・M・A』の持つ情報の世界の一部。ジョー君の周りにある物は『Leafリーフ』と呼ばれている物で、ひとつひとつが情報の単位。『F・M・A』が処理出来るデータは膨大過ぎて従来型のインターフェイスじゃ『F・M・A』の処理能力について行けないの。だから、やむなくAR技術を採用する事になったってワケ」


『拡張現実(Augmented Reality):AR』

 人間から見た現実環境をコンピューターにより情報を付加、強調する技術。バーチャルリアリティのカテゴリーの1つ。


 要するにこの『F・M・A』というコンピューターが性能が良すぎるから、ゴーグルに映し出す方式にしたのだろうと理解した。


ジョーが起き上がると、暫く黙って沙織を見つめた。

やがて……



「……へー、沙織さんって」

「えっ?」

「なかなかのプロポーションだったんすねー」

「えっ? あっ! バカッ!」


ゴキッ?!


「イデッ!!!」


ジョーのゴーグルに沙織のフレームラインと『Leafリーフ』が現れスリーサイズ、88cm・60cm・89cmと表示された。沙織が両手でジョーの首を掴み無理やり横に向けた。



「ジョー君、ちょっと待ってて」

「へ、へい」


 沙織は、金属ボックスが入っていた壁のところに行き、奥からもうひとつの金属ボックスを取り出して来た。中から同じ型のゴーグルとグローブが出てくる。

 沙織はそれをハメだした。


「ジョー君、今、キミのゴーグル画面の右側に緑色のマークが出てると思うんだけど、わかる?」

「ええ、わかります」


 右端の所に、緑色の『USER』と文字が表示されたマークが点灯していた。


「そのマークを触って、承認してくれる?」

「承認?」

「そう、元々この『ARゴーグル』はパーソナルコンソールとして作られているから、今、ジョー君の見ている物は、他の人には見えないの。そのマークはお互いにリンクさせて同期化させるスイッチ。キミがオナーとしてね」

「スイッチって、触れるの?」

「今、キミがハメている『ARグローブ』は、『Leafリーフ』のコントロールや入力デバイスとしての機能を持っいる、大丈夫だから触って承認してくれる?」

「あーはいはい」


 沙織に言われて、ジョーはマークを人差し指で触る。触れた感覚は無いが、「ピッ」と音が聞こえて『Connect-User』の文字が浮かび上がってマークが『USER』から『JOIN』に変わる。


「よーし、同期化OK」


 気がつくと、沙織がジョーの横に並んで立っていた。


「これで、今キミが見ている物が私にも見える様になったって事」

「何だか不思議だなぁ、俺が見えてる物が見えないとか、承認して見えるとか」

「ハハハ、そう言えばそうね」


 沙織が、スーッと両手を胸近くまで上げる。


「じゃ、使い方を説明してあげる」


 沙織が手で四角を作り出し、そのまま手を広げると、そこに『Leafリーフ』が現れた。


「この『ARゴーグル』と『ARグローブ』は、先ほど話した様に入力デバイスの機能を持つ。まずはこうやって『Leafリーフ』をコントロールしたり――」


 現れた『Leafリーフ』を触り右手で3本指を立て、手をスライドさせると『Leafリーフ』は3つに増える。それを指先で弾くとクルクルと回りだす。

 次に増えた『Leafリーフ』の右端を人差し指で触り、握り締めるアクションをすると、『Leafリーフ』が消える。

 慣れいるのであろう、手際が良い。


 今度は指先で四角をなぞる。


「それに、従来のキーボードも……打てる」


 眼の前に『Input deviceキーボード/leaf』が現れた。打ち込むアクションをすると、1枚の『Leafリーフ』に文字が表示されて行く。


「他にボイスコントロールもあるよ」

「へー」

「よし、じゃぁ、そこの事務机見えるね」

「ええ、見えますけど」


 ジョーが、先ほど気にしていた、おんぼろ事務机を、沙織が指差した。


「では、事務机の一番大きい引き出しの中に入っている物わかる?」

「え~そんなのエスパーじゃないと……あれ?」


 言われて気がつくと、『Information(情報)/leaf』が現れ、中に鉛筆と定規が、入っているのを教えてくれた。


「鉛筆と定規がありますね」

「正解」


 沙織が、デスクの中から鉛筆と定規を取り出した。


「じゃ、この鉛筆を持ってくれる?」


 言われて、ジョーは鉛筆を持つ。するとその鉛筆の『Leafリーフ』が現れ、メーカー、長さ、重さ、素材成分、顕微鏡写真が一気に表示された。


「うわっ!」

「ハハハ、なかなかのレスポンスでしょう。じゃ今度は事務机を指先でタップして。」


 今度は、事務机の三面分解図が現れた。


「『ARゴーグル』と『ARグローブ』には通常のカメラ以外に、赤外線カメラ、サーマルセンサー、レーザー測定器など各種カメラとセンサーが入力デバイスとして、取り付けされているのよ」

「まるでスパイキットだな」

「ハハハ、今は、まだ開発段階なので実験的に色々取り付けてあるけど、実際には使わない機能もあるし、軽量化の際は、アッセンブリごとで取り替え方式になるでしょうね」

「へー」


ジョーは、あちらこちらを叩いたり触ったり試してみる。


「ここまでは、単なる『ARゴーグル』と『ARグローブ』の基本的な機能な説明。さて、量子コンピューターを扱う場合は、少し変わってくるの。例えば――」


 沙織が右手の人差し指をくるくる回す。


(フラワー)


 沙織が話す。


 パタタタタタタタッ!


 花の画像が不思議の国のアリスに出てくるトランプの兵隊みたいにに、ズラリと並んで現れた。


「おぉ!?」


 ジョーが驚く。


「ソート(並び替え)、キーは『季節』」


 ババッ!


 一瞬で並び直す。


「ど・れ・に・し・よ・う・か・なー」


沙織は、中から『向日葵』の画像をつまみ上げた。


「それっ!」


両手をいっぱいに広げて上に持ち上げる。


すると二人の足下の床から、何千本もの向日葵が同時に生えてくるのであった。


「うわーー、なにコレ?!」


夏の陽射しを浴びて、揚々と育った向日葵。まるで映画か何かの早回しの様にどんどん育って行く。やがてすぐにジョー達の背丈を超えてしまった。

既に横にいた沙織が向日葵の葉が邪魔をして見えない。部屋中が向日葵だらけと奇妙な光景になってしまった。


ジョーが手を差し出して辺りを伺う、指先に向日葵の葉が当たる感覚がある。


「さ、沙織さん?」


ジョーが、声を出して辺りを見回した。


「大丈夫、少し待ってて」


「あ!?」


沙織がそう言うと、向日葵達は一瞬で跡形もなく消えてしまった。


「ふふふ、どお?」

「凄い、葉や茎に触ったらちゃんと感触あった」

「それは、ジョー君がはめているグローブのおかげなの。でも、まだまだこんなモノじゃないからね」


再び、沙織が『Leafリーフ』を広げた。


「GUN」


 次に沙織が、拳銃の『Information record(情報レコード)/leaf』を選ん行く。


「うーん、やっぱりコレかな」


 舌で上唇を舐めると、沙織は『コルト357マグナム』の設計図をタップした。


「これを――」


 パチン!と指を鳴らすと設計図から、立体的な3D化した『357マグナム』が現れた。


「これを忘れちゃいけないっと」


 左手を回し、『System』とタブが付いた『User preferences(使用者環境設定)/leaf』を呼び出し、その中の『Sound』のマークを触ると、プルダウンメニューが現れた。

 『Python357Magnum‐SOUND』を見付けて触れる。触った指先の色が赤く点滅し、沙織はその指先を3D化した『357マグナム』に付けた。


ドキューン!


ドキューンドキューンドキューン!


 沙織が、3D画像の拳銃を撃った。


「わっ本物みたいだ!」


 ジョーが驚く。


 チッチッチッ


 沙織が、人差し指を立て左右に振り、「まだまだ」と言う顔をする。


「『現在位置』」


 眼の前に、『SITL(犀川工科研究所)』の立体画像が現れた。

沙織が、手を広げてアップにし、ジョー達のいるこの部屋の部分を触れて、横によけた。


「ちょっと待っててねー♪」


 別の『Input box(入力項目)/leaf』と、『Input deviceキーボード/leaf』を呼び出し何やら始めた。先ほど

横に取り出した、この部屋の立体画像が広がり、ちょうど、この部屋と重なり合った。


「……できた」

「?」

「ジョー君、コレで撃ってみて」


 沙織が『357マグナム』を渡す。


「撃つって……どこを?」

「この部屋にある物狙って、片っ端から撃ってみて」

「…………」


 『357マグナム』をもらったものの、3D画像なので、当然重さはない。しかし、ARグローブのおかげで質感を手に感じる事が出来る。ジョーは銃をこの部屋と量子コンピューター『F・M・A』と仕切っているガラスに向かって撃ってみた。


 ドキューンドキューン!

 バリーン!バリーン!


「あーーっ!?」


 立体画像なのに撃ったら本当にガラスが割れてしまった


「わーヤバっっ!、ガラス割っちゃった、沙織さんゴメン!!!」


 慌てて沙織にあやまるジョー


「大丈夫、よく見てごらん」

「え?」


 言われて振り向くとガラスは割れていないし、破片も何処にも落ちてはいない


「あれ? 確かに割れて破片が飛んでいたのに……?」

「ハハハ、見てて」


 いつの間にか、沙織も『357マグナム』を持ち、今度は壁にかかっている工具を狙い撃つ


 ドキューン!

 ドキューン!

 ドキューンド!キューン!ドキューン!


 弾が当たり、破片を撒き散らし、吹き飛ばされる工具。しかしよく見るとそれは、ホンモノではなく3D画像だった。


「あれ? あーあー、そう言う事か」


 ジョーは理解した。つまり3D画像の拳銃で撃たれて飛んだのは、3D画像のガラスや工具なのだ。現実環境にAR環境の3D画像を重ねて、あたかも実際に壊れた様に見せたのだ。


「面白いでしょう?」

「凄いよ沙織さん!」


 2人で辺りをガンガン撃ちまくった。


「そして、更に――」


 沙織がまた『User preferences(使用者環境設定)/leaf』の『Sound(音)/leaf』を開き


 ミャ~オ!!

 ミャ~オ!ミャ~オ!ミャ~オッッ!


 『357マグナム』の弾発射音をネコの鳴き声に変えたのだ。


 ミャ~オ!

 ミャ~オ!ミャ~オ!ミャ~オミャ~オ!!


 バリーン!

 バカンッ!ガシャンッ!

 ガシャンッ!ガシャンッ!


「アハハハハ、これは楽しいー」


 ジョーも調子に乗って更にガシガシ撃ちまくった。


「後はね、これは準備がいるんたけど」


 そう言って沙織が、別のマークに触る。


「『It is also possible in this way simultaneous translation』」


 沙織の声のまま、言葉が英語に変わった。


「『Друга, и китайский, немецкий, французский, пока русский, слово синхронный перевод доступен по всему миру』」


 沙織の口パクとあわず、少し言葉が遅れて聞こえる。なんだか衛星放送の様だ。


「微妙にズレるのは、どうしようもないね」


 沙織が笑って言う。


「本当はもっと色々出来るが、ジョー君にわかりやすく伝えるにはこんなもんかな」

「凄いよ沙織さん! 爺ちゃんの発明より、ずっと凄いって!」

「ハハハ、ありがとう。でも、今キミが付けている『ARゴーグル』『ARグローブ』にも、犀川所長が開発したチップセットが入っているんだよ」

「いやそれでも、やっぱ凄いですよ――」


 ジョーは、本気で驚いていた。


「――ン?」


 その時、ジョーが何かに気がついた。


「ジョー君?」

「沙織さん、コレ何ですか?」

「えっ! コレって……?」

「ほらそこに、林檎の型に渦巻いているモノ」

「??」


 指差した所は壁のすぐ横、床から30センチくらいの場所にトーラス体の光の乱反射が見えるが、沙織には何も見えないらしい


「変ね、別に何も見えないけど……」

「えー、ほら確かに中から外側にぐるぐる回って林檎みたいな型に見えてますよ、コレコレ、ほら」


 ジョーは近付いて指を指した。確かにジョーのゴーグルには確かに光の乱反射が見えているのだ。


「まだ、バクフィクスしきれていなしからかしら?、何かあるのかもしれないからメモ残しておくわ」


 沙織は『Input deviceキーボード/leaf』『Input box(入力項目)/leaf』『Recording(録画)/leaf』を呼び出し記録してたいった。ジョーは黙ってその様子を見ていた。



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