2. メフィストフェレスとのドライヴ
車の中から出て来た男達は、特徴で言うと、グラサンの男、ゴルフクラブを持った男、片ピアスの男、腕にタトゥーの男、合計4人。
皆、見事にチンピラ風情の兄ちゃん達だが、その顔には、にやけた笑みが張り付いていた。
ジョーは、「またか」と言う顔して、アキオに言った。
「アキオ君、努めて穏便に」
「俺!? 自分に言えよ」
アキオも少々呆れた顔で、ジョーに訴えた。
『マジェスタ』が道路のド真ん中に停めてあるので、後ろに、渋滞が起きているが、兄ちゃん達はお構い無しだ。
しぶしぶ避けて行く車達。ドライバー達が、皆、睨んで行くが、停めてる原因の車と、兄ちゃん達を見て目線をそらして通り過ぎて行く。
その兄ちゃん達が、ヘラヘラしながら車に近づいて来た。ジョーの車は、4人に囲まれてしまう。
その中で、実にチャラそうな、ハーフスモークのグラサンを鼻掛けした男が話し始めた。
「かーーーーっ! 何これ、ギンギンにシッブイ車に乗っとるやないの、コレ、どこのゴーカート?」
「…………。」
「あっれぇ!? 野郎2人で乗ってる、もしかして、おホモ達?」
「…………。」
「なぁ~にぃ~~?、今からホテル? そんなに相手いないなら、俺が、ギンギンに掘ってやろうか? 『やめてください、僕、ウンコ細いんです』つってよ~~ アヒャヤヒャヤヒャヤ!」
「「アヒャヤアヒャヤ!」」
他の兄ちゃん達も一緒になって笑う。どうやら兄ちゃん達とっては笑えるらしい。
「…………。」
あまりの、馬鹿過ぎる内容に、ジョー達は凍りついてしまっている。
「……これは、流石にキツいな」
アキオが思わずつぶやく。
「こんなの相手にしなきゃならないのか……」
「ジョー。お前ツイてないなぁ」
「アキオ、お前もだ」
そう言いながら、ジョーもアキオも、シートベルトを外して行く。
やがて、腕にタトゥーの男が『T‐REX』の小さいルーフに右手を掛けながら、ダミ声で話してきた。
「オメーが、『サイカワ・ジョー』ダロ? ちょっとツラ貸せ。」
まるで威嚇するかの様に、車内に顔を覗き込ませる。『T‐REX』はサイドウィンドウが無いので、必然的に顔が近づく。
まるで、サファリパーク内を回るバスの気分だ。
「ジョー。この車オプションに金網とか無かったの?」
「いやぁ~それは気にしてなかったなぁ。次回からちゃんと確認する事にするよ」
二人は、緊張した風もなく、のんきな会話を続けている。
「ところでジョーくん。この後、用事があるんじゃなかったっけ?」
アキオが、ジョーの方を向いてワザとらしく言う。
「あ、そうだ。あんまりノンビリしていられないんだっ……た――――っ!」
そう言いきると同時に、ジョーは、左肘で男の顎を下から跳ね上げる。男は頭をルーフの内側でぶつける。よろめく男、そのまま腕を左手でつかみ取り、車内に引き込みながら、男の肘の外側を掌打で打ち込む。
めじっ!
「はうがぁああああぁぁーーーー!!」
肘があらぬ角度にねじ曲がっている。
腕を押さえて転げ回る男。焦る他の兄ちゃん達。ジョーとアキオはゆっくり車を降りた。
「アキオ、一人頼む」
「ほいよ」
一瞬、たじろぐ兄ちゃん達だが、すぐに立て直し、一斉にジョー達に殴りかかってくる。
ゴルフクラブを持った男が、上から振り下ろす。ジョーは左肩を後ろに回し、身体を横にして避ける。顔の数センチ前をクラブの軌道が通り過ぎてゆく、地面にクラブがHIT! とっさにシャフトの部分を右脚でアスファルトに踏みつけて、クラブを落とさせ、ついでに下がっている男の頭を、右に回り込みながら左膝でこめかみを蹴り、更にその流れで後ろ回し蹴りを入れて男を『マジェスタ』のドアに激突させる。
アキオの方は、ピアスの男を右肋から殴りつけ、痛さでとっさに右に身体が傾けた所に、首筋に手刀を落とした。
3人共瞬殺され、残されたグラサンの男が、尻ポケットからナイフを出した。
「て、てめえらっ…ぶ、ぶっ殺してやる!!」
焦りの脂汗がダラダラのグラサンの男は、ナイフを前に突き出し威嚇攻撃する。
「おぉ。おいジョー、こいつ手加減無しで良いそうだ」
「フッ、状況をよく理解してもらう事にしよう--」
ジョーが一歩踏み込む。
「く、来るなーーっ!!」
グラサンの男が、ナイフを突く、ジョーが両手で腕を巻き取る。
そのまま後ろに倒れ込む様に身体を引く、バランスを崩しながら男も前に倒れ込む。
ジョーは半身を翻してナイフを持った手をひねり込み、道路に叩きつける。腰で投げる様な動きだ。
グラサンが道路に飛ばされ割れた。
「グフッ!」
ジョーが、ナイフを持った手を絞り上げながら男の上に乗る。
体重をかけられ身動き出来ない男。そしてナイフを落とされ、ジョーの下でもがく。
「がっ!……ぐっ!……お、お前ら、た、助けてくれ」
他の兄ちゃん達に助けを求めるが、皆やられて、まともな奴はいない。
そこに、アキオが近づいてきた。
「おい。そういやぁお前、俺達に『俺が、ギンギンに掘ってやろう』とか言ってたっけなっ!!」
「がぁあああああああーーーー!!!?」
アキオが、グラサン(今は飛ばされて無い)の男のキ〇タマを、ガッチリ握り締めた。
ぐりっ!
「おおおぉおぉおおぉーーーーーーっ!!!」
男が両眼を見開き絶叫する。
その横でジョーは服に付いた汚れを祓いながら男の上から起き上がった。
……ぐりぐりぐりっっ。
「おぐおぐおぉおごごおおおごごぉーーー!!!」
……ぐりぐりぐりぐりっっ。
「おぐごごおおぐおぐおぐおごごぉおーーー!!! おーーーっ!!! おーーーっ!!!」
顔色が紫色に変わり出し、痛みのあまり言葉か、叫び声かよくわからない。
「……立て」
「た、たふへほぉうほおー」
「早く立てっ!」
ぐりぐりっ!
「こごぉっ!おおぉおぉおおぉぉーー!!!」
汗と涙と鼻水と涎で、すでに、顔がぐしゃぐしゃになっている。
ジョーも、それを見て、思わず怪訝そうな顔をする。
両膝をぷるぷるさせ、何度も挫ける度にキ○タマをひっぱられ、何とか立ち上がった男は、顔をふるふる左右に振り、泣きながら訴えた。
「まずは、ゴメンナサイと言え」
「ごべ……ごべ……、ごべぇ…んん…ぉぉなはひぃぃ~~」
「ちゃんと言え」
…ぐりっぐりっぐりっぐりっ!
「こごぉっ!おおぉおぉおおぉぉーおーーっ!おーーっ!おーーっ!」
いっそ気を失ってしまえば楽にでもなるだろうが、気を失いそうになると、アキオに力を入れられる。まさに生き地獄だ。
――――。
ちゃんと言えていないが2回、声が小さいが3回、顔が汚いで1回。結局男は6回もやり直しをさせられ、やっと解放された。
「はぁはぁはぁはぁはぁ――」
男は全身びっしょり汗をかいていた。
「なぜ俺達を狙った」
アキオが、休む隙を与えず、尋問モードに突入させる。
「はぁはぁはぁ……。」
「早く言わないと、続きをやるぞっ!」
「ひ、ひぃいいいいいいっ~~!?」
右手で、握り潰すポーズをするアキオ。
それを見て、苦笑するジョー。
「こ、この街に『黒竜会』を潰した男がいると噂を聞いたんで、そいつボコれば、名が通るかと思って……」
『黒竜会』は、半年前に解散した隣町で有名だった族のチームだ。
「……それで調べて、俺のところまで来たのか」
横から、ジョーが呟く。
「ズビッ」
股間を押さえて、鼻水を啜りながら男がうなづいた。
「お前なぁー、返り討ちに合う事は考えなかったのか?」
男を睨むジョー。男は青ざめて後ずさる。
「す、すいません!」
「いやージョー君はすっかり有名人になったなー」
ワザとらしくアキオが言った。
「やめろ、ちっとも嬉しくない」
しっかりつっこむジョー。
「所で、俺の話しはないか?」
アキオが真顔で、男に近づく。
「え? あの、ど、どういう意味でしようか。」
「だーかーらー、このアキオ様の噂とかは無いのかよ」
「あ、いや~、あのぉ~全然無いっス」
「ムムムッ……」
「いや、あのぉ、そ、そうですね、いつも一緒に付いてる舎弟がいると聞きまし――ギャッ!!!」
ジョーより格下扱いを受けて、怒ったアキオが、男の股間をぶん殴った。遂に男が泡を噴いて気を失った。
「だ、誰が舎弟じゃっ!!」
その時ジョーは、やはりアキオの金的はやはり必殺技だったなと確信した。