Just a hero
……
僕の思考は遠心力を増すいっぽうだったけど、それは後ろの方から聞こえる、どこか締まりのないエンジンの排気音でいったん中断された。
スバル社のサンバー。振り向いてみるとそれは、なんてことのないただの軽トラックであった。煤けて、灰色がかったその車体は、欠伸の出そうな速度で、大通りのほうからこちらへ向かっている。
そうとう年期の入った、ぼろい車らしい。よく見ると、ヘッドライトのカバーは経年劣化で黄ばみ、樹脂製のバンパーにも、雨跡をなぞるような形の色落ちができていた。
僕はそんな情けないがらくたを尻目に、いったんは大きく深く、長いため息をついたが、その後にすぐ、そいつがとんでもない真似をしようとしていることに気づいた。
小路に入ったというのに、やけに加速している。もう欠伸を挟む間はなさそうだ。運転手が気を失っているのだろうか。
そしてその高いスピードで、僕の方に向かってきていた。やはりこいつはもう、ただ直進する鉄くずのようで、路肩の金網にミラーを擦りつけているのもかまわず、まっすぐ向かってくることだけをしている。
女のほうを見る。もう雪原から出ようとしていて、この事態にはまだ気づいていない。




