九
キュー
闇の中でテレビ画面が消えたあと
急に視界がぐわっと開けて明るい場所に立っていた
でもそこは普段見てる駅ちゃう
薄い霧が漂って人影はひとつも無い
なのにホームのスピーカーだけがザザザと音を立てていた
ここどこや
駅名の看板には文字が一切書かれてへん
白い板がぶら下がってるだけで気味悪いほど静かやった
電車の音がしたような気がして振り返った
でも線路は無かった
まっすぐ続くはずのレールが途中からすっぱり切れて深い穴になっていた
落ちたらどこまで行くか分からん
それ見た瞬間背中に汗がじわっと流れた
嫌な空気が漂っている
するとスピーカーから声が流れた
乗り遅れたな
急に聞こえたその声に足がすくむ
電気のノイズ混じりで性別も分からん
俺は無意識に返事していた
どこ行きの電車やったんや
その質問をした瞬間空気がぴたりと止まった
次の電車は来ない
声が淡々と告げる
ここは出口が無い
入るだけの場所や
駅として終わっとる
背筋がぞわっとした
出口が無いってどういうことや
来た道を振り返ってもパッと見知らん壁がそびえていて
さっきまで乗ってた電車の扉も何も無い
ただ鉄の壁に閉じ込められたみたいに行き止まりが続くだけやった
怖さに耐えきれず叫んだ
おい 誰がおんねん
返事しろ
頼むから出してくれ
けどスピーカーの声は低く笑っただけや
出る?
お前もう読んだんやろ
夢乃本を
そのページから戻るためには代わりを置いていかなあかん
代わりってなんや
人か
物か
命か
踏切の警報機みたいな不気味なリズムが鳴り始めた
ギィン ギィン ギィン
線路が無いのに音だけが鳴り響いて
ホーム全体が震えだした
前を見たら霧の向こうから誰か歩いてきた
輪郭だけ分かる
人の形に見えるけど影がゆらゆら揺れている
まるで生きてるのに影だけ別の生き物みたいに蠢いていた
そいつがホームの真ん中まで来たとき
影がちぎれて俺の方へ伸びてきた
冷たい
心臓に触られたみたいに冷たい
触れた場所から力が抜けていく
帰りたいか
スピーカーの声がまた聞こえる
代わりを差し出すなら帰れるで
影はどんどん俺の足元に絡みついてくる
引きずり込まれる
選べってことなんか
代わりを……
そこで急に視界が白くなった
ホームの霧が一気に吹き飛んで
何かが俺の腕を掴んだ感触がした
おい
戻ってこい
目を覚ませ
声が聞こえた瞬間
その影が裂けるように消えていった
気づけば電車の中やった
目の前で見知らんおっちゃんが俺の肩を揺すっている
寝落ちしとったで
大丈夫か
駅のホームの冷気がまだ足に残ってる
夢やったんか
ほんまにそうなんか
スマホを見ると画面に知らんアプリが一つ増えていた
アイコンには黒い駅名板
アプリ名はこう書かれていた
夢乃本 九ページ目
キュー
ページ




