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夢乃本  作者: マーたん


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4/15

あの時の事を

慧斗は放課後の町を歩きながら

胸の奥に張り付いた不快な鼓動を押し下げていた

鍵を握る右手は汗で湿り

ポケットの中で冷たいはずの金属が

やけに熱を帯びて脈動しているように感じられた


降り始めた小雨が

町を薄い膜で覆っていく

家々の窓は早くも灯りがともり

人の気配はあるのに

妙に沈黙が濃く

誰かが見ているような気配だけが

背後にまとわりついた


歩いているうちに

見覚えのない住宅街に迷い込んでいることに気付く

知らないはずなのに

どこかで見たような

悪夢の中で通ったことがあるような

そんな既視感が足首に絡み付いて離れない


その時

ふと視界の端に一軒の家が浮かんだ

古い木造の家

二階の窓は破けた障子が風に揺れ

玄関の扉は半分だけ開いており

人が出て行った直後のようにも

長く放置された空き家のようにも見える


だが何より

慧斗の足を止めたのは

玄関のすぐ横

濡れた郵便受けの上に置かれていた

一冊の本だった


表紙は深い灰色

タイトルはなく

ただ中央に薄い銀色の模様が刻まれている

その模様は

慧斗の握る鍵の刻印と

まったく同じ形をしていた


喉が鳴った

この家のどこかに

少女の記憶に映った“もうひとつの影”の正体が

あるような予感がした

いや

それよりも強く

その本自体が

慧斗を呼んでいるように思えてならなかった


手を伸ばす

雨粒が表紙に落ち

じわりと黒色を広げる

指先が触れた瞬間

視界が歪み始めた


家の奥で

ぎい

ゆっくりと何かが開く音がした

玄関の扉ではない

もっと奥

この家の内側に

もう一枚

隠された扉があった


やあ


背後から声がした

振り返っても誰もいない

だが声は確かにそこにあり

耳ではなく

頭の内側に直接響いた


君は何を観る


本の銀色の模様が

まるで呼吸するように脈打つ

開けば戻れない

閉じても逃げられない

その問いは

慧斗だけではなく

本を手にしたすべての者に向けられた言葉のように思えた


胸がゆっくりと沈んでいく

足は扉の方へ動き始める

家の奥の暗闇で

誰かがこちらを見つめていた

少女とは違う

もっと古く

もっと深く

この家に棲みつく何かが


鍵を握る手が熱を帯び

本が微かに開きかけた

慧斗は息をのむ


師の扉は

誰にでも開くわけではない

それでも

選ばれた者は

必ずそこへ辿り着く

たとえ望んでいなくても

記憶を辿る

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