二
この章では主人公の力が本格的に発動しはじめ
触れたものから流れ込む他人の“記憶の残滓”が
まだ制御できないまま暴走していきます
文章は世界の息が止まったような息苦しさを出すため
句点を使わず流れる悪夢のように続きます
夜の教室は湿った匂いに満ちていた
蛍光灯は半分だけが点り
残りは何かに怯えるように明滅を繰り返している
慧斗は床に落ちていた古い鍵を拾い上げ
掌に乗せた瞬間
また来たと悟った
冷たさが皮膚を這い
筋肉の奥まで染み込み
それはただの温度ではなく
誰かが残した
かすかな震えそのものだった
耳の奥で
少女の息が引きずられる
か細い叫びが
引きちぎられた布のように聞こえてくる
教室の中央に置かれたはずの机の影が
形を変え
人の輪郭のように滲み
慧斗を見つめて動かない
その影は声もなく訴えてくる
助けてという響きでもなく
怨みという明瞭な感情でもなく
もっと底深い
名もない痛み
慧斗は息を飲もうとしたが
胸が固く閉じたまま開かない
指先は鍵に吸い付いたように離れず
脳裏に誰かの視界が割り込む
暗い階段
押し殺した足音
追いかけてくる重い靴の響き
赤いスカートの裾
振り返る間もなく落ちていく感覚
衝撃
そして途切れた鼓動
慧斗は自分の身体が崩れ落ちるのを感じていた
しかし視界は誰かの記憶のまま
地面に触れた頬の冷たさが
なぜか自分の体温より鮮明だった
教室の闇がゆっくりと広がり
床も壁も
すべてが同じ影の色に沈んでいく
そこに
あの少女の輪郭が立っていた
ぼやけた顔の中心に
かすかに残った涙の形だけが
やけに白く
慧斗の方へ流れて来ようとしていた
逃げられない
逃げ方すら思い出せない
それでも影はそっと手を伸ばし
慧斗の頬に触れようとした
その指先が触れた瞬間
慧斗の視界は白く弾け
次の瞬間
教室の蛍光灯が一斉に点った
あの影は消えていた
しかし慧斗の掌には
少女の涙の温度が
まだ残っていた
サイコメトラとしての能力が
恐怖として具体化していく最初の段階を描きました
句点無しで構成することで
記憶に飲まれる感覚を途切れなく流すように表現しています
次は少女の正体と
鍵が示す場所へ物語が進んでいきます




