I am LILI
もしかして、まさか……
そう思った頃には、鉄くずはもう目前を猛スピードで通過していて、そこからは何もかもが、スローモーションのように感じられた。
敷地の前の排水溝をもろともせず、駆け抜け小さく浮遊したように見えた鉄くずは、さっきまでとほぼ据え置きの勢いで雪原に突っ込んだ。サスペンションをきしませ、暴れ回りながら直線を突き進んでいる。
そのまま、女の身体をサンドイッチの具のようにべこべこと潰しながら、また先、コンクリートの壁に思い切り激突した。
耳をつんざくような、ひどい衝突音が響いたと思うと、それからあたりはいやに静かになった。
むろんその事故を、僕含め数人が目撃したけど、誰も口を開くことはしなかった。ただ、静かに事故現場を眺めていた。
事故現場もまた静かだった。鉄くずはフロントまわりの欠損がひどく、ピラーがYシャツの皺みたいに歪んでいる。文字どおりスクラップだった。
コンクリートの壁には、それなりに厚さのある、放射状のヒビが大きく入っていた。中心は深く陥没している。
そして鉄くずのボンネットにすがりつくようにして、女は立っていた。いまだ整ったままの顔は感情を映すことなく、瞼だけを薄く見開いている。




