三
この章では慧斗が初めて
自分の意志でサイコメトリを行おうとします
だが触れた瞬間に広がるのは
求めた真実ではなく
少女の死がまとわりつくような異音の連続
句点無しの流れは
逃げ場のない恐怖を意図的に増幅しています
慧斗は鍵を握ったまま
ひどく乾いた喉を押さえていた
教室の灯りは戻ったはずなのに
視界の端はまだ白い残像をちらつかせ
少女の涙の形だけが
ぼんやりと胸の奥にへばりついていた
鍵は古い真鍮で
擦り減った刻印が指先に触れるたび
微かなざらつきが脈打つように響く
放り投げたいのに
指は離れず
まるで鍵の方が
慧斗の手にしがみついているようだった
放課後の廊下は
誰もいないはずなのに
靴音がひとつ
遠く
そして近く
リズムの壊れた心臓のように続いている
振り向くと
空の廊下が広がるだけで
人影はどこにもなかった
慧斗は恐怖をごまかすように
鍵を胸の位置まで持ち上げ
深く息を吸った
この鍵が落ちていた場所
教室二階二組
少女の影が現れた位置
すべてがつながっていると感じた
ゆっくりと鍵に意識を集中させる
指先の感覚が薄れ
代わりに
ざらりとした闇の手触りが
皮膚越しに入り込んでくる
脳の奥で
金属が沈むような音が鳴った
がちゃん
がちゃん
落ちて
落ちて
どこにも届かない音
そこに突然
映像が割り込む
暗い階段
倒れた少女
伸ばされた誰かの手
しかしその手の主の顔だけが
墨で塗りつぶしたように黒く
目も口も輪郭すら揺れたまま
判別できない
少女の視界が揺れる
呼吸は荒く
助けを求めるようにその手を掴もうとするが
指先が触れた瞬間
その手は霧のように崩れ
少女は再び闇に落ちていく
慧斗の胸を
冷たいものが走り抜けた
記憶が切れたかと思った瞬間
もうひとつの音が響く
からん
床に金属が転がる音
階段の陰に沈む鍵
しかし慧斗の手には
まだ握ったままの鍵がある
二つある
どちらが本物なのか
それともどちらも本物なのか
答えは闇に潜んだまま
ただひとつ分かるのは
少女の死には
もう一人
この学校にいる誰かが
深く関わっているということだった
慧斗は震える息を吐いた
廊下の奥から
また靴音が響く
今度は
ひとつだけではなく
二つ
少女の死の“もう一人の関与者”をほのめかすため
記憶の中に曖昧な黒い人物を入れています
句点無しの構成により
鍵が落ちる音や靴音が
途切れずつながっていくように演出しました
次話では
その人物の正体にさらに近づく展開が可能です




