七
七
足元がぐらっと揺れた思たら
気付いた時にはもう 廊下の真ん中に立っとった
中学ん時のまんまの古びた床
ワックスの匂い
夕方のチャイムの残り香みたいなんが漂っとる
なんでや
なんで戻ってきとんねん
胸の奥がざわざわする
ふと前を見たら
おった
自分や
当時の自分が
背中丸めてゆっくり歩いとる
いやや
あの時の自分なんか見たない
けど目ぇ逸らされへん
そん時や
廊下の奥から “ずるっ…ずるっ…” て
靴引きずるみたいな音が聞こえてきた
来よった
影が
あの黒いやつが
腕は異様に長くて
首は横んほうへぐにゃって折れとって
顔なんか最初から無いみたいや
当時の自分はそれに気付かんまま歩いてる
ほんま見てて胸苦しなる
おい
振り向け
気付いてくれ
心ん中で叫んでも届かん
その影は
子どもの自分の背中に手ぇ伸ばして
すぐそこまで来とる
触られる
そう思た瞬間
後ろから少女の声が響いた
「逃げられへんよ
あれは君の影やからね」
振り返ったら
少女は廊下の真ん中に立って
薄い笑み浮かべてこっち見とる
目の奥が空っぽみたいで怖い
「観なあかん記憶は
必ず戻ってくるんや」
少女が手ぇ伸ばした瞬間
影が子どもの自分に触れた
冷気が廊下を走り抜け
視界がぐにゃって歪む
聞こえた
あの声や
やあ 僕だよ
どこから聞こえてんのか分からん
壁の中か
床の下か
それとも自分の内側からか
廊下の蛍光灯がぱちぱち瞬きはじめて
影がゆっくりとこっちへ向き直った
顔の無いはずのその影が
笑っとる気がした
読みは…
なんだっけ?




