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夢乃本  作者: マーたん


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11/15

十一

今回からホラー描写を強めています。

「夢乃本」が“読者の影”を食べ始める段階。

読んだ瞬間、あなたの背中の奥がスッ…と冷たくなるような話にしています。

影が薄くなっていく──そんな感覚が一週間ほど前から続いていた。


電車に揺られながらスマホを見ていると、画面の端を黒い線のようなものが横切った。

指で払っても消えない。

その黒い線は、まるで“誰かの指”がスマホの裏から触れているようだった。


「……またかよ」


ため息をついた瞬間、車内のざわめきがスッ…と消えた。


周りを見た。


誰もいない。


いや、正確には──


人の影だけが残っている。


座席にも、つり革の下にも、人影が揺れているのに、肝心の“人”の姿が見えない。


「おーい……?」


声を出すと、影たちが一斉にこちらを向いた。


その中のひとつが、ゆっくりと立ち上がる。


影なのに、足音がした。


カツ…カツ…と、乾いた音が反響する。


「やあ」


影の形が“誰か”の姿に盛り上がり、輪郭が浮かび、

その中心に、黒い穴のような“顔の空洞”が開いた。


「やあ……ボクだよ」


耳の奥で聞いたあの声。

画面越しに囁いてきた、あの、正体不明のやつ。


「お前……何なんだよ」


返事の代わりに、影は胸のあたりから細長い紙片を引き抜いた。

“本の栞”に見えた。

その紙には、黒いインクで何かが書かれている。


『読め』


声ではなく、頭の中に直接流れ込む音。


知らず知らずのうちに、手が動く。

影が差し出した栞をつかんでしまった。


──その瞬間。


栞から黒い文字が飛び散り、

胸の奥に染み込むように消えていった。


心臓がドクン、と大きく跳ねる。


車内の影たちが、いっせいにささやいた。


「読んだ……」

「読んだ……」

「読んでしまったね……」


栞の最後の一文字が、ゆっくりと音を立てて動いた。


『キエロ』


次の瞬間──


視界の端から、自分の影がゆっくりと濃くなり、

足元から、“何か”が這い出してくる。


それは、自分と同じ形をした“黒い自分”。


影が笑った。


「ボクだよ。

 やっと……入れかわる準備ができたね」


黒い自分が、こちらの足首を掴んだ。


触れられただけで、血が凍るような冷たさが走る。


「待て……!いやだ、まだ死にたくない!」


叫んだ瞬間、車内のアナウンスが流れた。


『次は──最終ページ。最終ページです』


電車が止まる。


扉が開く。


真っ暗な、底の見えない“ページの向こう側”が広がっていた。


影が囁く。


「さあ。読書の時間だよ」


自分の影が、ゆっくりとこちらを引きずり込もうとする。


足元から黒い文字が身体を這い上がり、

視界がインクに沈んでいく。


最後に見えたのは、真っ暗な扉だった。


扉には、たった一行だけ文字が刻まれていた。


『つづきを、書くのは君だ。』

影=読者の“もう一人の自分”というテーマで書きました。

ホラーを強めるため、音・影・空間の食い違いを増やしています。

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