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3.SWITCH-BLADE HERO

「今、灯り点けるからチョット待っていて」


 沙織が案内した部屋は、地下1階の奥まった部屋だった。

 沙織は、網膜認証とパスワードでドアを開けると、壁のスイッチを押した。


「さぁ、入って」


 ジョーが入った部屋は、先ほどの『転移装置』のある部屋よりかなり小さいが、それでも教室くらいの広さはあった。

 床が一段高くなっていて、更に部屋の奥には、天井までガラスで仕切られた別部屋がある。その中は電気を消えているのでよく見えないが、いくつかLEDが点滅しているのが見える。

 こちら側の部屋には、インパクトレンチや、電動ドリル、プレス機、レーザーカッターなど色々な工具や、工作機械が整頓されて置かれおり、研究室と言うより何処かの工房に近い感じだ。


「?」


 ジョーが辺り見回すと、部屋の隅に、場違いの壊れた様なボロボロな事務机が一台置いてあるのに気が付いた。天板はオイルか何かの滲みが付いて変色ていて、少し臭い。更に机の至る所に刃物の跡が付いてる。とても部屋に不釣り合いなガタガタの机だ。工作台であれば、その横にキチンとしたのが有る。

 ジョーはその机に違和感を感じながらも沙織に話しかけた。


「この部屋、やけに涼しいですね、ちょっと寒いくらいかな?」


 ジョーは夏の暑いこの時期にしても、ちょっと冷房が効きすぎの様な気がした。


「フフフッ、一応、二重ガラスで仕切っているけど、冷気がここまで来るから。ここは『夏寒くて、冬寒い所』なの」

「それじゃいつも寒いって事ですよ」


 沙織は、人差し指をジョーに向けた。


「正解!」


少しふざけた様に笑いながら言った。


「この部屋は、人間用に空調を設定していないの」

「どういう意味?」

「この部屋の奥にコンピューターが置いてあるからね」


 沙織が、別の壁スイッチを押すと、ガラスの向こうの部屋の照明が点き、奥にコンテナサイズの機械が数台、中に見えた。


「あれは、量子コンピュータ『F・M・A』。私は『量子コンピュータ』の研究をしているの」

「り、量子コンピュータ ?」

「そう、あの量子コンピューター『F・M・A』』は、熱量がとても高いので、しっかり冷やしてやらないと、自分が発する熱で逝っちゃうんだ」


 沙織はそう言いながらガラス窓に付いている霜を手で拭いた。


『量子コンピューター(Quantum computer)』

 従来型のノイマン型計算機の「0」と「1」をどちらかを1ビットの値に持たせるのと違い、量子力学を基礎とした「0」と「1」を重ねあった状態で持たせた、超並列性処理により、現在のスーパーコンピューターが、数十年かかる計算も、数十秒で答えを出す事が可能とされている。非ノイマン型、次世代スーパーコンピューターである。


「でも、ここ研究室って言うより、工作室みたいですね」

「ハハハ、なかなか鋭い指摘だね、じつは、今ここでは、量子コンピューター用のマンインターフェースの部分を作ってるところなんだ」


 沙織は、ポケットからリモコンの様な物を取り出し横の壁に向かってボタンを押した。するとその壁が、上にスライドし、壁の向こう側から30センチメートル四方の金属製ボックスが現れた。


 それを、取っ手の所を持ち、工作台に移す。


「従来のモニター、キーボード、マウスでは、量子コンピューターの莫大な情報量を、人間が処理するには、無理があってね、他の研究員の強い要望もあって、今、コレを作っている」

「?」

「これが、僕のグループが作成している、量子コンピューター用のマンインターフェース機器」


 沙織がボックスの蓋を開けると、中から黒いフレームにオレンジ色系のミラーレンズのゴーグルと指先の無いグローブが出て来た。

 

「こ、これ?」

「そう。よかったらハメてみて」

「……」


 戸惑いながらも、ジョーは、まずグローブからハメだす。指先は無く、何だか格闘技に使うグローブを金属パーツで色々ゴツくさせたようなデザインだ。

 

「見た目は気にしないでね、まだ開発段階だから」


 どうやらジョーが考えた事が、見透かされていたらしい。

 左右ハメてみると、『キュッ』と音が鳴り手にフィットし、一回り小さくなった。


 次は、眼鏡を外しゴーグルをはめる。後ろのバンド等は無く、どうやら眼の周りに貼り付く様なデザインだが、その分ゴーグルの重さが、ぐぐっと鼻に掛る。


「ちょっと重いですね」

「それでもやっと、その大きさまでにしたんだけどね。ほら、コントロールブースに居た時、顔まで被した大型ヘルメットの研究員達がいたでしょう? 彼等が着けていたのが、その前のモデルだったの」


 確かに、爺ちゃんと一緒にやっていた人達は被っていたなと、ジョーは思いだしていた。


「やっとゴーグルくらいにまで小型化したんだけど、それでもまだ、長時間仕事するには重いから、最終的には、コンタクトとブレスレットくらいにさせる予定なんだけどね。ただもうちょっと時間が掛かりそう」


 ジョーはゴーグルを着けて、首を振ったり、あちらこちらを見たりしている。


「じゃあそのゴーグルの両横にあるボタンを押しながら『起動』って言ってごらん」

「え?」

「誤動作を防ぐ為に、そのゴーグルは音声とスタートボタンの2重起動なんだ」

「マイクとか、無いですが……」

「骨伝導だから大丈夫、あ、因みにスピーカーも骨伝導タイプね」


 右手の親指と人差し指で左右にある起動スイッチを探し、こめかみを掴む様に、スイッチを押す。


「……き、起動……」


 恥ずかしさもあって、少し小声で言った。


 ……シーン……。


「沙織さん、動きませんが……」

「えっ? おかしいわね」


 言われて沙織は、ゴーグルの横のスイッチの部分を点検する。

沙織の顔が真横に接近して来たので、ジョーが少し赤らんだ。


「ジョー君、今度はもうちょっと大きい声で言ってみて」


「あ、ゴホン……起動っ!!!」


 キュイイイーーーン!


 起動電子音と共に、ゴーグルの横に付いている上下2つのブルーLEDがフラッシング。レンズ部分の色が、オレンジ色から黒に変わり、システム環境情報がレンズの上をスクロールして行く。


「最初に『F・M・A』にアクセスする時、ちょっと戸惑うかもしれないけど、すぐ慣れるから」

「うわわわわーーーっ!!!」

「あ、足下気をつけて」


 ゴーグルから見える映像と音が、目まぐるしく変わり、ジョーは足をふらつかせる。

慌てて沙織がジョーを抱きとめ様とするが、そのまま二人とも倒れてしまった。





「ケガしてない? 5秒ほどで、『F・M・A』とのコネクトが完成するわ、そうすれば映像が安定するから、それまで我慢して」


 沙織が先に起き上がる。

ジョー君は上を向き、天井を眺めた。やがてゴーグルの映像が見え始め、辺りの様子がわかって来た。

ジョーの眼に見えた物は、それはまさに未体験の世界であった。

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