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0. プロローグ

『A.R.ジョー Goggles in to the Absolute World』



プロローグ


 

 常闇の彼方より大いなる波動を放ちながら巨大な彗星が進んで行く。生命の欠片も無い、無限に等しい虚空をただ一直線に『約束の地』を目指し……星。


 『妖星ニーブル』


 人はこの星を『伝説の凶星』『滅びの惑星』と呼び、かつて多くの文明で言い伝えられてきた。

 3600年のという永き軌道を描き、遥かな『空』より太陽系を廻り、地球の生態系に大きく影響を与えてきた。

 栄ある種に滅を告げ、幼き種には新たな進化を与える……。 

 伝説の星は、地球を操る神の振いしトロシアの杖。

 そして、その『妖星ニーブル』が再び地球に近付いて来た。

 宇宙の法則に従い、次なる時代の歯車を動かす為に。

 それは人類の進化なのか、それとも次なる種の始まりなのか、運命は地球に新たな変化を与えてきた。

 

 


1874年

ドイツ ヘッセン


 深夜、城の西側にある螺旋の回廊を2つのローブ姿の影が駆け上がって行った。

 回廊内は、古く傷んだ花崗岩の階段が上方まで巡り、途中の明かり取りの小窓からは、ばしゃばしゃと強く石畳を叩く強い雨音が聞こえていた。

その音に交じり、時折り耳を裂く様な雷鳴と、眩む様な光が時廊内に入り込む。

閃光は、古城に足音もたてず回廊を駆け上がる魍魎の影二つを、ざらついた壁に浮き上がらせてゆく……。


「……」

 

 やがて影達は回廊を登りきり、さらに廊下の奥に進む。

 正面突当りの豪華に装飾された一枚の朱色扉の前で影達が止まった。

 辺りを窺い互いに眼で合図を送ると、ローブの袖口から20cm程のニードルナイフを取り出した。

 彼らは雨に紛れて現れた暗殺者達であった。

 この扉の向こうにいる者を狙っているのだ。

 

 彼らは微かな衣擦れの音だけで部屋に忍び込んで行った。

 無駄がなく手慣れた動きだ。

 部屋の間取りを把握しているのだろう、一直線に部屋の奥にある寝室に向かい、そして、この豊な装飾品が並ぶ部屋の主であろう者が寝るベッドに、ナイフを突き立てた――。


「「!?」」


 その手応えに違和感を感じ、咄嗟に暗殺者達は身を低くくして辺りを見回す。

 すると、暗殺者達が入って来た扉横の暗がりから一人の男が現れた。


「わざわざヘッセンまで追って来るのはパヴァリアの者かと思っていたが、まさかヴァチカンの犬とはね。」


 現れた男は、見た目20代後半見える。この時代には珍しくオールバックに綺麗に刈り揃えられた髭を蓄えた、端正な顔の紳士だ。


「敵の敵は味方なワケか……なる程。しかし良いのかね? ここで結んだ縁は後世まで影響力を及ぼす。この行いが、ヴァチカンの名を愚者の列の先頭に成す事になるぞ。彼もさぞかし嘆くだろう、パウロ含め後世の弟子達には恵まれないからな。」

「サン・ジェルマンッ!」

「かく言う私も、その彼の不肖の弟子の一人でもあるから、ヒトのことは言えないがね、ハハハ――」


 サン・ジェルマン伯爵

 18世紀のフランスに実在した謎の男。

 ダイヤや宝石を作り出す錬金術を持ち、6ヶ国以上の言葉をたしなむ。巧みな話術で社交界の貴婦人達を魅了、ルイ14世からの信頼もあつく、あのカサノバやカリオストロ伯爵からの支持を受ける。

 マリーアントワネットに書簡を送り、フランス革命を告げたとも言われる。

 その男が、ここドイツ、ヘッセンに潜伏していた。


 伯爵は、そのまま暗殺者達と距離を取りながら、窓の近くに移動する。


「せっかくドイツまで来てもらって悪いが、既に『十義の幻想プラウェル・コード』の準備は出来た。後は彼が来ればコチラ側は全て完了だ」


 シッ!


 暗殺者の一人が切りかかる、その時。


 キンッ!


「不作法窮まりないですな……」


 外の稲妻によって、時おり映し出される伯爵の影が有る床から、ぬうっと浮き上がる様にインバネス姿の初老男が現れ、男達のナイフを右手の平で受けてた。

 剣先はその手に止められ、貫通することも、出血する事もない。

 初老の男の右手は白い手袋を着けているだけだった。


「すまないね、メルエル」

「恐れ入ります。」


 メルエルと呼ばれた初老の男は、伯爵を背に、暗殺者達の前に立ちふさがった。


「伯爵様、そろそろお仕度を――」

「ん? そんな時間か、では暗殺者諸君、私はそろそろ失礼させてもらうよ――」


 出した懐中時計に眼をこらし、おもむろに窓を開ける。


「――こちらでの用事はすっかり済んだからね。」


 暗殺者達はなんとか近づこうとするが、メルエルと呼ばれた男が邪魔をして、ナイフの刃をサン・ジェルマン伯爵に届かせる事が出来ない。


「それから、約束だからコレを置いて行く」


 伯爵は、どこかともなく林檎くらいの大きさの水晶玉を取り出し、窓近くにある樫ノ木に金細工をあしらったテーブルの上に丁寧に置いた。


「この地球儀が座標を示す時、それは君達側の始まりを告げる合図だ。それまでにしっかり準備をしておくがいい…」


 地球儀と呼ばれた水晶玉は、青白い放電とともに中で細かい砂がくるくると渦を巻いて回っている不思議な玉だ。


「そうそう、アデマール夫人に宜しく伝えといてくれたまえ。7月の晩餐会はとても楽しめたと、フハハハハ――――ッ!」


 高らかな笑い声と供に、伯爵と初老の男は、雨の降る暗い窓の外に飛び出した。

 その瞬間、稲妻が激しく鳴り、飛び出した二人の身体を直撃した。

 爆発したかと思うほど、眼も焼くほどの光と轟音が辺りを包み、その衝撃に暗殺者達も咄嗟に身を伏せた――。



 しばらくして光と音が消え、また雨音だけが外から聞こえて来る。

 暗殺者達は、戸惑いと怯えつつ窓の下を見た。

 すると伯爵達が飛んだ辺りの地面に、煤けた黒色の塊ができていた。

 気付けば雷鳴は遠くなり、雨は小降りになっていた。


「――死んだ?」


 暗殺者達は、この後、どの様にここで起きた事を主に報告をしようかと考え、雨の中睨むようにその塊を眺ていた。






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